第24話 意欲
この熱飛行船 〔ガンダールヴル号〕 の船足は時速100キロメートル。現実世界の日本において自動車が高速道路で出せる法定最高速度と同じ。
始まりの町から目的地までの距離は100キロメートル。到着まで1時間かかる計算になるが、ゲーム内での移動で1時間も待たされてはプレイヤーは苦痛だ。
実際はそんなにかからない。
ここは
システムはこの内部であらゆる
天翔けるガンダールヴ号の船内でアキラ、
そして4人で作戦会議。
またプレイヤー各人がトイレなどを済ませるための小休止……そうしている内に1時間が経過すれば船は普通に目的地に到着してしまうが、そうはならず時間が余った。
そこで
「「ありがとうございました!」」
「お世話になり申した」
「助かったぜ、みんな」
「道中お気をつけて。ご武運を!」
山のふもとにある湖に降りたったガンダールヴ号が接岸すると、アキラたちは船長ら乗組員たちにお礼を言い、応援の言葉を受けとり、船から斜めに下ろした板を伝って上陸した。
そこは小さな村だった。湖岸にあるが港としては発達しておらず、まばらに建つ小さな民家も急ごしらえな雰囲気がある。
「いらっしゃい!」
「お客さんだー!」
「ようこそッス!」
そして村中から集まってきて4人を出迎えたのは、身長が高くともアキラと同じ120センチメートルほどで、多くはそれよりも小さな大地の妖精、ドワーフのNPCたちだった。
みな人間の子供のような背丈。それでも顔は老けている者が大人で、顔も子供のような者は本当に子供なのだろう。
その中から村長らしき老年男性が進みでてきた。
「お待ちしておりました、傭兵の皆様」
「話は聞いてる。オレらに任せときな」
パーティーを代表して、同じくドワーフ(PCは外見をいつでも好きに変えられ固定の種族というものはなく、ドワーフだというのはあくまでプレイヤーの自主設定)のオルが応対する。
「お、恩に着ます……!」
その声からは悲痛なものを感じた。
この村はこの人たち本来の居住地ではない。ドワーフは地上より地中を好む種族。この人たちも、もともとは山中の坑道で鉱石を掘って暮らしていた。
だが火を吹く
だが、ここも安全ではない。魔龍の部下に襲われ、もう何人も死者が出ている。それで傭兵ギルドに魔龍退治を依頼したのだ。
アキラは胸がぎゅっとした。
話はオルから聞いていたが、聞くのと見るのとでは大違いだ。苦難にあえぐ人々の生の姿を見ると 〔なんとかしてあげたい〕 という感情がこみあげてくる。そこに理屈は必要なかった。
「アタシたちがなんとかします!」
「拙者らにお任せくだされ」
「絶対に、ボクたちがお助けします!」
(アタルもこんな気持ちだったのかな)
アキラはアタルに憧れてロボットのパイロットを目指したが、憧れれば相手を理解できるわけではない。その時々でアタルがどんな気持ちだったのかアキラには想像がつかないケースも多い。
それが今、かつてアタルが置かれたのと似た状況に直面して 〔きっと彼もこうだった〕 と思える気持ちに心を燃やせる。こんな体験ができるクロスロード、なんて素晴らしいゲームだ!
¶
「いざ、出陣‼」
「「いってきます‼」」
「いってくらぁ」
「いってらっしゃーい!」
「どうかお気をつけて!」
号令したアルを先頭に、4人は村を出た。
これからの予定は、村の背後にそびえる山を登り、山腹にある入口から坑道に入って中を進み、最後に内部の大空洞で魔龍シーバンを倒す。道中、襲ってくる魔龍の部下を倒しながら。
ただ坑道内部の構造や、魔龍とその部下たちの戦力の詳細は不明。この
そこはぶつかって確かめながら進むというのが、オルの立てた方針だった。別に負けても構わない。これはゲーム、PCのアバターがやられてもプレイヤーは無傷なのは当然として、そのPCもすぐに復活する。任務も何度でもやりなおせる。
それは当然だ。
だが任務の依頼者である村人たちの姿を見たあとで 〔負けてもいい〕 とはアキラは思えなかった。自分たちが負けたところで彼らが本当に魔龍に滅ぼされることなどないのだとしても。
(やるぞ!)
4人は村から山へと続く、山の裾野に広がる森に切りひらかれた道を歩いた。道幅は2車線くらい、舗装はされておらず地面がむきだしだ。
視界は悪い。
左右が森なのは当然として、道がジグザグと曲がりくねっているため前方もすぐ木々にさえぎられ遠くまでは見えない……その何度目かの曲がり角を曲がった時、前方にそれらは現れた。
骸骨の軍団。
普通なら動けるはずがないが、なにか不思議な力で動いている人間の骨格標本が、粗末な剣と鎧で武装した姿の兵士が何体も、隊列を組んで道を埋めつくしている。
「「
「で、ござろうな」
「だな」
アキラとレティが
それは死んだ人間の骨が動きだしたアンデッド・モンスターのように見えて、実際は龍の牙から生みだされた魔法生物だった。
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