第129話 戦法

 自力飛行による空中格闘戦スタイルの者と、空中騎乗物・空亀に乗っての他力飛行による空中騎馬戦スタイルの敵役が対戦する地稽古、その初回の組みあわせは以下のとおりだった。



自力:アキラ

他力:サラリィ


自力:エメロード

他力:セイネ


自力:アルフレート

他力:オルジフ



終了しゅーりょー! そして、集合しゅーごー! みんなー、下に集まってー!』



 サラサラリィが全員に呼びかける。


 地稽古は制限時間1本5分、終わったら相手を変えて再開という流れだが、1本が終わったらすぐ次というわけではない。そのあいだに、各人が地稽古をとおして得た気づきを報告しあう。


 6人はギアナ高地の上空から、集合場所だった地上のテーブルマウンテン頂上の森の開けた地に戻り、再び焚火を囲んだ。


 コーチ役のサラが場を仕切る。



「ではでは、まずは 〔空中格闘戦スタイルから空中騎馬戦スタイルに対して有効な戦法〕 について気づいたことをチームごとに報告しあおっか。やったほう、やられたほう、どっちも意見を出してね」


「「「はい」」」

「承知!」「おう」


「じゃ、あたしと少年のチームからね。さ、少年。発表して」


「えっ⁉ あっ、はい‼」



 急に話を振られ、アキラは心拍数が上がった。


 こういう人前でなにかを発表するのは苦手だ。


 一昨日の集会ではこれとは比べものにならない人数を前にして発表するという難関を乗りこえたアキラだが、それですぐに耐性がついたりはしていない。


 いったん深呼吸し──



「ボクが試してみて有効と思った、サラさんも有効だと言ってくださった戦法は、〔敵の下から武器を投げる〕 です。相手は乗ってる騎乗物が視界をさえぎって下が死角になります。そこにもぐりこんで攻撃するわけですが、相手と離れすぎてしまってそのままでは近接武器が届かないので、剣を投げました」


「あれには参ったよ。全く反応できなかった。見失った直後だったから、少年が剣を投げたことにも気づかなくてさ」


「でも、当たったのは最初の1回だけで、あとは全部よけられました……」


「2回目以降は、来る攻撃が分かってるからね。下にもぐりこまれたら即座に横に回避運動するようにしたんだ。でも心構えのできてない初見の相手にはかなり効くよ。同好会のほうがこの戦法に気づかないことを祈るばかりだね」


「ですね……あと当然ですが武器を投げちゃうので、その一撃で仕留めそこなったら以降は素手で闘う羽目になります。そこは注意しないとですね……ボクからは以上です」


「あたしからはあと1つ! この戦法には他にも有効な要素がある。それは 〔対戦相手本人ではなく、その騎乗物を狙う〕 ってトコ! 今回のあたしたちは他力飛行組も飛行マントとサンダルつけてるけど、決闘本番での同好会の選手は自力飛行禁止だから。騎乗物を失ったら墜落死で負けになる」


「将を射んと欲すればまず馬を射よ、でござるな」


「そうそう、ソレ!」



 エルフ侍のアルアルフレートが侍らしいことわざでたとえ、サラがうなずく。それを見ながら、アキラは自分の説明が不足していてサラに補足させてしまったことを申しわけなく感じた。


 相手は騎乗物を失えば終わりだから攻撃するのは本人でなく騎乗物でもいい──アキラもそれは分かっていて、だから下からサラの空亀を狙った。


 それは説明するまでもないことだと思ってしまった。


 だが、この場にいる全員が分かっているかを確認したわけではない。ただの思いこみ。中には騎乗物へ攻撃する発想のなかった者もいたかもしれない。


 その認識のまま闘うのと、それを改めて闘うのとでは大違いだろう。サラの指摘で全員が確実にその視点を持てた。


 この場の全員でノウハウを開発して共有する、というこの特訓の主旨のためにどうすべきかをサラは自分以上に理解して実践してくれている。アキラは頼もしく思った。



「ではお次、エメっちアンドバニーちゃんペア!」


「はーい! わたしが試した戦法は 〔相手を騎乗物から叩きおとす〕 よ! 相手は落ちたら死ぬので! でもそっか、騎乗物を破壊しても同じ結果になるのね。勉強になったわ!」



 〔エメっち〕ことアキラの母エメロードが元気に答える。


 一方、〔バニーちゃん〕 ことセイネはげんなりしていた。



「わたしは、それをやられたほうですが……空亀から落とそうとしてくるのはもちろん、そのためにエメロードさんが空亀に乗ってきたのがイヤでしたね」


「ああ、そのこと。ええ、交差する一瞬だけだと攻撃機会が少ないじゃない? 面倒だからセイネさんの空亀に上がりこんで、セイネさんを掴んで 〔ぽーい〕 って」


「空亀は1人用ですが、無理すれば2人乗るスペースはありますからね。もちろん、そんな密着した状態じゃ武器は使えません。でもエメロードさんは初めから無手だったので、わたしが武器を捨てる前に組みつかれて。投げ捨てられました」



 母は空中格闘戦でも武器を使わない。


 研究会を発足する前の会話でも言っていた。空中格闘戦を磨きたいのは、愛機アドニスによる近接攻撃オプションで斥力場をまとった拳で殴りつける 〔ピンポイントバリアパンチ〕 を使いたいからだと。


 その母の徒手空拳の空中格闘戦スタイルは、殴る蹴るのような打撃だけが攻撃ではない。相手を掴んでの投げ技も可能だ。


 相手が自分と同じく自力飛行している場合は投げても空中で体勢を立てなおされてしまうが、他力飛行している相手なら騎乗物から落として終わり。


 極めて有効と言える。


 この発表も自分たちの時と同じく、エメロードの説明不足をセイネが補う形だった。アキラは母が自分と同じミスをしていることに嬉しかったり恥ずかしかったり複雑な気分を味わい、それをフォローしてくれた親友セイネには改めて 〔さすがIQ150〕 と思った。



「では最後。お侍さんとびとさんペア!」


「拙者の試した戦法は 〔相手の左から後ろにかけての範囲に回りこんで攻撃する〕 でござった」


「そこは右利きの人間には手を出しにくく攻撃も防御もしづれぇ。騎乗物に乗ってて素早い方向転換できない時は特にな。昔から騎兵相手の戦いで使われてきた古典的な手だ。面白くもねぇ」



 お侍さん──エルフ侍のアルアルフレートが発表し。


 小人さん──ドワーフ鍛冶師のオルオルジフが毒づく。


 オルに対してだけ敬語が抜けるアルが声を荒げた。



「面白くなくて悪かったな⁉」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る