第20話 和解
ドワーフPCオルジフが金槌で叩いていた金属塊が、元の自分の愛剣の姿に戻った──アキラがそう思った矢先、その剣の姿がフッと消えた。
「えっ?」
【〔
「はいっ?」
パッと開いたウィンドウに記されたメッセージに返事をしたつもりではなかったが、その声が音声入力として拾われた。
それはいいが……
オルジフは剣が直って消える、その直前まで金槌を振るっていた。直った剣をこちらにテレポートさせるにはウィンドウ操作が必要そうだが、そうしたようには見えなかった。
「おう、直ったぜ」
「ありがとうございます!」
鍛冶場を出たオルジフに頭を下げ──
アキラはおそるおそる疑問を口にした。
「あの、今、直ったら自動的にボクの所持品欄に戻りました?」
「うん? ああ、いや。そもそもお前さんの所持品欄からなくなってたワケじゃねーよ。〔折れた~〕 ってついた武器名は消えてたろうが、その姿がこっちに見えてた時でも所有権はお前さんのままだしな」
「そうだったんですか」
「自分に所有権のある武器しか修理できないんじゃ、客の武器を修理すんのにはいったん譲渡してもらうことになる。そしたら持ち逃げする奴が出るだろ。そうできないようになってんのさ」
「な、なるほど」
まさにそのことを疑っていたのでアキラは気まずくなった。
これでこの人たち──ここの店主のオルジフと、ここに連れてきた
だが、少なくともオルジフに直してもらった武器が返ってこなくなるという心配だけは、もう必要なさそうだ──アキラはエルフ侍の顔を見上げて言った。
「あの、レティを呼びますね」
「信じていただけたか……!」
「一応、このことに関しては」
「それで充分でござる!」
「なんだ? なんの話だ」
オルジフがいぶかしげに口を挟んだ。
「えっと、それは」
「それが、実はな」
アキラはなんと答えたものかと思ったが、エルフ侍が説明を始めたのでそちらは任せ、自分は
メニューウィンドウを開いてフレンドリストにある【スカーレット】の横にある【電話をかける】をタッチする。数度のコール音のあと──ウィンドウいっぱいにレティの顔が映った。
『アキラ、大丈夫⁉』
「大丈夫、ちゃんと直してもらったよ。渡した剣が盗まれる心配はないって確認したから、レティもおいでよ。場所は──」
『分かるわ。じゃ!』
「あ、レティ?」
レティに通話を切られた。
「オメーのせいでオレまで疑われてんじゃねーか!」
「すまぬ! この埋めあわせは必ず……!」
「たりめーだ!」
エルフ侍のオルジフへの説明も済んだようだ。
アキラは2人に声をかけた。
「すみません! 相方が来るんですが、ここを見つけられるか心配なので外に迎えに出ています!」
「ちょい待ち! それはいいが、来客の通知が来た。その子の依頼はその客のあとにしてもらうぜ」
「はいっ! では──」
ガチャッ
アキラが店内を出ようとした瞬間、出入口の扉が開いた。オルジフの言う先客かと思ったが、入ってきたのはレティだった。
「あれ? 早かったね」
「えっと、その……心配だから、あとをつけて、このお店に入っていくの見てたから。すぐそこで待ってたの」
「そうだったんだ……」
モジモジした様子のレティに、アキラまで照れくさくなった。もしエルフ侍とオルジフが本当に悪い人だったら尾行するのも危険だと思うが、レティはじっとしていられなかったのだろう。
その気持ちを嬉しく思う。
「なんだ。今、入室許可を出した客と、オメーらの話してた嬢ちゃんは同一人物だったか。そんじゃ話がはえぇ。嬢ちゃん、こっち来てウィンドウから修理依頼してくれや」
「あ、はい!」
レティがカウンターを挟んでオルジフと対面し、手続きを始める。エルフ侍がそちらに歩みより、レティの隣に立った。
「支払いは拙者が。そういう約束でござろう?」
「えっ、と……じゃあ、お願い」
「承知!」
このゲームでは他のPCの買いものに横から介入して代金を立てかえることが可能らしい。手続きが済んだようで、カウンターの前にレティの 〔
それからオルジフは先ほどアキラの剣を直したのと同じ工程を繰りかえした。2つに折れた剣の残骸を両方とも炉に放りこみ、熔けて1つになった剣の残骸による
「すごい……」
その様子を、レティは食いいるように見ていた。炉の赤い光に照らされたその横顔をアキラはきれいだと思い、慌てて視線をそらした。
カン カン カン
パァァッ──
オルジフの振るう金槌によって、金床の上で打ちのばされていた赤熱した金属塊が光りだし、元どおりの 〔
「あっ」
そして鞘と一緒にレティの腰に現れる。
それをレティは、ぎゅっと胸に抱いた。
「
「よかったね」
「うん……! ありがとう、アキラ。ありがとうございます、武器屋さん。そして……アルフレートさん。ありがとうございます。そして、ごめんなさい。うたぐって」
レティは
「いやいや、まだ気を許してはなりませぬぞ。これもスカーレット殿を油断させるための罠やも知れぬ!」
「いいんです、もう。もともと、アルフレートさんがどうしても信じられないほど怪しかったってワケじゃなくて……アタシ、ずっと態度 悪かったの、アキラと2人で楽しくお話してたところに割って入られて邪魔されて、イライラしてただけなんです‼」
「⁉」
「なんと⁉ そうであったか……いや、こちらこそ改めて、申しわけなかった! 拙者、なんたるお邪魔虫であったか‼」
「ブワーッハッハ! まったくだ! そいつぁアルが悪い‼」
「~っ」
アキラは体が熱くなった。仮想世界で他のPCから見えている緑髪アキラのアバターには反映されないが、現実の自分の体は赤面しているかもしれない。
照れくさく、恥ずかしい。
だがレティの気持ちは嬉しい。それで変な気にならないよう、 〔レティは友達、あくまで友達〕 と、アキラは改めて己にそう言いきかせた。
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