第16話 特訓
(また間違えた……)
それを蒔絵に隠したくなかった。黙っていては裏切りになる。しかし打ちあけるのには勇気が要った。それを振りしぼって報告した自分は正しいはずだった。
不正解。
蒔絵はそんなことを聞かされても不愉快なだけで 〔黙っていればよかったのに〕 とのことだった。アキラは自分が相手の気持ちを考えていなかったと気づいた。
自己満足だった。
懺悔して許されて、罪悪感から解放されたかった。そんなエゴのために蒔絵に負担を強いてしまったのだ。
それでいてムシのいいことに、怒られて落ちこんではいても、後ろめたさがなくなって気が楽になったのも事実だ。
なら蒔絵に世話をかけた分、立派なパイロットになって彼女の作ったロボットに乗り、あの日の約束をよりよい形で果たして報いなければ。そのためにもクロスロードに打ちこもう。
彼女と交流していくことに、もう不安はない。浮気に発展しても蒔絵からすでに許しは得ているから──ではなく、決して友達の域は超えないと己に言いきかせたから。
⦅目移りでも浮気でも⦆
⦅いくらでもしなさいな⦆
蒔絵にああ言われたからといって浮気するつもりはない。
蒔絵への裏切りにならなくても。
自分の気持ちは裏切れないから。
変なことになる心配さえなくなれば、レティと遊ぶのは楽しみだ。あれほど気の合う友達を得たのは生まれて初めてだから……気持ちの整理がついたところで、アキラの意識は眠りに落ちた。
¶
次の日から、アキラとレティの特訓の日々が始まった。
アキラは平日は小学校から帰ってから夕方までクロスロードにログイン。土日祝日は朝から昼までログイン、昼食のため一時ログアウトし、それから夕方まで再ログイン。
そしてアキラがログインできる時はレティもログインでき、予定が合わないという日はなく、ずっと一緒に行動した。
内容は──
『それでは授業を始める‼』
『『よろしくお願いします‼』』
そこで学べる多数の項目の内、1つを受講。それが終わったら町を出て、フィールドをうろつく雑魚敵との戦闘で習った内容を実践。そしてまた道場に──
というサイクルをくりかえす。
道場での授業は徒歩のアバターのままでも、メカに乗った状態でも受けられるが、アキラは常に
現実のSVのシミュレーター代わりとするためクロスロードをしているアキラは人間大アバターの練習に時間を割くより、SVと同じ4メートル大で四肢の操作時にSVと同等の抵抗がある機神の練習に専念したかったから。
とはいえレティの都合を無視するつもりもなかったが、幸いなことにレティ側に異存はなかったようで、快諾してくれた。それで──
アキラは
レティは
それぞれの機神に乗って、同じく全高5メートルの姿を取ったタロスから特訓を受けた。剣で戦う練習、機神の手のひらから光弾を放って射撃の練習、相棒との連携の練習、などなど……
そして1項目を修めるごとに町から出て実践。相手は近くの洞窟に棲むゴブリン──身長1メートルの小人型モンスターと、その群れを率いるオーガ──身長5メートルの巨人型モンスター。
この時はアキラも徒歩でも戦った。
洞窟はボスのいる最奥の広場は機神が存分に戦えるほど天井が高いが、そこまでの通路は天井高が3メートルほどしかなく機神を呼びだすことが不可能。
自然、通路では緑髪アキラとレティのアバターのままでゴブリンと戦い、ボスの間に到達したら機神を召喚してオーガと戦うという流れになる。
〔小さな敵との戦闘〕 から 〔大きな敵とのメカ戦〕 という流れはアタルのアニメでもそうだったのでアキラもやぶさかではなかったが、やはり徒歩での戦闘には手こずった。
機神でばかり修行するから。
その弊害はレティもだった。
人間大のアバターは軽く、機神とは操作感が変わって同じようには動けない。それでも道場で習った内容は活かせたし、何度もゴブリンと戦う内に徒歩での戦いにも慣れていった。
また、ログイン中ずっと動きまわっていたわけではない。クロスロードはただ歩くだけでもプレイヤーが自分で歩くようにペダルに固定された足を動かすので体力を消耗する。
疲れた時は小休止。
そういう時、2人はアバターを座りこませておしゃべりに花を咲かせた。話題は初めは機神英雄伝アタルについてが多かったが、徐々に 〔このゲームでの戦い〕 についても増えていった。
「チュートリアルも残りわずかね」
「なんだかあっというまだったね」
「アタシたち2人とも、少しは上達したと思う。でも正直、全然まだまだって感じなのよね。特に剣! 近接攻撃‼」
「うん……射撃はシステムアシストが充実してて、きっと現実で銃を撃つより遥かに簡単に当てられるようになってるけど。剣を振るのは現実と変わらないから」
「それ! チュートリアルで習える剣での戦いかたは多分、初歩の初歩でそこまで本格的じゃない。ちゃんとした技術を習わないと、このままじゃ頭打ちよ」
「ならリアルで剣術? 剣道? を習う……?」
「痛いのは絶対イヤ」
「そ、そう……」
ここVRでなら剣で斬られてもプレイヤーが痛みを感じることはないが、現実で剣を習うとなると竹刀のように安全に考慮した代用品を用いても肉体の苦痛はさけられない。
それなら──
「なんか、クロスソードのほうにはリアルで古流剣術とかやってるプレイヤーがゲーム内でも教えてるって、セイネが言ってた。こっちにもそういう人がいないか探してみない?」
「いいわね! ダメでもともと、探すだけ探してみましょ!」
「それなら、ここにおるでござるよ」
「「⁉」」
急にした声にアキラとレティが後ろを振りむくと、そこには江戸時代の武士のような格好をした、長い銀髪から尖った耳の突きでた美男がたたずんでいた。
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