第95話 教習③
「ウィズリムによる人型アバターの操作において、左右のスティックで両腕を、左右のペダルで両脚を操作するのは、飛行モードでも歩行モードと大差ないわ。これはいい?」
「うん」
母の言葉にアキラはうなずいた。実際、昨日の戦いで
ただ、上手く飛べなかった。
飛行モードのメカでの飛びかたを、空飛ぶ生物である空亀の上に乗っての操作方法と同じだと誤解していたためだ。
そうではない正しい方法を、これから母に習う。
「地上では地面を蹴ることで移動できる。でも地に足がつかない空中では、どれだけ手足をバタつかせても移動はできない」
「そうだね」
「なら翼を操作するかというと、それも違う。このアドニスも
「あっ、そうなんだ?」
「ええ。翼のついてない飛行メカもあるしね。ついてる場合も、パイロットの操縦によるメカの飛行を適切にサポートするよう、AI制御で自動に動くのよ」
「翼があってもなくてもパイロットには関係ない?」
「そゆコト。で、飛行するためパイロットが操作するのは、ズバリ 〔
「4つ……?」
「飛行メカ、つまり飛行可能な人型ロボットには、その推進力を得るための
「創作物で? あぁ、確かに……でも」
「ええ、配置や数がそうでない飛行メカも山ほどある! その場合もこのゲームでは 〔足裏に2つ、背面に2つ〕 あるかのように飛ぶのよ……!」
「機体によっては存在しないスラスターを噴射してるような挙動をするってこと……?」
「そう! リアルじゃないわね! でも仕方ない! ここをリアルにすると個別に操縦方法を作る制作陣も、個別に覚えなきゃいけないわたしたちプレイヤーも大変すぎるもの!」
「だね……」
「ま、アドニスも
「そういえば。あれって4つ同時に噴射してたの?」
「そう、一括してね。でも人型形態では1つ1つの出力調整をパイロットが管理するのよ。じゃあ、まず足裏スラスターの操作から説明するわね」
「うん」
「実は今、アドニスは背面スラスターは切って、両足裏のスラスターを
ガクッ!
「うわっ⁉」
アキラの両足のペダルの爪先側が急に起きあがった。こちらと同期している、
同時に機体が落下を始める。
これまで機体が直立姿勢で空中に静止していたのは、両足裏のスラスターを下方に噴射して落下を食いとめていたから。その力が失われたことで重力によって海面へと引っぱられている。
「で、再噴射っと」
ボウッ!
両足裏から再び青炎を噴射して、機体は落下をとめた。
「どうやったか分かった?」
「うん。両足のペダルが、爪先側が沈むように倒れたね。自動車のアクセルみたいな感じ?」
「そう。パイロットの爪先を限界まで上げた状態が出力ゼロ、限界まで下げた状態が最大出力。もちろん左ペダルでは左足裏の、右ペダルでは右足裏のスラスターのね」
「あれ。じゃあ飛行モードだと、乗機の足首の動きは操作できなくなるの?」
「いいところに気づいたわね。実はそうなのよ。まぁ、意外と不便はしないわ。そして、足首以外の脚の関節は変わらずパイロットの自由に操作できる。ここが肝心でね」
「?」
「足裏スラスターって、つまり
「それって……前後左右どころか、股関節と膝関節の角度でむっちゃいろんな方向へ噴射できるってことじゃ⁉」
「そうだけど、あまり難しく考えることないわよ。要はスラスターっていう 〔魔法の靴〕 で虚空を蹴ってるようなものだから」
「空中歩行?」
「足裏の力で体を動かすって意味ではね。もっとも歩く時みたく左右を交互に動かすことはないけど。移動の基本は簡単よ、まず今みたく両足裏を真下に向けて噴射して
クイッ──
母の操縦で、機体がわずかに前傾した。
足裏の向きが真下からやや後ろに傾く。
すると機体が前進を始めた。
「今、機体は 〔下斜め後ろ〕 に噴射して 〔上斜め前〕 への推進力を得ているけど、この力は 〔上〕 へと 〔前〕 への2つに分解できる。上への力は重力に逆らって機体を浮かせて、前への力は機体を前進させるってワケ」
「へぇ~っ」
「注意点は、足裏の傾きはちょっとでいいってコト。あまり傾けすぎると姿勢を崩して、機体そのものが傾いちゃう。そうすると足裏がほとんど下を向かなくなって落っこちちゃうから」
「‼ それだ、
昨日の戦いでアキラは、
空亀では一定の角度以上は傾かない仕様だったので
「少しだけ傾ければよかったんだ」
「判明してよかったわね」
「うん! ありがとう、お母さん」
「どういたしまして♪ 前後左右への移動は以上よ。で、上昇する時は、こう──出力を上げて、機体の落下を防ぐ以上の噴射を下に向ければいい」
「うん、うん」
「で、下降……重力で落ちるんじゃなくて自分から下に推進するなら、膝を下に向けるように膝を曲げきって、足裏を体の後ろで上に向けて噴射する!」
「うわ、すごい姿勢。これは考えたことなかった!」
「それじゃ、やってみて?
「
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