第37話 絶景
話しおえた
「アルさんたちのおかげでクロスソードのプレイヤーの近接戦闘技術の水準は大きく底上げされました。現在クロスロードもプレイされているアルさんは、やはりこちらでも同様の活動を?」
「左様。
(うわぁ……!)
アキラは鳥肌が立った。アルが思っていた以上にすごい人だと分かったから。剣士としてすごいのは昨日の時点で分かっていたが、VR業界全体にもたらした業績もすでに半端ない。
そんな人のクロスロードでの一番弟子──ではなく剣友──になれたことを光栄に感じる。アキラは姿勢をただし、アルに向きなおった。
「「アルさん!」」
「アキラ殿、レティ殿?」
「「改めて、よろしくお願いします!」」
「こちらこそ、よろしくお願いいたす!」
「んじゃあ、そろそろ行こうぜ」
「「そうですね」」
「では──船長殿! 目的地へ急いでくだされ!」
「承知いたしました」
NPCエルフの船長が優雅に答えると、舷側から見える地平線と水平線の流れる景色が、動画の倍速再生のように加速した。
飛空艇に乗っているアキラたち
昨夜の祝勝会、アキラとレティに剣術を教えることになったアルが 〔修行に適した地を本拠にいたさぬか〕 と提案するや、2人とも飛びつくように賛同した。
〔修行〕の響きに魅せられたのもあるし、そろそろ始まりの町周辺での冒険にも飽きて別の土地へ旅してみたい気持ちも芽生えていたので、ちょうどよかった。
景色の流れが元に戻る。
この船はシステムによる実質ワープな移動を演出する旅客機なので、PC所有の船での移動なら何十時間とかかる旅程が一瞬に短縮された。そして現れた景色に、アキラは息を飲んだ。
「ボク、前に行きますね!」
「アタシも行ってきます!」
アキラはレティと駆けだした。船の中央部の甲板上だと、前にある1階分 高くなった船首楼が邪魔で前方の景色がよく見えない。その船首楼に登り、船の尖った先端部の柵にかじりつく。
「「わぁ……!」」
世界樹──まさにそう呼ぶにふさわしい威容だった。緑の葉を茂らせた巨木が天地を貫き、青空を左右に分断している。
公式サイトの説明によれば、このゲームでの地球の中心部にある
それはこの飛空艇シーラカンス号の出典元でもある 〔
アルもまたエルフ。
アバターの外観をエルフっぽくし、そう
なおアルはこの世界樹に住む 〔聖騎士タンバリン世界のエルフ〕 ではなく 〔
「それに浮き岩も! 絶景だね!」
「ええ! これぞファンタジー!」
さらに世界樹の周囲の空中には、無数の岩塊が浮遊していた。中には家が建っているものもある。どういう理屈で浮いているのか分からないが、そんなことは考えるだけ野暮というもの。
船はそのあいだを縫って飛んでいく。すると、同様に世界樹へと近づく、他の 〔空飛ぶ船〕 の姿があちこちに見えた。
昨日 乗ったドラゴナイトの熱飛行船。〔
「「
それは船ほどの巨体を持つ、姿は海亀の四肢と尻尾のあいだにムササビのような飛膜が発達した、実在はしない生物 〔
アキラとレティがロボットアニメの中で最も愛し、その主人公とヒロインの服装を装備してもいる 〔
主人公アタルとヒロイン・フェイ姫もあれに乗ったことがある。自分たちもいずれ乗りたい──そう、きゃっきゃきゃっきゃと騒いでいる内に、世界樹が間近に迫ってきた。
「「でっか⁉」」
近づくと改めて迫力がヤバい。天然物だろうと人工物だろうと現実でこれほど大きなものを見たことはなく、表す言葉が浮かんでこない。
船はかなりの高空を飛んでいるはずだが、それでも世界樹全体からすると根もと付近に過ぎなかった。そして周りの船ともども、最も低い位置から生えている1本の先端へと向かっていく。
そこには巨大な球があった。
中が空洞になっている球殻。
手指のように広がった枝々の上に乗っている。その外殻の1ヶ所に開いたトンネルをくぐると、そこには小世界とでも呼ぶべき雄大な空間が広がっていた。
球の上半分は大気。
球の下半分が大地。
そういう作りのようだ。
大地は主に草木の少ない岩山で、その谷間には川が流れており、その川が流れこむ大地のへりで球殻に接している湖へと、飛空艇は着水した。
他の船も、あるものは水上へ、あるものは岸辺の地上へと降りていく。この湖岸に築かれた施設こそが、この世界樹と他所の土地を往来する空飛ぶ乗物が発着する 〔空港〕 だった。
「アキラ殿ー、レティ殿ー」
「「はーい!」」
アルに呼ばれて2人も合流、一行は下船した。
そして入った、屋根が高く広々とした建物は内装こそ神殿のようだが、アキラは家から遠くない羽田の東京国際空港とも似た雰囲気を感じた。
「じゃ、オレはここで」
「うむ。では、またな」
「「「お疲れさまでした!」」」
空港を出た所でオルが別れた。世界樹には枝先や幹の中にここと同じ球が計10個あり、アキラとレティがアルに修行をつけてもらう球と、オルが新しく武器屋を構える球は別だからだった。
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