第11節 兎耳&令嬢

第112話 挑戦

『本日はあなたがた──そう、空中格闘研究なるままごと﹅﹅﹅﹅クラスタの皆様にお伝えすることがあって参りましたの』


『ミーシャさん、困ります!』



 ミーシャと名乗った金髪縦ロールお嬢様PCプレイヤーキャラクターは、上空に現れた巨大ウィンドウの中でしゃべりつづけた。それに対しこの場──空中格闘研究会の代表者である金髪バニーガールPCセイネが抗議するが──



『耳の穴かっぽじってよーっくお聞きあそばせ!』


『もしもーし!』



 ミーシャはとまらず話しつづける。セイネの言葉に表情ひとつ動かさなかったので、無視ではなく聞こえていないのやも。


 となると、この映像がどこかにいるミーシャとのリアルタイムでの通信なのか、それともすでに録画されたものを流しているだけなのかも分からない。


 などと考えつつ、アキラは事態を見守った。



『あなたがたはこのゲームでの空中戦においては自力飛行による格闘戦﹅﹅﹅こそが最良の手段であり、空中騎乗物を用いた他力飛行による騎馬戦﹅﹅﹅は劣った手段、誤った選択だと吹聴しています』


(えっ?)



 アキラは初耳だった。知らなかっただけで、そういう事実があるのだろうか? そう思ったことを、セイネの声が否定した。



『それは誤解です!』


「そうだ!」


「勝手 言ってんじゃねぇ!」



 他の参加者たちも続き、会場は騒然となった。


 が、やはりミーシャは構わずに話しつづけた。



『かようなデマの拡散も、空中騎馬戦を愛するプレイヤーたちへの侮辱も、言語道断! ゆえにわたくしは、あなたがたの認識と性根を叩きなおさねばならないと確信いたしました‼』


『確信すんなし⁉』


『そこで! わたくしども 〔空中騎馬戦同好会〕 はあなたがた 〔空中格闘研究会〕 に決闘を申しこみます!』



 バァーン‼



 ミーシャの宣言と同時にウィンドウの映像内でカメラが引き、ミーシャの全身を、そして彼女の周囲を映しだした。


 どこかの青空を背景に、ミーシャと彼女を囲む大勢のPCの姿があらわになる。彼ら──おそらく 〔空中騎馬戦同好会〕 とやらのメンバーたちは全員、それぞれが空中浮遊する空亀1匹の背に腕を組んで仁王立ちしていた。その中に──



(えっ⁉)


『その闘いでわたくしどもが勝利することで、自力飛行よりも他力飛行が、空中格闘戦より空中騎馬戦のほうが優れているという事実を証明してみせましょう!』


『ちょ、ちょっと待っ──』


『日時と会場は追って伝えます。それでは皆様、ご機嫌よう。首を洗って待っていなさい。オォーッホッホッホッホ‼』



 ブツッと無情な音を立て。


 巨大ウィンドウが閉じた。



『きっ、切れた! いったいなんなのよ、んもォーッ‼』



 セイネの声が響く。


 参加者たちもみなそれぞれに思うところを口にして会場は騒然となった。そんな中アキラは、ミーシャの語った内容とは別のことに気を取られていた。



「クライムさん、サラさん……?」



 巨大ウィンドウに空中騎馬戦同好会のメンバーらしき大勢のPCたちが映った時、アキラはその中にこのゲームでの友人フレンドであるクライムとサラリィの姿を見つけていたのだった。





『え~、この件への対応はあとでSNS上で話しあうとして、この場はお開きとしましょう。みなさん、お疲れさまでした!』


 ざわ……ざわ……



 セイネがミーシャの出現でさえぎられていた最後の台詞を言いなおし、空中格闘研究会の第1回集会は閉会した。


 気持ちよくピシッと終わるはずだったのに最後に水を差され、広がる混乱を収拾できず、ブツ切りに。


 なんとも締まらない。


 アキラは 〔せっかくの集会を台無しにされた〕 と感じたし、また参加者の多くも同じ想いであることを会場の雰囲気から察せられた。


 そんな気分を抱えたまま、アキラは打ちあげの場に向かった。


 この打ちあげは集会の成功を祝して参加者全員で行うものではなく、アキラの交友関係のいつもの面子によるプライベートなお疲れ会。


 場所は、集会をした大江戸城の2階からエレベーターで昇った先。高さ3500メートルの屋上のさらに上に建つ、イカロス王国軍の司令部。その中に間借りした傭兵ギルドの、傭兵用の個室。


 つまり傭兵であるPCが私的に使える空間だった。


 そこに身内だけで集まるなら有名人のセイネも人目を気にせずに、ファンに声をかけられて邪魔されることなく楽しめる。


 そのセイネは、そのままの格好でいくとやはり目立つしアキラと一緒にいて関係を疑われても困るので会場までは別行動。どこかで容姿を隠す灰色マントをかぶって1人で向かっているはず。


 アキラは集会の時から一緒にいたカイルエメロードアルアルフレートオルオルジフたちと共に向かった。みな、集会用の飛行マントとサンダルを外して普段の格好に戻っている。



「お疲れさまでした」


「「お疲れさま」」


「お疲れさまでござる!」


「おーう。お疲れさん」



 そのセイネ以外のメンバーで先に部屋に入り、リビングルームのテーブルを囲んだ椅子に各々が腰をおろして、セイネの到着を待つことにする。会話は、自然と閉会式でのことになった。



「なんだったのかしら、あの子」



 誰にともなくそう言った母に、アキラは聞きかえす。



「金髪縦ロールの?」


「そう」


「前、スカイカー同士でニアミスした子だよ」


「あっ、あの時の!」


「ボクはそれしか知らないけど、セイネと同じXtuberクロスチューバーって名乗ってたし。有名人なんじゃないかな。ボクは詳しくなくて……お父さんは?」


「ごめん、ぼくも知らないや」


「オレも知らねーなぁ」


「拙者が知ってるでござるよ」



 この中ではアルだけが知っているらしい。


 集まった視線を受け、アルは話しだした。



「ミーシャ殿は動画サイトの登録者数は100万人に達する人気者。Xtuber全体で上位に数えられる実力者でござる」


「確かセイネの登録者数はその5倍の500万だったよな? 上には上がいるってか。じゃ、セイネの人気を妬んであんな行動に出たってことか」


「オル、そう決めつけるものではない。確かにミーシャ殿はセイネ殿と不仲と噂されておるが……セイネ殿に話を聞けば、もう少しなにか分かろう」



 ピンポーン



「噂をすれば、ですね」



 セイネが到着したのだろう。アキラは玄関に迎えにいった。そしてドアを開くと、そこにはセイネと……ミーシャ率いる空中騎馬戦同好会に入ったはずの、クライムとサラリィが一緒にいた。

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