第70話 恩義
「すみません、クライムさ──」
『すごいじゃないか、あんた!』
アキラが
それらが集まって、クライム機を囲む。
みな頭上の名前アイコンの前に【PC】の識別マーク。操作しているのは自分たちと同じくイカロス陣営でこの
同陣営で戦っていても同チームでないと通信を開くのが手間だからだろう、そのパイロットたちは機体の外部スピーカーを開いて話しかけていた。
『お見事でした!』
『感服したッス!』
『ど、どうも……』
クライムも外部スピーカーを開いて応じた。照れている。出遅れたアキラは彼らとクライムの話が終わるのを待つことにした。
『その腕を見込んで頼みがある』
『うかがおう』
『あっちに
『ふむ』
今回のような2陣営が対戦する集団PvPにおいて、勝敗を決める条件は2つある。
1つは敵──敵対陣営の戦闘員を
そして、もう1つは。
制限時間を迎えて自動的に戦闘終了となった時 〔拠点ポイント〕 を敵より多く保持している陣営の勝利となる。
拠点ポイントは戦場に点在する 〔
拠点はキャラクターが接触することで、そのキャラクターが所属する陣営が 〔占拠〕 することができ、陣営は占拠している拠点の拠点ポイントを保持することとなる。
ただし。
いったん占拠した拠点でも敵キャラクターに接触されれば即座に敵陣営に占拠され、その拠点ポイントも敵陣営のものになる。
なので敵の占拠する拠点を奪うために攻め、味方の占拠する拠点を奪われないよう守るのが、この戦いの基本。
ここ甲府駅南口 駅前広場で戦闘が行われていたのも、ここにある拠点をめぐってのことだった。なお、それはかつてこの辺りにあった
つまり。
拠点は軍事的な価値だけでなく象徴的な存在感からも設定される。昔は軍事施設だったものの今は史跡である甲府城に拠点があるのも、そのためだろう。
そこを──
『実はそこの敵がやたら強くて、俺たちは逃げてこっちに来たんだ。アンタにはソイツらを倒して謝恩碑を占拠してもらいたい。ここの信玄公は俺たちが守るから』
やはり、そういう要請か。
それに、クライムは──
『自分の一存では決められない。相棒と相談させてくれ』
「ボクは構いません」
アキラは話が早く済むよう、クライム機と繋ぎっぱなしの通信でそう伝えた。外部スピーカーを開いていないので他の人たちに自分の声は聞こえていないだろうが、聞かせる必要もない。
「クライムさんさえよければ!」
『ありがとう──相棒の了承が得られた。そちらに向かおう』
『おお、そうか!』
『ありがとう!』
『気をつけてな!』
見知らぬ仲間たちに見送られ、アキラはクライムと出発した。やっと2人きりになれたので、アキラは改めてクライムに話しかけた。
「さっきはすみません」
『え? なにがだい?』
「クライムさん1人で戦わせてしまって。ボク、ほとんど隠れてるだけでした」
『2機も撃破したじゃないか。そして、固定観念に凝りかたまっていた自分の眼を開かせてくれた。おかげで残りの敵は自分だけで始末できたんだ。あれは君の手柄だ』
「いえ! ボクは大したことしてないですから! 今回は戦利品の山分けとかナシでお願いしますね⁉」
『そ、そうか』
残念そうな声。やはりオノゴロの飛行場で自分が倒した
あの時アキラは恐縮したものの両親に諭されて受けとったが、今度こそ受けとれない。
自分の助言がクライムのさらなる力を引きだすきっかけになったのは確かだろうが、フレンドなのだからそれくらい当然。対価をもらうほどのことではない。
『だが、礼だけは言わせてくれ』
「はい」
『ありがとう。本当に感謝している。ずっと気づかないままだったらと思うとゾッとするよ。自分は、本当に頭が固かった』
「ど、どういたしまして」
『ロボットの力は人より強い、そんな当たり前のことも分からずにいたとは。実は、自分はリアルでの射撃の腕があるからこのゲームでも強いつもりでいたし、デタラメな構えで撃っている他のプレイヤーに優越感を覚えてもいた。穴があったら入りたいよ』
「そんな気にすることないですよ」
クライムのプレイヤーは、サバイバルゲームを通じて生身の体を使っての射撃の技術を身につけている。それは実際にこのゲームでも活かされている。
高い命中率はその証だ。
ただ
勝手が違う。
なので生身の体を使う技術が活かせることもあれば、そのままでは活かせないこともある。一方で、生身ではできないことが可能になることもある。
クライムの場合、生身での射撃技術は活かせていた。しかし、その生身での射撃の常識に囚われて、生身ではできないことができるようになっていることを見落としていたのだ。
生身での射撃姿勢は、発砲した際の反動を効果的に受けとめて銃身をブレさせないためのもの。そうした姿勢を取らずに射撃を安定させるには超人的な怪力が必要になる。
普通の人間には無理な芸当。
だがロボットは超人なのだ。
その力があれば生身で 〔正しい〕 とされる射撃姿勢を取らずとも、それより素早く照準できるデタラメな構えでも安定した射撃ができる。
そう理解したことでクライムは元から持っていた射撃の腕に、ロボットに搭乗しているからこそ可能な早撃ちも加わって、鬼に金棒となった。
こんなこと自分が指摘しなくても、このゲームをやっている内にクライムはいずれ自力でも気づけただろう。それを少し早めただけの自分が恩に着せることではない。
アキラはそう考えた。
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