第22話 河港
(あっちの西洋鎧はタンバリンの
「おう、戻ったぜ」
酒場でくつろぐ
「早かったですね」
「どういう内容かは確認済みだからな。そんな手間かかんねーよ。さ、任地に出発するぞ。こっちだ、ついてこい」
「はい」「はい」「うむ」
アキラの返事に
「……!」
「は~っ」
アキラは思わず息を飲んだ。レティもため息をついている。目の前に広がったのは、この冒険者ギルドに来るまでの建物に囲まれた街並みから一転して、広々とした川岸の港の風景だった。
その存在は地図で見て知っていた。
ここ 〔
水面がキラキラと陽光を反射している。
圧倒されるほどに大きな川。
幅は1キロメートルほどか。
東京湾岸に住むアキラが見慣れた、東京湾に流れこむ
川幅は上流から下流に向かうほど広くなるもの。この地点は大陸の内陸部なので、この川の上流か中流のはずだが、それでもうこの広さ。
まさに大河。
大陸を流れる川は島を流れる川よりずっと長くなるため、河口に達する前にこれだけ広くなる。島国・日本では馴染みのない大陸スケール、アキラはそれだけでワクワクした。
しかも、それだけではない。
港に停泊しているあの船は。
海賊映画に出てくるような、大航海時代に活躍した木造船。ただ船の上部にあるべき、風を受ける
その代わり骨組みに布を張った、前後に長い紡錘形の風船があり、そこから垂れた多数のロープによって船体が吊られる形になっている。
あの風船──ガス袋の浮力によって空を飛ぶ船、飛行船。それは現実にも存在するが、現実のものは大航海時代よりあとに発明されたため、こんなデザインはしていない。
あれは──
「〔
「しかも背景に映ってた名もなき
「ほう。2人とも、よく知ってんな」
「アタル以外も詳しかったでござるか」
アキラとレティがロボットオタクとしてディープな知識を披露すると、オルとアルに感心されたようだった。
自分たちは
「アタルについてほどじゃないです」
「まーまーってとこね」
「今のが 〔まーまー〕 か? まぁいい。見てのとおり、これはドラゴナイトの熱飛行船だ。受けた依頼がドラゴナイト系シナリオだから任地までこれで行く」
「もし受けたのが他作品のシナリオだったら、その作品に登場した船が現れてたでござるよ。ゲームオリジナルシナリオなら、オリジナルの船になるでござる」
「「へぇ~っ」」
ゆくゆくは全ての船を制覇したい。
アキラはその第一歩を踏みだした。
桟橋から船の上甲板にかけられた板の足場を登って……左右に手すりもないので川に落ちそうで怖い……渡り、乗船。
そこはまさに海賊たちが斬りあいをする甲板といった風情で、立つだけでアキラはテンションが上がった。
そして、そこでは海賊──ではなく、まっとうな水夫らしき
彼らは全員、耳が尖っており。
その半数は、背が極端に低い。
つまり──
「エルフにドワーフ! それも」
「ドラゴナイトの、ですよね?」
アキラの声に続いたレティは、彼らと背格好が共通するアルとオルに確認した。アルは人間サイズの森林の妖精エルフで、オルは小人サイズの大地の妖精ドワーフ。
このゲームには覇道大陸ドラゴナイト以外にもエルフとドワーフが登場する作品は参戦している。だがドラゴナイトの船の乗組員が別作品の種族ということはないだろう。
はたして──
「左様。ちなみに拙者も他作品ではなく 〔ドラゴナイトに登場するエルフ〕 という設定で
「オレも 〔ドラゴナイトに登場するドワーフ〕 だ。ここにいる小っちゃいほうの連中の同族って設定よ。ま、勝手に言ってるだけで向こうからすりゃ他の
「「そうだったんですか!」」
エルフとドワーフはフィクションでは不仲に描かれることが多いが、覇道大陸ドラゴナイトでは両種族の仲は良好だから。
「この船も両種族の技術の融合なんですよね」
「軽くて丈夫な船の材料がエルフ製、ガス袋を膨らませる火をたくエンジンがドワーフ製、だったかしら……?」
「うむ! ドラゴナイトのエルフは独自設定で、植物素材を元の20倍も強靭に加工する技術を持っているのでござる‼」
「で、こっちはどこのドワーフもそうだが、ものづくりに長けた種族で、その職能の代表格が火を扱う鍛冶師だ。そっからエンジンみたいな火をたく機械を作るのも上手いって派生したんだな」
「そのエンジンなんだが……」
「「「「⁉」」」」
突如パーティーメンバー以外の声がして、4人してビクッとする。声のしたほうを見るとオルとは別のドワーフ、乗組員のNPCが腕を組んでいた。
「火を入れて、出港して構わんかね?」
「「「「はい。すみません……」」」」
出発するために乗った客がいつまでもおしゃべりしているので確認に来てくれたらしい。そんなアドリブまで可能なのか。昨今のAIの進歩ぶりに、アキラは改めて驚いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます