第68話 広場

 ビームと実弾の軌跡が、夜空を焦がす。


 それはフーリガンのような飛行可能なメカや、フールのように地上に立っていても武器を撃つ位置がこちらの頭より高い大きなメカ同士の戦い。


 その砲火がここまで落ちてこない保証はないが、少なくとも今はまだ、甲府駅南口 駅前広場はそちらとは隔絶された5メートル級の小型メカだけの戦場となっていた。


 駅に近いほうに僚機──味方機──の一群が、遠いほうに敵機の一群が陣取って、広場を挟んで携行火器を撃ちあっている。


 こちらにはビームの閃光はない。


 飛びかっているのは実弾ばかり。


 アキラの見たところ、そこで戦っているのはそうこうへいベイシスの登場メカ 〔AFアーマードフットソルジャー〕 ばかりのようだった。自分たちのチームのNPCノンプレイヤーキャラクター、アントンとベルタの乗機と同じく。



●僚機:銀河帝国製AF 〔ドナー〕

●敵機:銀河同盟製AF 〔ブリッツ〕



 今アキラはイカロス王国側で戦っているので、このゲームの設定でイカロスに援助している銀河帝国の機体が僚機なのも、敵側の地球連合に援助している銀河同盟の機体が敵機なのも、陣営が一致しているといえる。


 傭兵はどの陣営の機体にも乗れるので一致していなくても変ではないが、そういう例は見当たらない。むしろ一致していないのは自分たちか。


 自分のすいおうまるしんえいゆうでんアタルの登場メカ 〔しん〕、クライムのアヴァントは実在のメカ 〔SVスレイヴィークル〕、どちらもイカロス、連合、帝国、同盟のどれとも関係ない。


 そのせいだろうか。


 敵の砲火が集った。



「うわ⁉」



 バババババババッ──周囲に弾丸が飛びかい、いくつか被弾して機体のHPヒットポイントを削られ、アキラは慌てて広場にある小屋の陰へと避難した。



『カワセミくん、無事か!』


「はい! まだなんとか!」



 クライムからの通信に答える。彼の機体も近くの街路樹を盾にしていた。他の僚機も、そして敵機も、やっていることは同じ。



 遮蔽物に隠れながらの撃ちあい。



 広場に建つ小屋。街路樹。広場を囲むビル。駐車場や道路に停まっていた自動車。それらに隠れて敵の視線と攻撃を防ぐ。


 攻撃する時はそこから少しなりと身を出さないといけないが、そうすれば敵から撃たれるリスクが生じる。かといって、ずっと隠れていると敵に移動を許して有利な位置を取られかねない。


 移動するなら今いる物陰から別の物陰へと、サッと移動する。時間をかけるほど撃たれやすくなるから。銃声がやんだ時を狙えば多少は安全。


 この戦場のルールは、こんなところか。


 アキラは似た戦いを他のロボットゲームで経験済みだが、機体の挙動を全てプレイヤーが操作しないといけないこのゲームクロスロード・メカヴァースは従来のものと勝手が違い、上手くやれる自信はない。



 バババッ!



 それで 〔どうしようか〕 などと消極的になっていたところ──バッ! クライム機が街路樹の陰から出て全身をさらした。



 バババッ‼

 ズガァッ‼



 同時に発砲、銃弾が飛んでいったほうで敵1機が撃破されてポリゴンに還るのが見えた。今のは、敵の射撃の飛んでくる方向を見極め、その銃声がやんだ瞬間を狙って攻撃、撃破したのか。


 これだけでも驚きだが──



 バババッ‼

 バババッ‼


「クライムさん⁉」



 クライム機はさらに射撃を続けた。最初の攻撃後すぐ物陰に引っこむのだと思っていたアキラは度肝を抜かれた。


 短機関銃サブマシンガンを機体にくっつけるように両手で構えて、狙いをつけるのに腕は動かさず機体全体の向きを変えて、正面を撃つ。


 オノゴロの飛行場でも見せた堂にいった射撃で次々と敵機を撃破していく。だが、そんなことをしていれば敵に注目され集中砲火を浴びてしまう。これもあの時と同じ──



「ええい!」



 気づけばアキラはすいおうまるを小屋の陰から出していた。視界に飛びこんでくる広場の景色、そこに点在する敵機、その中でクライム機に銃を向けたと思われる機体を2機、発見!


 アキラが右手で持つスティックの動きに従ってすいおうまるの右手が、左手のスティックに従って左手が、それぞれ別々の敵機に向かって伸ばされる。


 それらの前方には【〇】の中心に【+】が描かれた照準アイコンが浮かんでいる。その手から放った射撃武器がそこに着弾するという、このゲームの射撃補助機能だ。



 グイッ──バシュッ!



 すいおうまるの右手の先の照準アイコンが先に敵機に重なったので、アキラはすかさず右スティックのトリガーを引き、すいおうまるの右手のひらから電気玉を発射した。



 グイッ──バシュッ!



 わずかに遅れて左手の先の照準アイコンが別の敵機に重なり、今度は左スティックのトリガーを引いて電気玉を発射。時間差で飛翔した2つの球電は、どちらも見事に狙った相手に命中した。



 バシィッ‼ ──パリン!

 バシィッ‼ ──パリン!



 2機のブリッツがスパークに包まれ、消滅した。


 電気玉は主にメカを麻痺させるだけの攻撃で、メカを破壊する力はないのだが、生身の人間を感電死させるだけの威力はある。機体は無事でもパイロットが死亡したため、搭乗メカごと退場したのだ。



 バババババッ!


「ひぃええーッ!」



 今度は自分が注目されて撃たれたので、アキラは急いで小屋の陰に戻った。見ればクライム機もこちらに来て、そばで身を隠していた。



「クライムさん、被弾は?」


『ない! 君のおかげだ!』


「ふぅ、少しは役に立ててよかったです」


『少しどころじゃない! 今のはどうやったんだ⁉』


「……どう、とは」


『左右の手で別々に射撃しただろう?』


「はい」


『どうすれば今のように撃てる?』


「えっと。電気玉はすいおうまるの腕部固定兵装で。手になにも持ってない時は自動的にそれが使用武器になるんです。両手ともあいてれば両方から撃てます、左右それぞれのスティック操作で」


『そういうことではなく……!』


 バババッ‼

 バババッ‼



 アキラはなにを聞かれているのか分からなかった。ただ話が噛みあっていないことは分かる。おかげで周りで銃声が響いているというのに、なかなか話が終わらない。



『この際、ちょうりゅうのことはいい』


「はぁ」


『片手でだけだったとしても充分に驚きなんだ……その、気を悪くしないでほしいのだが。なんで、あんなデタラメな﹅﹅﹅﹅﹅フォーム﹅﹅﹅﹅マトに当てられたんだい?』



 それを聞いて、アキラはピンと来た。


 そして、昼間からの疑問をぶつけた。



「クライムさんって実銃を撃つお仕事をされてますか?」

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