第18話 侠気
「あーッ⁉」
レティが悲鳴を上げた。
アキラも呆然となった。
レティが
「うそ、やだ、待って!」
「レティ、落ちつい──」
「落ちつけない‼」
「ッ、ごめん……」
あの剣がなくては
「ちが、アキラは悪くな……ひぐっ‼」
「ああ、いや! 心配にはおよばぬ‼」
レティが泣きだすと、エルフ
「え……?」
「メニューウィンドウを開いて所持品欄を確認してみなされ」
「…………〔
「耐久値がゼロになった武器は一時的に使用不能となるだけで、失われることはない。修理すれば元どりになるでござるよ」
「そうなんだ⁉ よかったね、レティ‼」
「う、うん……」
「…………」
なんとも気まずい沈黙が流れた。
このゲームの武器に耐久値が設定されていて、それがなくなれば破壊されることも修理可能なことも、おそらく基礎的なことだろう。アキラもレティも今までそれを知らずに来た。
〔そんなことも知らないのか〕 と言われても仕方ない、このゲームの構成要素へのリサーチ不足。エルフ侍はそんな物言いはしていないが、レティは彼へと怒鳴った。
「要素が多すぎて覚えきれないのよ‼」
「
「で、修理する方法は⁉」
「どの町にもある武器屋に行って修理を依頼し、費用にゲーム内通貨の 〔リング〕 を払えばスグでござる。よい武器ほど価格が高くなるが──なに、こたびは拙者が持つゆえ心配めされるな」
「……なんで? アタシが自分で折ったのに」
「それも元はといえば拙者がおふたりに声をかけたことが原因! 責任を取らせてくだされ。ただ、鍛冶技能持ちの
「そんなこと言って変なトコに連れこむ気じゃないでしょうね」
「ねぇ、さすがに失礼だよ」
アキラは我慢できずレティに言った。
「分かってるけど、この人を信じる根拠まだないじゃない!」
「それも、そうだけど……」
アキラとしてはお人よしそうなエルフ侍を相棒が邪険にしつづけていることが心苦しいのだが、レティの言うことももっともだ。詐欺師ほど人を安心させるのが上手い。
どちらが正しいのか分からない。
なら……アキラは腹をくくった。
「アキラ?」
「む……?」
アキラは2人に背を向け、
「アキラ⁉」
【〔
ウィンドウが表示された。
さっきのレティは動転していて、これを見逃したのだろう。これでよし。アキラは振りかえり、エルフ侍を真っすぐ見すえた。
「少年、そなた……」
「アルフレートさん。まずはボクだけをその鍛冶屋さんの所に連れていってください。修理代は、これは本当にボクの勝手で折ったので、自分で出します」
「ちょ、アキラ⁉」
「レティは待ってて。これなら、この人が悪い人でも騙されるのはボク1人で済む。そうじゃないって分かったらレティもお願いすればいいよ」
「そんな、アナタ1人が犠牲になるなんて!」
「おおげさだよ。ゲームの中だから体には危害がおよばないし、そこまでひどいことにはならないと思うんだよね。心がつらいことでも、覚悟していけば耐えられるかなって」
「アキ──」
「
エルフ侍の大声が響きわたった。
握った拳をワナワナさせている。
「なんという
「ど、どうも」
もしや大変クサい台詞だったのでは。
アキラはとたんに照れくさくなった。
「よければ 〔アキラ殿〕 とお呼びしてもよろしいだろうか」
「あ、はい。もちろんです」
アバターの上に名前アイコンがあるので名乗らずともお互いの名前が分かるのは便利だが、自己紹介のタイミングが難しい。
「どうも、アキラです」
「では、アキラ殿。友人の武器屋のもとへ
「よろしくお願いします」
「……アキラ!」
「レティは時間つぶしてて? 終わったら連絡するから」
「うん……気をつけてね!」
¶
かくしてアキラはエルフ侍アルフレートのあとに続き、始まりの町の職人通りへとやってきた。前近代のヨーロッパ風な街並み、石畳の路地の両側にさまざまな物づくりの職人たちの工房が連なっている。
「雰囲気ありますね」
「そうでござろう?」
アキラはクロスロードを始めてからいくらか経つが、まだこの辺りに来たことはなかった。ファンタジーRPGではこういう所で買いものをするのもいい思い出なのだと
その意味がようやく分かった。
VRMMORPGに限らずファンタジーRPGは人気ジャンルのゲームだが、ロボットのパイロットになる夢に繋がりそうなこと以外にふれてこなかったアキラは今回が初めてだった。
「アキラ殿、ついたでござる」
「
エルフ侍が足をとめた店の看板には武器屋であることを示す交差する2本の剣と、店主が
「これを、こう」
コン
エルフ侍が木製の扉に取りつけられた手のひらサイズの金属環──ドアノッカーを掴み、それで扉をノックした。すると彼の手もとにブン、とウィンドウが現れる。
「それは?」
「この武器屋の店主リストでござる」
「リスト? 複数人いるんですか?」
「左様。ゲーム内で武器屋をやりたいプレイヤーは大勢いる。しかし使える土地は限られる。そこで見える建物は1つでも中の空間は店主の数だけ存在しており、客は扉の前で選んだ店主の空間へと通される……という仕組みになっているのでござるよ」
「は~、なるほど……!」
「電脳空間だからできることでござるな。さて、それでは!」
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