第6話 操縦
「おっ」
そこに工場内部が映しだされる。
「原作どおりだ……!」
アキラが首を振って上下左右に顔を向けると、鏡がスッと移動して常にアキラの視界の正面に陣取り、
これも操縦者の頭と連動して
ズッ──
「うわっ!」
ふと足もとが抜けるような感覚が──ペダルの触覚フィードバックによって──して、鏡に映る景色が上にスライドしだした。
「⁉」
──踏みだそうとして、脚が上がらずに動きをとめた。重くて上がらない? ……いや、改めて力を込めると、今度はちゃんと鏡に映る
これはあれだ。持とうとしたものが見た目から予想したより重かった、あるいは逆に軽かった時にガクッとなる、あの現象だ。
ペダルの触覚フィードバックから感じる
考えてみれば当然の話だっだ。
重いと分かった上で力を込めれば、ちゃんと動く。緑髪アキラのアバターほど軽快には歩けないが、ストレスを感じるほどではない。むしろ──
(こ、これは……)
そもそも人間の力で巨大ロボットの体を動かせるわけがない。それだけの重さをペダル越しに感じているのに、実際には
それは単に
自力では動かせるはずのない重い脚を、動かそうと思えば必要な力が発揮されて動かせる。なんとも言えない不思議な感覚だが、確かなのは──
(気持ちいい‼)
ガション、ガションと、大きな足が力強く床を踏みしめる振動をペダルから感じながら、アキラは
ゾクゾクと快感が全身を駆けめぐる。
従来のロボットゲームにはなかった。
これがロボットを操縦するということ。人がどれほど鍛えようと得られるはずのない巨大な力を我がものとする。ただ歩いただけで、そう理解させられた。
『チュートリアルを開始します』
「──ハッ! 意識飛んでた!」
ナビ音声に我に返る。扉をくぐった
砂地はぐるっと壁に囲まれており、壁の上には無人の観客席が天井付近まで階段状に続いている。野球場のような、だが近代的なスタジアムではない。建材は石のようで遺跡のような雰囲気。
古代ローマの円形闘技場のようだ。
『よくぞ参った‼』
「へっ──うわ⁉」
ズシャァァン‼
野太い男性の声が響いたかと思うと、上から降ってきたなにかが砂場の中央に激突し、もうもうと砂埃を上げた。その向こうに人影らしきものが見えてくる。
そこに現れたのは背丈がこちらと同じ約4メートルほどの、筋骨隆々で暑苦しい顔をした若い男性の姿の……動く銅像だった。
ほぼ裸で金属光沢の肌が輝いている。腰と手足に部分鎧。右手には短めの剣。確かローマの闘技場で戦った
『我輩は
タロス……ギリシャ神話に登場する青銅製の自動人形。ローマとギリシャは親戚のようなもの、場違いには感じない。
『汝に戦の手ほどきをする者なり』
ローマの闘技場にしろギリシャの自動人形にしろ、
これは初期機体の出身作品に関係なく全プレイヤーが受ける、共通のチュートリアルイベントなのだろう。
『さぁ、剣を抜けぃ‼』
『スティックの武装選択スイッチを押せば、あとは全自動で機体が剣を装備してくれます。あるいは、右手を動かして剣の柄を握ることでも装備が可能です』
女性の声。
これまでのナビ音声も引きつづきサポートしてくれるようだ。
アキラは右スティックに力を込めた。自動なんてつまらない。
スティック操作で
ガシッ──ガチャッ‼
瞬間、アキラの右手にずしんと重みが来た。剣の柄を握ったことに反応して、
片手ではつらい。
アキラは
『まずは適当に打ちこんでこい‼』
「はい! それじゃ、行きます‼」
アキラは重い抵抗を示すペダルをできるかぎり素早く動かした。連動して
ズダッ! ズダッ! スダッ!
砂場の端から中央にいるタロスのもとへと真っすぐに駆けていく
人機一体‼
アキラは今まさに
「やーっ‼」
ズガッ
「あぁっ⁉」
剣の切先が、よけたわけでもないタロスの足もとに突き刺さった。間合いを見誤ったのだ。剣が地面に固定されても、ここまで走ってきた勢いは消えず、
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