第113話 誤解

「クライムさん、サラさん……?」



 アキラはこの2人に会う心の準備ができていなかった。裏切られたという気持ちと信じたい気持ちがせめぎあい、そんな相手にどう接すればいいか分からずにいた。


 心臓がばくばくして、はちきれそうだ。


 集会での発表のほうが、よほど楽だった。



「やぁ、カワセミくん」


「やっほー、少年♪ 来ちゃった☆」



 クライムとサラサラリィの声色は普段と変わらないようだった。敵に回っておいて、どうして平然としていられるのか。アキラは余計に混乱し、なんとか一言だけ絞りだした。



「えっと、どうして……?」


「わたしが声をかけたのよ」



 答えたのは2人ではなく、2人と一緒に来たセイネだった。



「セイネが?」


「これは今日の集会の打ちあげだから、いつもの面子の中でも空中格闘研究会には属していないおふたりは不参加の予定だったけど、みんな一緒のほうが楽しいじゃない」


「あ、いや、その」



 そういう意味で 〔どうして〕 と問うたのではない。


 もうハッキリ聞くしかない。


 アキラはそう、思いきった。



「クライムさんにサラさん、ボクたち研究会の敵になったんじゃなかったんですか? なのにセイネの誘いに応じるって」


「いや、それは誤解だ。すまない、不安にさせてしまったか」


「いやだなぁ、あたしが少年と敵対するわけないじゃーん☆」


「……サラさんは初め、敵だったような」


「それも対戦式ミッションでたまたま敵陣営だっただけじゃん? 今回だって同じだよ。ぶつかったら手加減しないから、お互い全力でやりあおーね♪」


「え。じゃあ空中騎馬戦同好会の一員として、ボクたちと決闘するのは間違いないんですか……?」


「そだよ~」



 サラはやはり悪びれもせずに答えた。自分とはこの決闘の捉えかたが根本的に異なるらしい。温度差で風邪を引きそうだ。戸惑っていると、セイネがタメ息をついた。



「思ったより深刻ね」


「セイネ?」


「さっきはああ言ったけど、実はその話をお聞きしたくておふたりに来ていただいたたのよ。続きは奥でしましょう? 他のみなさんをお待たせてしてしまってるし」


「そ、そうか、そうだね!」





 アキラは3人を連れて玄関からリビングに戻り、そこで総勢8名となったメンバーでテーブルを囲み、まずは打ちあげがはじまった。


 乾杯して、歓談して……


 程なくセイネが切りだす。



「じゃあ、そろそろ例の話をしますね。クライムさんとサラさんからはもう事情をうかがっていますので、主にわたしからみなさんにお話します」



 みなが静まり、聞く体勢になった。



「初めに誤解を解いておかないと。空中騎馬戦同好会・代表のミーシャさんが、わたしたち空中格闘研究会の集会に乱入してきて、わたしたちへの敵意をあらわに決闘を申しこんできた。これは事実です」



 当時を思いだしながら、アキラは胸中で頷いた。



「ですが空中騎馬戦同好会に所属している全員がミーシャさんと同じ敵愾心をわたしたちに持っているわけではありません。順番が違うんです」


「順番?」



 アキラはつい聞きかえした。



「ええ。確かに空中騎馬戦同好会はわたしたち空中格闘研究会の前に敵として現れた。でも同好会の会員たちは、わたしたちと敵対するために同好会に入ったんじゃない。空中騎馬戦を学ぶために入ったのよ」


「まぁ、そうだよね……?」


「クライムさんもサラさんも自力飛行による空中格闘は追求せず、他力飛行による空中騎馬戦を追求するプレイスタイルだったから、空中格闘研究会を発足した時は不参加だった。そのあと空中騎馬戦同好会が発足したら、そっちに入るのは当然よね?」


「うん」


「ただ自分の求める技術を得るために入会したのであって、動機に空中格闘への敵意なんてないのよ。おふたりとも自分では空中格闘はしないだけで、別に空中格闘を否定されているわけではないのだから」


「……」


「でも入会後、同好会は代表のミーシャさんの意向で空中格闘研究会にケンカを売る事態になってしまった。それは決しておふたりの、そして多くの同好会員の本意ではない。そういうこと」


「あ、あああああ……!」



 セイネの言葉がじっくり浸透してきて、その意味を理解できた時、アキラは自分がとんでもない思い違いをしていたことも理解して、血の気が引いた。


 クライムとサラへと全力で頭を下げる。



「すみません! ボクったら早とちりして、勝手におふたりに 〔裏切られた〕 とか思って気まずくなってました‼」


「気にしないでくれ。分かったもらえてよかったよ」



 クライムは即、そう言ってくれた。


 サラのほうは──



「えぇ~? そんなこと思ってたんだ? でもその割に 〔この裏切者ーッ‼〕 ってキレて突っかかってきたりしなかったじゃん。裏切者でも責めたくなかったんだ? 少年は優しいにゃぁ、そういうトコ好きだぞ♪」


「そんな立派なものじゃないです。単に気弱なだけで……本当にすみません!」


「にゃはは、怒ってないから気にしないで。誤解したのも無理ないよ、あたしとクラッチも映ってたあの動画、撮った時はミーちゃんの台詞はまだなくてさ。まさか、あんなこと言いながら送りつけるとはね~」



 〔ミーちゃん〕 とはミーシャのことだろう。


 また人に変なあだ名をつけて……


 が、話が逸れるのでアキラは別のことを聞いた。



「じゃあ、ミーシャさんは同好会のみんなで撮った動画に、自分個人の勝手なコメントを載せたってことですか? ボクたち研究会がデマを広げてるとか、同好会の人たちを侮辱してるとか」


「それがさ。あたしたちの許可とか取らずに編集した動画を使ったってトコは勝手なんだけど。あの主張自体は彼女1人のものってわけでもないんだよね」


「自分やサラくんにそのつもりはないが、彼女と同様の主張をして研究会に敵意を燃やす同好会員は少なからずいるのを、我々は内部で見ている」


「そして」



 サラとクライムの話を、セイネが継いだ。



「わたしたち研究会が、空中格闘戦は空中騎馬戦よりも優れていると、同好会の人たちを見下している──って話は、あながち嘘とも言えないのよ」


「えっ⁉ ボクそんなこと思ってないよ⁉」


「わたしだって! でもウチの研究会には大勢の人がいる。その中にSNS上で空中騎馬戦を侮辱する発言をした人がいるのは、どうやら事実みたいなの」

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