第128話 死角
特訓が始まった。
テーブルマウンテンの頂上から夜空に飛びあがったアキラたち6人は全員、正体を隠す 〔隠密マント〕 で体を覆い、その下には自力飛行が可能になる 〔飛行マント〕〔飛行サンダル〕、そして夜目が利くようになる 〔暗視ゴーグル〕 を着用している。
ゴーグルは各自ここに来る前に購入した。
6人中3人は飛行マントと飛行サンダルで自力飛行しており、もう3人は人間が1人乗るのにちょうどいいサイズの 〔空亀〕 に乗って他力飛行していた。
この空亀は生きものではあるが扱いは
空亀に乗っている3人も飛行マントと飛行サンダルは着用しているのは、訓練中に空亀から落ちても地面に激突する前に空亀の背に自力で戻れるようにするため。
アキラは自力飛行している1人だった。
6人は対戦する自力飛行者と他力飛行者による2人組を3つ作り、組ごとに散開して距離を取り。それぞれ自力飛行者は空中格闘戦スタイルで、他力飛行者は空中騎馬戦スタイルで自由に攻撃しあう
アキラの相手の他力飛行者は、サラだ。
6人で唯一の空中騎馬戦同好会の会員。当然、空中騎馬戦スタイルでは6人中、最強。空中格闘戦スタイルで空中騎馬戦スタイルに勝つ力を養うこの特訓の目的において最上の練習相手。
地稽古はずっと同じ相手とやるのではなく一定時間が経ったら相手を交換するが、1回目から良い相手と当たれて幸先がいい。相手を決める時にサラから 〔一緒にやろ♪〕 と誘ってもらえたのが、ありがたかった。
サラは空中で
『さぁ少年! どっからでもかかってこい‼』
「それではお言葉に甘えて──行きますッ‼」
ビュッ‼
サラと距離を置いて向かいあい、自力飛行で静止飛行していたアキラは背中の鞘から剣を抜き、飛行マントと飛行サンダルから噴射する風の力を
『こっちも行くよ‼』
バッ‼
サラも空亀を前進させ、真っすぐこちらに向かってきた。向こうも全速力ではない。ということは、こちらと同じことを考えているのかもしれない。
アキラが 〔直前急加速〕を知ったのは空中格闘戦の技としてだが、その理論は使用者が自力飛行しているか他力飛行しているかは関係ない。空中騎馬戦同好会でも同様の技を開発していても不思議ではない。
なら、どうする──
(よしッ!)
ガクッ‼
アキラは空中で前傾し、ちょうど野球のフォークボールのように、前進しながら急降下した──サラと接触する
『下⁉』
(どっからでもって言いましたよね!)
サラが直前急加速するつもりだったとして、それより早くこちらが動いたことで虚を突けただろうか。サラの乗る空亀の動きに変化はない。
そのまま前進したサラの真下へと、アキラはもぐりこむ形になった。頭上にサラの乗る空亀の腹甲が見える──この、瞬間に!
ギュンッ‼
アキラは飛行マントから噴かせる風の出力を調整する左右のスティックのトリガーの内、右は限界まで引きしぼったまま、左は0まで緩めた。
それによって背中の左右2ヶ所にある噴射位置の内、左側の風がとまり、右側の風が強く噴いたことで、アキラの体が急激に反時計回り↺にスピンする。この回転に合わせて剣を振るのが──
〔回転斬り〕
集会でアキラ自身が発表、実演した技。今回はそれに加えて、回転で勢いのついた剣を──手放す!
ガイーンッ‼
『当てられた⁉』
回転しながら飛んでいった剣は、空亀の腹甲に弾かれた。
空亀にダメージはない。
弾かれた剣が、重力に引かれて落ちていく。アキラは頭を下に向けて急降下してそれを追い、剣が地面に落ちる前になんとか空中でキャッチした。
「ふぅ」
「お見事!」
アキラが体を起こして飛行サンダルを履く足から下方へ風を噴射してブレーキをかけて、地面に墜落する前に静止して一息ついた時、空亀に乗ったサラがもうすぐ横に来ていた。
「どうでした? 今の攻撃」
「良かったよ! うん、これは使えるね。あとでみんなと共有しよう」
「あ、ありがとうございます‼」
素直な称賛を受け、アキラは胸が熱くなった。
「下にもぐりこんでも剣なんか届かないだろって思っちゃったんだよね。投げてくるとは読めなかった。しっかし、よく当てたね。いいコントロールだ。投げる練習してた?」
「はい。空中格闘の自主練で」
「そっかそっか! 偉いぞ!」
稽古の前、サラは言った。空中格闘戦スタイルで空中騎馬戦スタイルの相手と闘うためには、自身が騎馬戦スタイルで敵役を務めることも役に立つ。そうすれば敵の視点でされて嫌なことに気づけるだろう、と。
だが、自分が騎馬戦スタイル役でない今でも、敵がされて嫌なことを想像することはできる。それでアキラが思いついたのが今の戦法だった。
空亀──空中騎乗物に乗っている時は下方が死角になる。他でもない騎乗物が視線を遮り、その向こうが見えない。だから下には攻撃しづらいし、下からの攻撃は見えなくて反応できない。
その弱点を突いた。
だが問題もあった。
近接武器が届くほど、敵のすぐ下にもぐりこむのは難しい。どうしても下がりすぎて敵から遠ざかり、武器が届かなくなってしまう。
改めて届く位置まで上昇しようにも、そうしている内に敵とすれちがってしまう。だから敵と離れたまま近接武器で攻撃する、つまり武器を投げてぶつけることが、敵の下にもぐりこんでからの攻撃の最適解となる。
そうは言っても高速ですれちがう敵に投げた武器を当てるのも簡単ではない。それを成しえたのがアキラの日頃の練習の成果であり、そのことをサラは絶賛してくれたのだった。
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