第69話 怪力

『なッ……!』


「あっ、いえ。リアルを詮索せんさくしたいワケではなく。ただ、とてもキレイな姿勢で射撃されるので、生身で本物の銃を撃つ技術を習得されてるんじゃないかと思ってたんです」



 ……レティスカーレットが。


 鍛冶場で槌を振るうオルオルジフの手慣れた様子を見て、彼のプレイヤーを本職の鍛冶師だと見抜いたことが心に残っていたから。


 クライムの射撃姿勢を見てアキラの頭に、リアルで実銃を扱う警察官や自衛官などの職種の人では? という考えが浮かんだ。


 このゲームクロスロード・メカヴァース内ですさまじい剣技を見せたアルアルフレートが、リアルで真剣を扱う古流剣術家だったように。


 クライムは、しばし口ごもり──



『いや、本物の銃ではなく、エアガンで撃ちあう、サバゲーだよ、自分のやっているのは。サバイバルゲーム、分かるかな』


「あ、はい」



 エアガンとは火薬ではなく空気で、金属の弾丸ではなくプラスチックの小粒な球を撃ちだす銃。


 それを使い、兵士の格好をして現代的な模擬戦闘を行う競技がサバイバルゲーム。コンピューターゲーム畑なアキラは 〔生身で行うFPS──一人称射撃ファーストパーソンシューティング〕 と認識している。


 アキラはサバゲーの経験はないがFPSならある。


 それは人間の兵士だけ操る普通のFPSではなく搭乗式人型ロボットを操るのがメインのゲームだったが、ロボットに乗っていない時のパイロットで戦う際は普通のFPSと同じだった。


 生身の人間の﹅﹅﹅﹅﹅﹅銃の構えかたは、そのゲームで覚えた。とはいえ 〔それらしい姿勢〕 の見分けがつくようになっただけで実践はできない。


 そんな半端な知識だが──



「クライムさん、いつも銃を両手で持って正面に向けてますよね。それは実銃の撃ちかたで、射撃の反動で銃身がブレて照準が狂うのを防ぐため、ですよね」


『あ、ああ。エアガンにも反動はあるし、サバゲーは本物の戦争 〔らしさ〕 を求める遊戯だからな』


「つまり反動を気にしなくていいなら構えはデタラメでいいってことですよね。すいおうまるの電気玉は反動ないので、あんな構えでも当てられたんです」


『そうだったのか……!』


「それで、あの。クライムさんのその銃も、反動を気にせず撃てるんじゃないかと……」


『いやいや、それは無理だ。短機関銃サブマシンガンの反動は大きい』


「でも、みんなやってますよ? ほら」


『え⁉』



 バババババッ‼

 バババババッ‼



 2人が話しこんでいるあいだも駅前広場では敵味方のメカたちによる銃撃戦が続いていた。自分たちは小屋の陰に隠れているので敵の姿は見えないが、味方の姿なら。


 広場にある遮蔽物を盾にしながら射撃する全高5メートルのAF 〔ドナー〕 数機がここからも見えた。それらが撃っているのはクライムが乗るSV 〔アヴァント〕 と同じ短機関銃サブマシンガン


 その構えはクライムと違って、まったくさまになっていない。しかもクライムは両手で銃を構えるが、彼らは片手で持っている。


 それでも──



『当たった⁉ 片手で短機関銃サブマシンガンの反動を押さえこんでいる? バカな、アクションスターの怪力男ムキムキマッチョマンじゃあるまいし‼』


「いえ、ムキムキです」


『は? えっ……⁉』


「あれは人間じゃなくてロボット、機械なんです。仮に人間と同サイズだったとしても普通の人よりパワーがあります」


『……』


「アクションスターみたいな芸当ができるムキムキな体を、ボクたちはみんな、ロボットに乗ることで手にいれてるんです」


『あああああああああッ⁉』



 自らの硬派なイメージをブチ壊す、すっとんきょうな絶叫を上げたかと思うと──クライム機が小屋の陰から飛びだした。



「クライムさん⁉」


 バンッ! パリン!

 バンッ! パリン!



 即座に短機関銃サブマシンガンを発砲。それも、これまでのような3発ずつの点射バーストではなく1発ずつの単射セミオートで。1発目を撃ってから腕を振って﹅﹅﹅﹅﹅狙いを変えて2発目を撃った。


 両手でしっかり構えて、腕は振らず全身を標的に向けて、常に体の正面に撃つ──という 〔生身の射手としての正しさ〕 を捨てて、周囲と同じ片手持ちのデタラメな構えで。


 それで1発につき1機、合計2機。


 頭部に当てて、きっちり仕留めた。



 ダッ!



 そして物陰に隠れるでなく駆けだして、道路に落ちていた短機関銃サブマシンガンを空いている左手で拾った。


 あれは撃破された機体の装備だ。本体が消滅してもその携行武器は戦場に残り、それを他の機体が使うこともできる。この戦闘限りのことで、持ち主の所持品欄から失われたわけではない。


 そうして二刀流──いや、銃だから二流──になったクライム機は、先ほどアキラがすいおうまるでやったのと同じように左右の腕を別々の方角に向け──



 バンッ!

 バンッ!



『ははははは! 当たる当たる! 軽い軽い! 拳銃どころか水鉄砲じゃないか! 僕は今までなにをやっていたんだか‼』


「あはは……」



 すっかりキャラが崩れてしまった様子に苦笑しながらも、アキラは覚醒したクライムの絶技に見とれた。


 今のクライム機は遮蔽物に隠れず身をさらしていて、敵機からすればいいマトだ。しかし、自らを撃とうと遮蔽物から出てきた敵機を瞬時に発見、撃たれる前に撃って倒している。


 まるでモグラ叩き。


 それを可能にしているのが、驚異的な照準速度。両手で持って正面に撃っていた、さっきまでとは比較にならないほどに速い。初心者道場で練習したアキラの二丁流を軽く上回っている。


 アキラがオノゴロの飛行場での戦いから見てきた、クライムの 〔正しい〕 射撃姿勢。銃を構えた上半身の姿勢はビシッと固定したまま、足さばきで全身ごと向きを変えることで照準する。


 それは確かにカッコよかった。


 本物だけが持つ凄みがあった。


 命中率も100%だった。


 ただ──照準に要する時間はそれなりにかかった。少なくとも、今やっているように銃を片手で持って無造作に標的に向ける動作よりも。


 生身でなら、そんなデタラメな撃ちかたでは射撃の反動で弾道が定まらず当たらないので、クライムの方法で正しかった。だがロボットに乗っている状態では、その反動の条件が違う。


 それを知って片手撃ちを始めたクライムは鬼に金棒だった。しかも二丁流で右側の敵は右手の銃で、左側の敵は左手の銃でと、担当範囲を分担していることも照準速度を向上させている。



 バンッ!


「あ」



 見ているだけでなく援護しないととアキラが気づいた時、クライム機は銃を降ろした。広場に敵機は、もう残っていなかった。

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