第62話 奇縁

 普通の階段状エスカレーターと違って踏段ステップが平らに並んだまま動いていく 〔動く歩道〕 こと、水平型エスカレーター。


 その上に立っているだけでも端から端まで運んでもらえるし、その上を歩けばさらに移動時間を短縮できる。


 通路の左右に設けられたそれの片方に乗ったアキラと両親は、その上を歩いて進むことにした。


 ほどなく突きあたりに到着。


 通路側はそこから昇り階段になっており、水平型エスカレーターはそこから階段状エスカレーターとなって続いている。3人は歩くのをやめて階段状エスカレーターに上まで運ばれた。


 登りきったところでエスカレーターが終わり、踏段ステップから降りる。アキラは今度こそ屋上と思ったが、そこにもまだ天井があった。しかも高い。ホテルのロビーのような吹きぬけの空間。



「ここが目的地?」


「そう。イカロス王国軍の司令部。この高さ3500メートルの巨城の、ほとんどが飛行場になってる屋上の、中心にある建物さ」



 父の解説にアキラは苦笑した。


 屋上の上に、さらに建物とは。


 大江戸城のスケールに比べれば小屋みたいなもだろうが、これまでのスケールがおかしかったのであり、ここも普通に大きい。そして大勢の人で賑わっていた。ほとんど傭兵、PCプレイヤーキャラクターだ。



「傭兵ギルドもここに?」


「そっ、間借りしてる」


「あ、あそこね」



 母が傭兵ギルドの受付を見つけ、3人でそちらに向かう。


 NPCノンプレイヤーキャラクターの事務員が座るカウンターで、本拠ホームをこの場に変更。さらに、ここで受けられる任務ミッションを表示してもらい、そこから自分たちに合った条件のものを絞っていく。


 このゲームクロスロード・メカヴァースでPCが傭兵として受けられる任務ミッションには、参加人数や使用できるメカの大きさなどに制限のつくものもある。


 面倒なのがメカの大きさ。


 アキラのすいおうまるが4メートル、カイルのフーリガンが約20メートル、エメロードのアドニスも約20メートル。両親の機体はほぼ同サイズだが息子の機体とのサイズが離れている。


 サイズ差の大きいメカ同士は一緒に出撃できる任務ミッションが限られる。安易に認めるとアキラが初陣でレティスカーレットともども網彦セイネに助けられた時のように 〔大きいメカだけ活躍して小さいメカの存在意義がなくなりかねないから〕 とアキラは公式サイトで読んだ。



(あぁ、また)


「あっ、これ」



 アキラがレティのことを思いだして胸が痛み、首を振って考えまいとしていると、父がなにか見つけたらしく声を上げた。



「よさそうだよ」


「「どれどれ」」



 母と2人で、父の正面のウィンドウを左右からのぞきこむ。


 そこに書かれた任務の定員は6名。内4名は全高5メートル級のメカを使用、あと2名の使用メカは飛行能力があることが条件で大きさは問わない、というものだった。


 また、PC6名を集める必要はない。


 アキラがこれまで受けた任務は、申請した個人もしくは1パーティーのみが参加する形式だったが、これは複数の個人とパーティーによる合同で参加できる形式だった。


 条件に合った6名でパーティーを組んで受ければその6名で参加するまでだが、それより少ない人数で申請した場合、システムが他に同じ任務を希望しているPCとマッチングしてくれる。


 そして運悪くマッチング可能なPCがいなかった場合は、システムが用意したNPCの傭兵が穴埋めして一緒に戦ってくれる、という仕組み。



「なるほど、いいんじゃない」


「そうね。これにしましょう」


「では、申請っと」



 アキラも母も異論なく、父がウィンドウをタッチして任務への参加をこの3名のパーティーで申請した。これで、残り3名はシステムのほうが用意してくれる。


 手続きが済むと、事務員の後ろの壁のドアが開いた。



「あちらへお進みください」


「「「はい」」」



 言われた門をくぐると、そこは床の中央に大きなテーブルが、奥にホワイトボードが置かれた部屋だった。戦闘前の打ちあわせをする作戦会議室ブリーフィングルームか。そこには、1人の先客がいた。



「カワセミくん⁉」


「クライムさん⁉」



 その人は兵隊らしい迷彩服を着用した黒い短髪の青年男性。昼間アキラと共闘し、戦闘終了後にフレンド登録したばかりの。唯一アキラを 〔カワセミ〕 のあだ名で呼ぶ人物。


 クライムだった。



「カイルさん、エメロードさんも、こんばんは」


「こんばんは、クライムさん」


「奇遇ですね~♪」



 昼はこちらが観光の予定があったので長くは話せず、フレンド登録のあとすぐ別れてしまったため、クライムの予定などは聞いていなかった。


 アキラは明日にでもメールで予定を聞いて、合うようなら一緒に遊ばないかと誘うつもりだったが、まさか今日の内にこうして偶然にも一緒になれるとは。



「ご縁がありますね!」


「ああ。早くも共闘できて嬉しいよ。またよろしく頼む」


「はいっ! ボクのほうこそ、よろしくお願いします!」


 ビーッ!



 会議室にタイマーの音が響いた。緑髪アキラのアバターが、プレイヤーの生身の黒髪アキラの制御を離れて自動で歩きだし、入ってきたのとは逆側のドアに向かっていく。シーンの自動進行。


 出撃時間になったのだ。


 ドアが開き、4人でくぐると、そこは建物の外だった。どこまでも平らな飛行場、すぐそこに父のフーリガンと、母のアドニス、そして大きくて太っちょな飛行機が駐機している。


 昼間オノゴロの格納庫にあった両親の機体は、移動した持ち主に自動でついてきていた。設定上は普通に飛行機で輸送されて。


 オートで動く両親のアバターは自らの乗機へと向かい、アキラとクライムは飛行機に向かっていく。この状態でも首と口は動かせるので、アキラは両親のほうを向いて声をかけた。



「お父さん、お母さん、またね」


「ああ、また」「気をつけてね」



 クライムも、2人へと声をかける。



「よろしくお願いします!」


「ええ」「任されました!」



 2人と別れたアキラとクライムは、太っちょ飛行機の後方へ向かった。胴体が細くなりながらピンと上向きに張った機尾、その下面にある扉が下向きに開いて、先端が滑走路に接している。


 ハッチ裏面の斜路スロープを登って機内へ。


 そこはこの飛行機の貨物室だった。


 横幅も高さも4メートルほど。


 そこではクライムの乗機、全高475センチメートルのSVスレイヴィークル・アヴァントが、こちらを向いて体育座りしている。


 おかげで人から見れば広い貨物室が窮屈な印象になっていた。

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