第63話 AF
ウィーン……
アキラが振りかえる──首だけでなく脚も動いた。シーン進行による自動操作が解けた──と、貨物室の下部ハッチがひとりでに閉じていくところだった。
ガシャッ
パッ──
閉じきった瞬間、機外の飛行場が視界に広がった。
飛行機の内壁が透明化したような感覚だが、実際は内壁がディスプレイになっていて、外壁の各所に配された複数のカメラからの映像を合成処理してシームレスにしている、という設定。
現実の旅客機でも採用が進んでいる実在の技術だが、この飛行機のような輸送機──貨物運搬が主目的で、人員も運べるが居住性には難がある──にも搭載しているとは、さすが。
「未来感ありますね」
「ははっ、そうだね」
クライムも笑って同意する──などと話している内に、周りの景色が流れだした。キーンというエンジン音、輸送機が前へ進みだしている。
床や天井に配された運搬用のレールや照明灯の位置で、どこまでが機内なのかは分かる。
それでも 〔乗物の中〕 という感覚より、自分の体が宙に浮いてひとりでに空中を滑っているような感覚のほうが強かった。
その速度が徐々に増していく。
飛行場──この高さ3500メートルの巨城の屋上の中心部から、外縁部に向かっていく。このまま終端に突っこめば転落する予感に見舞われるが、そうなる前に機体はフワッと浮かびあがった。
飛びたった輸送機が飛行場の終端を過ぎると、眼下にこの未来の東京の夜景が広がる。来る時はフライングタクシーでその谷間を飛んだ、高さ1000~2000メートル台の超々高層ビルの群を、今度は上から見下ろしている。
「うわぁ!」
「おお……」
アキラは感嘆し、クライムも静かに驚嘆の意を示す。
そこに、別の声が響いた。
「ご挨拶させていただいても、よろしいかな?」
「出撃前に自己紹介くらいしておきましょう?」
貨物室の前のほうに1組の男女が並んでいた。どちらも金髪碧眼で、西洋人らしい
両名の頭上の名前アイコンの前には【AI】のマークがあった。自分たち生身のプレイヤーが操作する
この
アキラはさっと頭を下げた。
「失礼しました! アキラです、よろしくお願いします!」
「自分はクライムだ。よろしく頼む。ともに任務に励もう」
「アキラ、クライム。よろしくな。俺はアントンだ」
「で、わたしはベルタ。よろしくねッ☆」
アイコンに書かれたとおり男性は 〔
アントンが気さくな笑みを浮かべ話を続ける。
「なにか作戦は考えてるかい?」
「いいや。戦場についたら敵を探し、見つけたら撃つ。行きあたりばったりさ。実戦なら自殺行為だが、これはゲームだからな」
「ハハハ! そうだな!」
「強いて言えば、こちらのカワ──失敬、アキラくんと行動をともにするつもりでいる。考えていることは、それくらいだ」
「はい! ボクもそのつもりです!」
「来た時から話してたし、2人は旧知の仲なんだな。俺とベルタもだ。じゃあ、クライムとアキラ、俺とベルタの
「別行動でいいんじゃないか。そのほうがお互いチームワークを発揮できるだろう。4機も固まっていると範囲攻撃で一掃される恐れもあるしな……アキラくんはどう思う?」
「ボクも
「わたしもそれに賛成☆」
「決まりだな! んじゃ、機体に乗って降下に備えておこうぜ」
「「了解!」」「りょうか~い!」
アントンとベルタは、クライムの
その2機もサイズはアヴァントと同程度だが、SVではなく別のカテゴリーのメカだ。ずんぐりしたSVに対し、細くスラッとした西洋甲冑のようなデザインのそれは。
〔
アーマード・フットソルジャーの略。全高5メートル強の有人操縦式人型ロボット。それは
そして両名のAFはベイシスの主人公とは敵対していたほうの勢力 〔銀河帝国〕 の軍用機種 〔ドナー〕 だった。両肩をアントン機は赤く、ベルタ機は青く塗っていて、他は灰色。
ベイシスの世界では銀河同盟と銀河帝国、2つの星間国家が覇権を巡って争っていて、その花形は宇宙での艦隊同士による砲撃戦なのだが。作品自体はその中で限定的に発生するAF同士の泥臭い白兵戦に焦点を当てて、そればかり描いている。
(銀河帝国といえば)
昼間、父から聞いた。このゲームでは
この
AFは帝国製でも同盟製でも構造は大差ない。そのハッチは背中側にあり、首の後ろを支点に上に開いたそこから、2人は窮屈なコクピットに乗りこんでいった。
『カワセミくん』
「あ、はいっ!」
呼ばれてアキラが振りかえると、クライムはもう自機への搭乗を済ませていた。
しまった、アニメで見たAFへの搭乗シーンを間近で見られる機会に気を取られ、現実世界で自分が将来その本物に乗るつもりのSVへの搭乗シーンを見逃してしまった。
『君は乗らなくていいのかい?』
「いえ、乗ります! けど──」
ここにある機体はアヴァント1機とドナー2機のみで、
「機内で召喚しても大丈夫でしょうか」
貨物室のスペースは3機でもういっぱいで、ここにさらに同サイズの機体を追加する余裕はないように思えた。
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