第21話 傭兵

「じゃあ、アルフレートさんから剣を教わるってことでいい?」


「うん……いいと思う」


「あいや待たれいッ!」



 レティのエルフ侍アルフレートに対する反感も収まったことだし、彼の申し出も受けていいだろうとアキラがレティに確かめていたところ、当のエルフ侍アルフレートから待ったがかかった。



「「はい?」」


「スカーレット殿の信用を得られたことはぎょうこうなれど──」


「「ぎょうこう……?」」


「幸運、ラッキーという意味でござる。そう、拙者は 〔人に教えるほどの腕前か見せよ〕 とのスカーレット殿からの試練に合格したわけではござらぬゆえ!」


「あの、アタシのことは 〔レティ〕 でいいです」


「ならば拙者のことも、どうか 〔アル〕 と! アキラ殿も!」


「「はい、アルさん」」


「うむ! ──そういうわけでレティ殿、どうかあせらず、存分に拙者の実力を見極めてから決めてくだされ」


「う~ん、でも、見て分かるかな。アタシ、アナタが木を斬ったのを見ても、なにがなんだか分かんなかったんですケド」



 それはアキラも同感だった。


 あまりに一瞬の出来事でアルがどう動いたのか見えなかった。その早業自体をアキラは 〔なんとなくすごい〕 と思ったが、すごさが分かりづらかったのは確かだ。


 レティはそれを 〔すごくない。斬れたのは武器のおかげ〕 と受けとって、アルの刀と同等の攻撃力のある自分の剣でも木を斬ることでそれを証明しようとした。


 アルが頭をかかえる。



「ではどうしたものか。振りだしに戻ったでござる~っ」


「つーかオメーら、ウチの店内で話しこんでんじゃねぇ」



 この武器屋の店主、小人ドワーフのオルジフに叱られた。



「「すみません!」」


「堅いことを申すな。どうせ他に客もおらんのだ。それより、そなたもなにか知恵を出せ」


「この野郎……知恵もクソもあるか。動かねぇ木なんぞ斬るから伝わらねーんだ。オメーが動く敵相手に無双するとこ見りゃ、坊主も嬢ちゃんもオメーの強さが分かんだろーよ」


「おお! なるほど!」


「「それなら確かに」」


「そこで、だ。オレのほうでやってみてーんだが単独じゃキツい任務ミッションがあってな。オメーら3人とオレとでパーティー組んで、一緒にそれやらねーか? そこでアルの実力も見れんだろ」


「ふむ。拙者は構わぬが。おふたりはいかがか」


「「やります!」」


「決まりだ! オレのことも 〔オル〕 でいい。よろしくな、アキラ、レティ‼」


「「よろしくお願いします、オルさん‼」」





 このVRMMORPG 〔クロスロード・メカヴァース〕 において、プレイヤーが行う戦闘は主に3つに大別される。



➊遭遇戦

[フィールドに出没するモンスターや盗賊などの敵対的NPCとの遭遇戦。敵を倒せばそこで終わりで特にストーリー性はない]



決闘デュエル

PCプレイヤーキャラクター同士の決闘。通常は互いにダメージを与えられないPC同士も、プレイヤー双方の合意でシステムに申請して特殊戦闘 〔決闘デュエル〕 を行っているあいだは一時的にそれが可能となる]



➌ミッション

[〔任務ミッション〕 中に発生する敵対的NPCとの戦闘。〔任務ミッション〕 はNPCと関わりあうことで進行するストーリー。特定の条件下で発生し、プレイヤーが参加を表明することで始まる]



 なお──


 ➊の遭遇戦はアキラ・レティ・セイネの3名で草原フィールドに出現した黒巾力士たちと戦った時や、アキラとレティが2名でゴブリンの巣に潜って戦った時がそれにあたる。


 ➋の決闘もアキラとレティはこれまで剣の練習として2人で何度か行っている。互いに未熟なため小学校の掃除用具の箒でするチャンバラのようになったが、楽しくて夢中になった。


 ➌のミッション戦が、これからアキラ・レティ・アルフレート・オルジフの4人で受ける任務ミッションで発生する予定の戦闘で、アキラとレティは任務を受けること自体が初めてだった。青銅剣闘士ブロンズグラディエイタータロスによるチュートリアルも任務のようなものだがゲーム本編とは見なされない。



「ここが 〔傭兵ギルド〕 でござる!」



 先頭を歩いていたアルアルフレートが振りかえりつつ右手を掲げた。その手の先では一見して町内の標準的な民家よりも広いと分かる、2階建ての煉瓦建築がそびえている。


 看板には【INNイン】の文字。


 〔宿屋を兼ねる酒場〕 を意味する英単語。アキラはまだ小学校の英語の授業では習っていないが、日本でもホテルの名称などに使われている単語なので覚えていた。



「「お~っ」」


「なんだ、坊主と嬢ちゃんは初めてか?」



 アキラとレティが感嘆の声を上げると、オルオルジフが聞いてきた。ファンタジーRPGでは珍しいものではないし、このゲームでもPCの活動拠点となる場所なのに、ということだろう。



「RPG自体このゲームが初めてでして」


「アタシも。それにゲームを始めてからずっと、アキラと2人で練習するか、チュートリアル道場に通うかだったから、まだここ使ったことないんです」


「なるほどな」


「ささっ、どうぞどうぞ!」


「「ありがとうございます」」



 アルが取っ手を引いて扉を開いたままにしてくれたので、アキラはレティと礼を言って門をくぐった。


 そこはアキラの知る現実の景色でたとえるなら、こじゃれたレストランのようだった。客席はカウンター席をのぞき、仕切りのない床に並べられた丸テーブルにある。


 照明がついておらず窓からの採光のみなので薄暗い店内、椅子などの備品が簡素な木製な点などが、現実ではなく前近代的ファンタジー建築だと実感できるところか。


 この1階部分が酒場。


 上の2階部分が宿屋。


 そういう構造だろう。



「オレは受付で依頼を受けてくる」



 オルジフがひとりでさっさとカウンターの一角に向かった。ここの店主マスターに料理を注文するのではなく、任務ミッションを受けると申請しに。


 その仕組みくらいはアキラにも分かった。


 ここはただの飲食店ではない。むしろそちらは副業。本業は傭兵ようへい──金銭などの報酬で雇われ自らの戦闘能力を提供する者──への依頼の斡旋所だ。


 全てのPCはここ地下世界インナーワールドでも、地上世界アウターワールドでも、職業は傭兵ということになっている。そしてNPCも含めたこの世界の傭兵たちによる相互扶助組織、およびその建物の通称が 〔傭兵ギルド〕。


 任務ミッションの発生条件はいろいろとあるが、ゲーム内のどの集落にもあるこのギルドで、傭兵の力を必要としている人からの依頼を受諾することが最も一般的だった。

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