第102話 反応

 セイネ=網彦あみひこについて秘密の共有がなされたあとアキラと両親との会話は、両親の空中チャンバラに対する興味へと移った。


 父は──



「研究会に出席できるかは日程によるけど、ぜひしたいね。それとは別に普段の仲間内での会話とかでも空中チャンバラについての意見交換はしようと思う。アキラがこの話を持ってきてくれなかったら、そう思いつくこともなかった。ありがとう」



 母は──



「わたしもよ。あ、チャンバラって言ってるけど、つるぎじゃなくてこぶしでの空中戦も含んでるわよね。上手くなりたいけど、どうしたらいいか分からなくて困ってたの」



 ──と。


 2人とも、アキラの想像以上にこの話題に積極的だった。空中チャンバラの腕を磨きたくても環境がなくて困っている人は一定数いるはずだという網彦セイネの見立ては正しかった。


 さすがIQ150の天才。



「よかった。空中チャンバラなんて気にしてるのボクたちだけだったらどうしようって、ちょっと不安だったんだ」


「そこは網彦くんの言ったとおりさ。ぼくもフーリガンに乗ってやりたいことの上位に 〔ビームサーベル同士のチャンバラ〕 があったけど全然できてない」


「ぼやいてたわよね、あなた」


「うん。空中に限らず地上でもなんだけど。同じ武器を持った敵としか成立しないし、そういう敵と会えても射撃戦でケリがついちゃったりして、なかなかね」


「そうだったんだ」



 父もそれで悩んでいたとは考えもしなかった。


 先日、アキラは甲府での任務ミッションで、父の駆るMWモバイルウォーリアフーリガンがビームサーベルで敵のMWを両断するところを見ている。


 それで単純に 〔父はビームサーベルの扱いにも長じている〕 と早合点してしまっていたが、事はそう単純ではないのだ。


 その時だって敵のMWがビームサーベルを抜いて父のフーリガンと剣を交えたわけではなく、フーリガンが一方的に斬りふせただけ。


 それをチャンバラとは呼ばない。


 剣道のように 〔お互い剣と剣で〕 と武器を限定してではない、なんでもありの戦いの中で偶発的にチャンバラと呼べる状況になること自体が稀。


 それでは戦闘を通じて経験を積むこともできない。ならプレイヤー同士 〔チャンバラやろうぜ〕 と示しあわせて練習しないと、そのための技量は磨けないが、現在はその環境も整っていない。


 だが──



「これからは一緒に修行しようよ、空中チャンバラ。研究会に限らずさ。お父さんもお母さんも、一緒に遊べる日には」


「そうだね。じゃあ、父さんたちもアキラと網彦くんがサイズを揃えて買うっていう飛行メカ、買ったほうがいいかな」


「そうね。サイズを揃えないとチャンバラって感じにはならないものね。サイズ差戦闘もそれはそれで大事だけど」


「あ、そのことなんだけど」



 アキラと網彦セイネが同サイズの飛行メカを新しく買おうと言っていたのは、サイズの違うメカ同士だと加速性能などが違いすぎ、空中散歩で並んで飛ぶのに不便だから。


 元はそういう話だったが、ドッペルゲンガーに敗れて空中チャンバラを練習しようとなると、そこに新たな意味が加わった。


 母の言うように、空中チャンバラをする上でも互いのサイズは揃えておかないといけない。だから父の 〔2人が買うのと同じサイズの飛行メカを自分も買う〕 という提案は的を射ている。


 ただ──



「買うのは飛行メカじゃなくて、パイロットアバターの装備品で空が飛べるようになる魔法のマントとサンダルしようってことになったんだ」


「そうなんだ。じゃあ、ぼくたちもそれにしようか」


「ええ! 飛行マントは聖骸夫シュラウドのマントの人間サイズって感じ? サンダルはギリシャ神話のタラリアかしら。母さんもそういうの好きよ! 空中チャンバラの練習は飛行メカに乗るんじゃなくて、それを着てやるのね」


「うん。研究会に集まるプレイヤー同士で模擬戦するため、特定のサイズの飛行メカを各員用意するようにってなると、元から持ってる人はいいけど持ってない人は新しく購入しなくちゃいけなくて不公平でしょ?」


「飛行マントとサンダルを元から持ってるって人もいなくはないでしょうけど……あぁ、そっか。人間用の装備だからメカよりずっと安く買えるのか。だからみんなで揃えるのに適してるのね」


「うん。網彦もそう言ってた」


「よく考えてくれているのが実感できて、これからが楽しみになってきたよ。ぼくも空中チャンバラ上手くなって……さて、誰と戦ってみようかな。ドッペルゲンガーはもう倒しちゃったから」


「わたしも~」


「そうだったんだ。やっぱ、射撃で?」


「うん。フーリガン同士、高速で飛びながらの撃ちあい。あれはあれで白熱したけど、途中でビームサーベル抜いて斬りかかるなんて思いつきもしなかったよ。弾切れにでもなれば別だったろうけど」


「わたしも~。ピンポイントバリアパンチ、アドニス同士だと使う暇なかった。空中格闘戦の格好の練習相手と分かってれば倒さずに取っておいたのに~」


「仕方ないさ。空中チャンバラや格闘戦になりやすいエネミーがいないか探しておこう?」


「そうね!」





 翌日。


 アキラは小学校から帰宅してからクロスロードにログインし、グループDMでフレンドたちにも一連の話をした。


 参加者は一緒に蓬莱山で戦った7人から、この時間はログインしていない両親を除いた、アキラ、アルアルフレートオルオルジフ、クライム、サラサラリィの5人。



【アルフレート】

〖素晴らしいでござる、アキラ殿!〗



 いち早くハイテンションで食いついたのは、やはりというか、エルフ侍のアルだった。


 アルはリアルで古流剣術をしており、クロスロードでもアバター操作による剣術をプレイヤーに広める活動をしている。


 その観点からも網彦の 〔プレイヤー全体で空中チャンバラの技術を向上させていこう〕 という考えが評価に値すると分かると、アキラは我がことのように嬉しくなった。


 幸先が良い。



【アキラ】

〖ありがとうございます。それでアルさんには、その研究会で講師をお願いしたいのですが……〗


【アルフレート】

〖申しわけない! 謹んでお断りいたす……!〗


【アキラ】

〖⁉ なにか問題があるんですか?〗


【アルフレート】

〖せっかく頼っていただけたのに無念なれど、他人様に教えられる知識を持ちあわせておらぬのでござる! 拙者、空中チャンバラはからっきしゆえ‼〗

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