第36話 剣戟

 アキラのリア友・びき あみひこはインターネット上でバニーガール姿のXtuberクロスチューバー 〔セイネ〕 として活動し、動画登録者数500万と人気を博している。


 そんなセイネの姿でこのゲームクロスロード・メカヴァースにログインし、初心者のアキラと会っているところを他のプレイヤーたちに見られたため、マナーの悪い者たちに追いかけられた。


 網彦は反省した。


 それで今日、アキラの仲間たちとの待ちあわせ場所、やはり他のプレイヤーの目がある傭兵ギルドに来る際、アバターの容姿と名前を隠すマントを羽織ってきた。


 そして仲間たち一行が移動のために飛空艇に乗って出港、周りにPCプレイヤーキャラクターは自分たちだけになったところでマントを脱ぎ、セイネの姿をさらした。



「アキラ殿のご友人がセイネ殿とは……!」


「……ああ! チューバーのネーチャン!」



 アキラの昨日からの新しい仲間、エルフ侍のアルアルフレートとドワーフ鍛冶師のオルオルジフの両名はセイネのことを知っていたようだ。



「ご無沙汰してます、おふたりとも!」


(んっ……?)



 アキラは最初アルもオルも有名人のセイネを一方的に知っているだけだと思ったが、セイネの応答からするに、どうやら……



「知りあいだったの?」


「ええ。以前、動画の企画でインタビューさせてもらったことがあるの。ゲーム内だけで、中の人とはお会いしていないけど」


「拙者、このクロスロード・メカヴァースが始まる前はクロスソード・メタヴァースという別のVRMMOをプレイしており、そこでも剣術を活かしたアバター操作を人々に伝えていたところ、セイネ殿から取材を受けたのでござる」


「オレが会ったのもそん時だ。アルの手伝いでな」



 アキラはげんなりした。



「セイネ。君がボクに教えてくれた 〔リアルで古流剣術やってるクロスソードのプレイヤー〕 ってアルさんのことだったんじゃ」


「はい! そうです! ホントごめんなさい! アナタからもっとよく話を聞いておけばアルさんのことだって気づいて、余計な手間をかけさせることもありませんでした!」


「はて? どういうことでござろう」


「セイネ、言ってもいい?」


「わたしから言うわ……実はですね。アキラからアルさんと出会った経緯を聞いて 〔怪しい!〕 って思っちゃって。今日きょうは信用できる人か確かめるために同行したんです」


「なんと⁉ そうでござったか……!」


「ぶはははは‼」



 オルが腹をかかえて爆笑する。


 アルがセイネへと頭を下げた。



「こたびは拙者がいたらぬばかりにセイネ殿にまで要らぬ気苦労をかけさせてしまい、まことに申しわけないことをした。どうかご容赦願いたい」


「いえ、こちらこそ、すみませんでした。アキラ、アルさんとオルさんなら大丈夫、おふたりの人柄はわたしが保証するわ‼」


「うん、分かった」


「そう言っていただけるとありがたい……!」


「オレのほうはトーゼンだ」


「てか、こん中でいっちゃん怪しいのはアンタでしょ、ウサ耳」



 これまで黙っていたレティスカーレットが口を開いた。



「あはは……レティさんもお久しぶり。わ、わたしが信用できる人間かどうかは、動画を視ていただければ~」


「営業してんじゃないわよ……まぁ、アルさんへのインタビューってのは興味あるケド。アルさん、そのお話、ここで聞かせていただいてもいいですか?」


「あ、ボクも聞きたいです」


「無論、喜んでお話いたす」


「アキラもレティさんも 〔ロボットに乗らないファンタジーに用はない〕 とか言ってクロスソード嫌ってたくせに~」


「「今それを言うな!」」



 セイネの言うとおりなのだが、そんなことでアルやオルと揉める気はないので黙っていたのに。バラされると気まずい。


 2人の顔色をうかがうと──



「おふたりとも、ロボ好きの鑑でござるな! それに比べ、ロボの出るファンタジーも出ないファンタジーもどちらも好きな拙者らのなんと節操のないことか!」


「妙な自虐にオレを巻きこむんじゃねぇ。いいだろそんくらい」


「そ、そうですよ! ね、レティ!」


「ええ! 好みは人それぞれです!」


「ははは、そうでござるな──では、お話しいたそう!」





「そもそもウィズリム、そしてその初の対応ソフトとなるクロスソードは 〔VRにおけるチャンバラ〕 の革命でござった。極論するとウィズリム以前のVRでチャンバラはできなんだ」



 アキラ、レティは首を傾げた。



「そう、でしたっけ?」


「何作かあったような」


「あるにはあったが不充分でござった。ウィズリム以前のVRコントローラーの、固定されておらず自由に振りまわせるスティックだと、プレイヤーからアバターには動きを伝えられても、その逆はできなんだゆえ」


「「ん……?」」


「あのタイプだとプレイヤーとアバターの姿勢は常に一致する。プレイヤーがスティックを振りきれば、アバターは必ず剣を振りきる。途中に敵の剣があっても、すりぬけてしまうのでござる」


「「……あッ⁉」」


「剣を剣で防ぐ、弾く、押さえつける。そうした相互作用を再現できぬインターフェースでは、剣に限らずあらゆる近接攻撃をリアルには再現できなかったのでござる」


「それがウィズリムではできるように」


「できてるわよね……あれ、なんで?」


「仮想現実内での作用によってアバターが姿勢を変えられた場合、スティックとペダルがそれに連動するよう、モーターが仕込まれているからでござる」


「「……ああ!」」


「モーターで動かせるスティックとペダルの可動域は狭いが、その小さな動きを拡大してアバターのフルの動きと同期させているため、プレイヤーはアバターと姿勢が一致しておらずとも一体感を感じられるのでござる」



 確かに、感じている。



「これによって初めて本格的VRチャンバラが可能になったからこそ、それを待ちわびていたゲーマーたちが飛びつき、ウィズリムとクロスソードは空前絶後の大ヒットとなったのでござるよ」


「「は~」」


「しかし、そこまで本格的だとプレイヤーに求められる技術も本格的にならざるをえぬが、ゲーマーの多くは現実で剣など振ったことはなかったのでござる」


「「あ、あ~っ!」」


(ボクたちと同じ!)


「それで剣術や格闘技などの需要がプレイヤー内で高まり、プレイヤーの中に一定数いたそれらの経験者から、己の技を他のプレイヤーに伝える者が現れた──拙者はその1人なのでござる」

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