第29話 切味
「
「
アキラと
同型のそれらは──
アキラの青き
レティの赤き
両機は頭部ハッチを開き、そこへ不思議な力で主を吸いよせ、飲みこむ。すると主たち、アキラとレティは己が機神の
こうしてアキラとレティが
「「
2人がそれぞれ大きな赤い宝石を握りしめながら叫ぶと、それらから爆発的な赤光があふれだし──その光が、まるで飴細工のように両者の体にまとわりついていく。
まるで甲冑になるように。
だが、それだけではない。
両者の背中に回った光がそこからさらに上下に伸び、枝分かれして、全高5メートル余りある人型──いや、長い尻尾があり後脚で直立する
カッ──!
そして光が弾けて消えると、飴細工のようだったものは冷たく滑らかな金属へと変化した。両者の体を覆う甲冑と、その背中から生えた直立する龍の形の──機械細工。
これこそ覇道大陸ドラゴナイトの世界において、人に馴れぬ龍の力を人が御そうと夢見た錬金術師たちの執念の結晶。その力を託された 〔
〔
龍の脳から採れる赤い宝石 〔
物質化した
「
「
銀髪のアルの機体は銀色。
金髪のオルの機体は金色。
今や甲冑を着た2人の
「参る‼」
その姿勢に同期して腰を落としていた白銀の龍細工もろとも、放たれた矢のごとく──前方で伏した状態から体を起こそうとしている
「御免‼」
アルの気合いの声とともに、その刃が魔龍の脳天へと稲妻のように振りおろされた。アルの古流剣術を活かしたアバター操作は
カイーン‼
だが巨刀は、魔龍の体表面をびっしり覆う赤い鱗にとめられてしまい、内部まで斬りこむことができなかった。
これによって、パーティー4人の中で最強のアルの力が、魔龍には通じないことが証明された。
¶
「アルさんの刀とアタシの剣、スペック上の攻撃力は変わんないのに、アルさんのほうだけ木を斬れたのって、結局どういう仕組みだったんですか?」
森で
坑道に入るまで敵に襲われずに暇だった道中、レティはアルにそうたずねた。アキラは 〔使い手の腕がいいほど切味も上がるだけでは〕 と思ったが──アルの答えは違った。
「〔速さ〕 でござるよ」
「速さ?」
「詳しく話すと難しくなってしまうのでござるが、ごく単純化して申せば、刃物とは同じものでも速く動かすほど切味が増すものなのでござる」
「じゃあ、アルさんが木を斬れたのは動きが素早かったからで、アタシたちが斬れずに剣を折っちゃったのは遅かったから?」
「左様。あの時のおふたりの剣もその速度の分だけ切味は上がっておった。ただ太い木を切断するには足りず途中でとまってしまい、そこで剣にこめた力が剣自身を痛めてしまったのでござる」
「なるほどー」
もしアルの答えがアキラの予想どおり 〔腕がいいから〕 だったら質問者のレティは不満を覚えたかもしれない。
そうではなく、腕がいいことで変化する条件のなにが切味に関与するのかの原理を、分かりやすく噛みくだいて答えてくれた。
なんていい人だ。
「ただし。どんなに速度を増して切味を上げようと、斬れぬものは斬れぬ。これもまた刃物の必定なのでござる」
「龍牙兵が合体したらアルさんでも斬れなくなったこと?」
「トホホ……そのとおり。〔切れる〕 という現象は
「合体したら刀より硬くなっちゃったんだ」
「あれには参ったでござる……合体したとはいえ魔龍の手先ごとき斬れぬとあっては、魔龍のことも斬れるかどうか……まぁ、試してみねば分からぬでござるが」
¶
『許さぬ!』
「おっと!」
ゴォッ‼
アルの打ちこみを額の鱗で受けとめた魔龍シーバンが、ぐわっと口を開いて炎を吐いた。しかしアルはその動きを読んだらしく、至近距離にもかかわらず余裕を持って回避した。
そして大きく後ろに跳びのき、仲間たちのもとへ帰還する。
「やはりダメでござった!」
『『了解です!』』
「お疲れさん!」
パーティーに動揺はない。今のはアルの刀で斬れるか試しただけ、斬れない可能性を覚悟していた一行は、打ちあわせていたとおりに次の作戦に移った。
「んじゃ、次はオレだ!」
今度はオルが
ダッダッダッ!
「おぅりゃぁッ‼」
地面の一蹴りで一瞬で距離を詰めた先ほどの
ガイーン‼
『グアァッ‼』
オルの斧も魔龍の鱗を斬れなかったのはアルの刀と同じだった。だが刀よりも重い斧による一撃は、斬れずとも衝撃によって魔龍にダメージを与えていた。
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