第83話 龍人
突発的に発生した 〔
そこは
山頂で荒んでいた吹雪はここには及ばず、空は高く晴れわたり、そよ風が
秋の景色。
ここ
だから時刻も一致していて、太陽の傾きがアキラが先ほどログアウトして昼食を取った時、マンションのリビングから見たのと変わらずに見える──
が。
実はそのことと、この場の季節が現実の日本と一致していることには関係がない。たまたまだ。なぜなら蓬莱山では場所によって季節が変わるから。
下にいる霊亀を基準に蓬莱山の 〔右側が春〕〔尾側が夏〕〔左側が秋〕〔頭側が冬〕 と、それらの土地は一年中ずっと季節が変わらず、中央だけが霊亀のいる場所の季節そのままとなる。
銀雪山のあるこの一帯は蓬莱山の左側なため、秋の風景が広がっているわけだ。これも、この蓬莱山の出典の
そうして、しばらく歩くと──
「みなの衆」
アルが静かに、緊迫した声を上げて立ちどまった。アキラも他の仲間たちも足をとめる。アルが腰の刀に手をかけながら見やった方角に一同も顔を向けると、遠くでなにかが動いている。
まだ姿は小さくてはっきりしないが、それらの頭上に表示された赤字の名前アイコンから、自分たちが求めていた狩りの獲物、敵対的
【龍人兵・白】
その名を見ればアキラには、アタルに登場した敵役だと分かった。もっとも、アタル由来のこの島にアタル由来でないエネミーはいなさそうだが。
頭が龍、首から下は人間という姿で、大きさは人間並。
暗黒龍の軍団員として登場する。軍団員というと暗黒龍に洗脳された蓬莱山の住人が多いイメージがあるが、龍人たちは洗脳されていない。
本物の、暗黒龍の仲間。
彼らは体の色によって5族に分けられ、それぞれ暗黒龍とその四天王の5匹の内、同じ色の龍に直属の配下として仕えている。つまり──
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あの 〔龍人兵・白〕 たちは、この辺り 〔蓬莱山の左側〕 を支配している銀雪龍の配下。その支配領域を徘徊して、遭遇した
倒しても一定時間で
銀雪龍のようなボスエネミーは一度それを倒したPCの前には基本的にもう現れないが、まだ倒していないPCの前には現れる。一部のPCに倒されても滅びはしない。よって、その軍団も健在。
「アキラ殿、ご指示を」
「あっ、はいっ……!」
アルだけにということではなく、このパーティーの現在のリーダーとして全員に行動方針を示せということだろう。
確かに銀雪龍と戦った時は事前にアキラが考えた作戦をみなに伝えていたのだが、この狩りでは 〔みんな適当に戦えばいい〕 と思っていたアキラは内心、焦った。
敵もこちらに気づいたようで、向かってきている。アキラは一瞬だけ考えて結論を出した。時間をかけて検討していないので不備がありそうだが、グズグズして対応が遅れるよりはいい。
アキラは声を張った。
「アルさんオルさんボクの近接武器隊はまとまって前進、敵集団に白兵戦を挑みます。残り4名は側面から射撃を。お父さんお母さんは左、クライムさんサラさんは右に回りこんでください。あとは臨機応変に!」
「「「「「「了解!」」」」」」
「では、散開‼」
バッ‼
アキラたちは3隊に分かれて駆けだした。
古墳時代の剣士風なアキラ、大小2本の日本刀を差したエルフ侍のアル、北欧風の兜と鎖鎧と戦斧で武装したドワーフの
どちらも未来的な──意外と防御力の高い──パイロットスーツを着て、
どちらも現代的な迷彩柄のボディアーマーを着て、
パパパパパッ‼
左右に飛びだした射撃担当の2隊が足をとめ、龍人兵の一群へと実弾を連射した。2名ずつから放たれた2まとまりの弾道が、龍人兵たちのもとで交差する──
軍事に詳しいわけではないアキラが過去に遊んだロボットゲームを通して聞きかじった知識として、それは現実でも使われる戦術らしい。
撃つほうとしては狭い範囲に砲火を集中させるので命中率が高くなり、撃たれるほうとしては砲火が2方向から襲ってくるため注意が分散されて余計に避けにくくなるという嫌な攻撃。
パリン!
パリン!
さらに密集していたことが災いして、多くの龍人兵が被弾したようだった。その内の何人かはHPが全損して消滅。だが向こうも、やられっぱなしではない。
カーン!
甲高い音を立てて弾丸が防がれた。
一部の龍人兵が構えた盾によって。
龍人兵らはみな中国で前近代に使われたもののような鎧を着ていて、その盾も同様に時代がかったもの。
その外見どおりなら現代の銃を防げるはずもないが、ここは異世界。ファンタジー的な強靭な素材を使っているとかで、実在した昔の盾より防御力が高いのだろう。
敵も3隊に分かれた。
こちらの3隊にそれぞれ正対する。いずれも前列5人、後列5人ほど。前列の盾兵がこちらの射撃を防ぎ、銃弾から守られた後列の弓兵たちがこちらの3隊にそれぞれ矢を放ってきた。
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