第19話 刀匠
【アルフレートさんがあなたを 〔オルジフの武器屋〕 に招待しています。招待を受けますか?】
「はい」
【〔オルジフの武器屋〕 への入室許可を得ました】
「これでアキラ殿も この門をくぐれるでござるよ」
どうやら店主の許可がないと中に入れない仕組みらしい。エルフ侍がまず自らの許可を取ってから同行者としてアキラを招いたということだろう。
「どうぞ、お先に」
「……失礼します」
アキラの心拍数が上がった。怖い。レティが危惧したとおり、この人が自分を騙そうとしているなら、ここに入ったが最後……
覚悟なら、もう済ませてある。
アキラは思いきって足を踏みだし、エルフ侍が開いた扉を手で押さえている門をくぐった。日中の職人通りから一転、薄暗い店内が目の前に広がる。
「わぁ……」
壁や棚に並ぶ、形や大きさのさまざまな剣、槍、斧、弓などの武器。洋風なもの、和風なもの、どちらもある。買いものに来たわけではないが、アキラは血が騒いだ。
ここにあるのは人間用サイズ。
「おう、アル」
カウンターの向こうから声がした。〔アル〕 というのは
にょきっ
「うわッ⁉」
カウンターの向こう側でいきなり下から人の頭が生えてきた。店主は高さ1メートルほどのカウンターに隠れるほど背が低いようで、椅子かなにかに乗ったことで顔を出したらしい。
「おっと、すまねぇ。驚かせちまったか」
「い、いえ! こちらこそ失礼しました」
だが子供ではない。
刈りあげた髪と同じく金色の、立派な
アキラが小学4年生としては小柄な現実の自分の体と同じに設定してある、身長120センチメートルのこの緑髪アキラのアバターより小柄なこの男性PCは、これで成人なのだ。
設定上の種族も別だろう。
種族を設定してあるなら。
多分──
「アキラ殿、申しわけない。先に言っておけばよかったでござる。この男はドワーフ、小人の姿をした西洋の大地の妖精の、
「そうでしたか」
あとから入店してきたエルフ侍にうなずきながら、アキラは 〔やっぱりドワーフだったか〕 と思った。そんな気がしていた。
〔森林の妖精エルフ〕
〔大地の妖精ドワーフ〕
古来から西洋の伝承で語られる妖精であり、昨今ではファンタジーの創作物に登場する亜人種の双璧である代表格。
アキラもそれは知っていた。このクロスロード・メカヴァースに参戦しているロボットアニメ 〔
アルフレートがエルフだったので、この人はドワーフでは──そう思うのは自然な流れ。安直だが、それで合っていた。
「で、
「なに、この御仁が剣を折ってしまわれたので、そなたを紹介しにまいったのだ──アキラ殿、この者がここの店主オルジフ、拙者の友でござる」
「はじめまして、アキラです」
「オル、アキラ殿だ。粗相のないようにな」
「やかましい! ──オルジフだ。よろしくな、坊主」
「はい!」
「で? 剣を折っちまったって? 耐久値がゼロになって壊れる
「覚えておきます……」
「まっ、折っちまったモンは仕方ねぇ。今回は壊れた状態からの再生だな。このウィンドウでメニュー操作して依頼してくれや」
ブン──
カウンターを挟んで向かいあうアキラとオルジフのあいだにウィンドウが表示される。アキラはそこに書かれたことを読みながら項目をタッチしていった。
【〔折れた
【はい】 をタッチすると、費用分アキラの
「
亜空間に格納されている──普段はアバターの外見に現れていないことに理屈をつけるとそうなる──アキラの所持品の中から折れた剣がカウンターの上に出現する。
オルジフはその半ばで折れた2つの残骸を左右の手でそれぞれ掴み、床へ飛びおりてカウンターの陰に消えた。
「アキラ殿、こちらへ」
「? はい……あっ!」
エルフ侍に招かれてカウンターの内外を繋ぐ通路のそばまで行くと、奥に鍛冶場らしき設備が見えた。これより中に入るのは失礼だろうと、アキラはその場で注視した。
ぽいっ
ぽいっ
「ええ⁉」
真っ赤な火が燃える炉にオルジフが折れた剣を無造作に放りこむのを見て、アキラは思わず声を上げた。
一緒くたに熔かしていいものなのか。
「ちょ、大丈夫なんですか?」
「ダメに決まってんだろうが」
「なっ──」
「
「あ、そ、そうですよね」
話しながらもオルジフは
オルジフはその
カン カン カン
叩かれる度に鋳塊は平たく、長く、伸ばされていき……その形が剣に見えるようになったとアキラが思った時、ピカッと光って──光が収まると。
そこには元どおりの
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