第64話 直掩
クライムの乗る
しかし手間はかからない。
パイロットが使用時に
事前に輸送用の車両や航空機で運ばれていたという設定で。だからSV1機とAF2機はこの
が、アキラの
ファンタジー系に多い 〔召喚〕 するタイプのメカはパイロットが駐機場を訪れても勝手に現れたりはしない。だからこの貨物室にも
だが、この任務は受ける条件に 〔飛行可能なメカ2機〕〔5メートル級のメカ4機〕 という制限がある。アキラは後者の1機として自身の
だから今回は貨物室に
実は、アキラは誤解していた。
貨物室には5メートル級のメカをちょうど4機、格納するだけの広さがあった。3機が並ぶ貨物室のはじに
しかし、それが分からなかった。
貨物室の内壁は全周囲モニターになっていて外の景色を映している。壁面のレールや照明などモニターになっていない部分から貨物室の輪郭はなんとなく分かるものの、正確な境界面がどこかは見えづらくなっていたからだ。
『そ、そうだな。これは困った』
アキラから 〔スペースがないが召喚しても大丈夫だろうか〕 と相談されたクライムも同様に、空きスペースに気づいていなかった。そうして2人がまごまごしている内に、状況が動いた。
『こちらエメロード機、アドニス!』
今は戦闘機の形態を取っていて、コクピットを覆うキャノピーの奥にパイロットスーツ姿の母の影もぼんやりと見える。その母からの通信が続いた。
『前方に敵機発見! 先行して叩きます!』
──この
東日本を支配するイカロス王国軍からの依頼で、西日本を支配する地球連合軍と戦うこと。その戦場に、この輸送機で運ぶ5メートル級メカ4機を援軍として投下する。
が、敵には航空戦力もある。
4機を投下する前に輸送機が撃墜されてはいけない。条件にあった 〔飛行可能なメカ2機〕 はそれを防ぐため、空中で襲いくる敵から輸送機を守るためのものだった。
敵が見えたから輸送機のそばを離れると言っている母は、その役目を放棄しようというのではなく、敵が輸送機に近づく前に倒そうという考えだろう。そのほうが輸送機の危険も少なくなる。
『カイル機は輸送機のそばにいて!』
『了解! こっちのことは任せて!』
母は自分が見つけたのとは別の敵部隊が輸送機を襲うことを警戒して、父を護衛に残す考えのようだ。
クロスロード以前も別のロボットゲームで戦術眼を鍛えたアキラから見ても、その判断は的確に思えた──通信が繋がっている内に、母に声をかける。
「お母さん! 気をつけてね!」
『頼みます、エメロードさん!』
『幸運を、レディ!』
『やっつけちゃって~ッ☆』
『ええ!』
クライム、そしてまだ顔を合わせていないアントンとベルタからも激励を受けて、母のアドニスが急加速した。
みるみる前方へと遠ざかって見えなくなる。もう敵機との戦闘が始まっただろうが、ここからではその砲火も見えない。見えるのはアドニスが消えた夜空の下に広がる山地のみ。
左右に連なる険しい山々。
東京の都心部、現実では皇居のある位置にあるイカロス軍の基地・大江戸城から発進して以来、輸送機は西進していた。
もう高さ1キロ2キロの超々高層ビル群のそびえる範囲は過ぎていたが、それでもまだ地上はあの山々のふもとまで町の灯で埋めつくされている。
この町は東京西部・
そこが今回の戦場。
輸送機に乗っている自分たち4名の降下ポイント。
盆地にはイカロス領の東日本と、連合領の西日本の境界である 〔
現在はイカロス領だが西の連合軍から侵攻を受けており、この世界の日本列島で両軍が最も激しく争う地。
輸送機が関東山地を超え、もうじき甲府盆地の上空に差しかかろうという時、右を飛んでいた父のフーリガンが輸送機の下にもぐりこみながら前に出た。
バァン‼
「うわっ⁉」
突然の閃光となにかを叩いたような音にアキラは飛びあがったが、輸送機はなんともなかった。
甲府盆地にいる敵がこの輸送機を狙って撃ってきたビームを、あいだに割りこんだフーリガンが両腕に展開したビームシールドで防いだのだ。父、なんて頼もしい!
ガション!
フーリガンが腰の後ろに懸下していた2丁のビームライフルを左右の手で1丁ずつ抜き、それらを前後に並べて連結させた。
あの機能はアキラも知っている、原作どおりだ。フーリガンのビームライフルは2丁を連結することで1丁の大威力な長射程ビームライフルになる!
ドゥッ‼
その銃口からまばゆい閃光がほとばしり、敵のビームが飛んできた方角を撃って、地上に爆発の花を咲かせた。こちらからは当たったのか外れたのか分からないが。
ドゥッ‼
ドゥッ‼
フーリガンは次々と地上のあちこちを撃っていく。この輸送機まで届く射程の武器を持つような大型メカなどを狙撃しているのだろう──その父から通信が入った。
『陸戦隊は降下してください!』
「あ──」
ありがとう、と言おうとした時。輸送機の後部ハッチが開いて、アキラの体はぽーんと機外に放りだされた。
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