第103話 開拓

【アキラ】

〖そうなんですか⁉〗


【アルフレート】

〖実はそうなのでござる! 拙者も飛行メカによる自力飛行は練習中なのでござるが、あの地に足がつかない感覚が苦手で、ちっとも上手く戦えぬ始末! それで銀雪龍と戦った時は空亀に乗って他力飛行したのでござる。自力飛行よりは操作が楽ゆえ!〗


【アキラ】

〖すみません、ボクはてっきり〗



 アルアルフレートは剣術の達人だ。


 リアルでもそうなのだろうし、このゲームでもアバターを自分の体とまったく同じに操れるわけではなくても、その技術を応用して超人的な動きをしているのを見てきた。


 その延長で、アルは空中チャンバラも達人なのだとアキラは思いこんでいた。それで空中チャンバラの講師をしてほしいなどと勝手な期待を押しつけてしまった。


 考えてみれば。


 アルのプレイヤー、現実世界に生きる誰かは──バカげた仮定だが超能力者でもなければ──自力飛行などできないはずだ。



 人は、飛べない。



 だからアルのプレイヤーが学んだ古流剣術に限らず、これまで人が編みだしてきた体を使った技術に 〔自力飛行できる前提〕 のものは1つだって存在しない。


 ならば 〔人の姿のまま飛べる〕 状態での戦いかたなど、アルにとっても未知の領域。いきなり上手くはできないのも当然の話。


 自分がそこまで思いいたっていれば、アルに恥ずかしい思いをさせなくて済んだものを。アキラはただただ申しわけなかった。



【アキラ】

〖本当にすみません!〗


【アルフレート】

〖気にしないでくだされ。拙者自身、試す前は 〔己は自力飛行でも強いに相違ない〕 などと考えておった。思いあがりを恥じいるばかり……!〗


【アキラ】

〖いえ、そんな!〗


【アルフレート】

〖そういう次第で講師は務まらぬが、拙者もいち参加者として空中チャンバラ研究会を盛りあげたい所存でござる。拙者自身その技術を磨きたいのはもちろんのこと、これは拙者が携わってきた 〔ウィズリムによるアバター操作での剣術〕 事情の最先端ゆえ!〗


【アキラ】

〖あ、やっぱりそうなんですね〗


【アルフレート】

〖左様。以前お話ししたように、ウィズリムによるアバター操作は生身の人体とは 〔できること〕〔できぬこと〕 が異なり、勝手が違う。〔人の姿のまま飛ぶ〕 などは生身では決してできぬことの最たるもの]


【アキラ】

〖はい!〗


【アルフレート】

〖そして、もう1つのウィズリム対応VRゲームで、このゲームより先にリリースされた 〔クロスソード・メタヴァース〕 では人型アバターによる自力飛行は不可能。


 つまり空中チャンバラとはこの 〔クロスロード・メカヴァース〕 で人類史上、初めて可能となったものの、まだ研究が進んでいない未知の領域なのでござる。セイネ殿とアキラ殿はそこを開拓しようとしている先駆者なのでござるよ〗


【アキラ】

〖え⁉ いえ、すごいのはセイネだけです!〗



 アルの話を聞いて、アキラは網彦セイネのやろうとしている事の大きさを再認識した。これまで、そこまでの意義があるとは分かっていなかった。あの親友は本当にすごい。



【アキラ】

〖ボクは彼女の企画に乗っかってるだけですので!〗


【アルフレート】

〖そう謙遜なさるな。セイネ殿がすごいのは確かなれど、彼女1人では空中チャンバラを振興することは叶わぬからこその研究会。そこに参加する拙者ら一同がその歴史を作っていく。なんとも胸躍る話ではござらんか……!〗


【アキラ】

〖はい! そうですね‼〗


【サラリィ】

〖あの~。この流れで言いにくいんだけど。あたしはその研究会、不参加ということで。飛行メカ持ってないし、これからも持つ予定はないから。ゴメンね?〗


【アキラ】

〖あ、はい! もちろん大丈夫です、事情は人それぞれですので! お気を遣わせてしまってすみません‼〗


【サラリィ】

〖ありがと~、少年♪ 参加はできないけど応援してるから!〗


【アキラ】

〖ありがとうございます!〗


【クライム】

〖すまないカワセミくん。自分も不参加だ。理由もサラくんと同じだな。自分はこのゲームでSV以外を使うつもりはなく、現状SVに自力飛行可能な機種はないので……〗


【アキラ】

〖了解です! クライムさんも気になさらないでください!〗


【クライム】

〖ありがとう〗



 そう話しつつ、アキラは内心でドキッとしていた。


 このゲームに搭乗する有人操縦式人型ロボットの中で唯一、架空の存在ではないSVスレイヴィークルで、自力飛行可能な機種はまだ開発されていない。


 それはSVのパイロットを目指しており、その練習のためにクロスロードをプレイしているアキラが知っておくべきだったのに知らずにいた事実。


 そのことをまきに指摘されて知った時、アキラはクロスロードでの飛行メカによる自力飛行はやめようと考えた。


 将来の役に立たないと思ったから。


 幸い、蒔絵からその必要はないと言われて、自力飛行に限らずクロスロード内のメカにある現行のSVにはない機能も構わず遊ぶ方針となった。


 蒔絵に言われなければアキラも、クライム同様 〔SVでできることではないから空中チャンバラの研究会には不参加〕 という立場だったろう。


 とはいえ、クライムが間違っているという話でもない。彼が、多くの版権メカも存在しているこのゲームでなぜSVだけにこだわるのか知らないが、彼には彼の事情があって、それは自分とは異なるのだろうから。



【オルジフ】

〖オレは参加するぞ〗


【アキラ】

〖ありがとうございます、オルさん!〗


【オルジフ】

〖オレの黄金龍衣・アウルーラは……アルの白銀龍衣・アルジンツァンもだが、通常だと翼がついてなくて飛べないが、パワーアップすると翼を生やして飛べるようにもすることもできる。坊主は覇道大陸ドラゴナイト見て知ってっと思うが〗


【アキラ】

〖はい〗


【オルジフ】

〖オレもアルもそのパワーアップは済ませてる。なのに銀雪龍の時にそれを使わなかったのは、オレもアルと同じ理由だ。自力飛行だと上手く戦えねぇ。ま、アルほどひどくはねーがな〗


【アルフレート】

〖オル、余計なことまで言わんでいい! 見ておれよ、研究会を通じて上達して、お主などすぐ追いぬいてみせよう‼〗


【オルジフ】

〖へっ、だったらオレはもっと上手くなってやらぁ! オメーに勝てる数少ない種目、手放すつもりはねーからな‼〗

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