第56話 返報

 アキラの乗るしんすいおうまるが2匹の日蜥蜴ソルマンダーに左右の腕を噛まれて拘束されていたところを、2匹を射殺して助けてくれた、誰か知らないPCプレイヤーキャラクターが乗った巨大人型ロボット 〔SVスレイヴィークル〕。


 全高475センチメートルのすいおうまると同じくらいの大きさだが、こちらが3頭身なのに対し、あちらは10頭身とずっと小顔。


 それでも中に人を乗せる都合上そうならざるをえなかったのか、すいおうまるほどではないが肩幅が広くて、ガッシリしている。


 一番の違いは雰囲気。


 子供向けロボットアニメのしんえいゆうでんアタルの登場メカであるすいおうまるはまさに子供のおもちゃな外観なのに対し、現実世界で実用品として造られたSVは戦車のように厳めしい。


 アキラはその形状に見覚えがあった。


 SVを開発・販売した会社は数機種を同時にリリースしていて、その中でも看板商品となる最も堅実な設計のもの。


 SVのパイロットを目指しながらも 〔自分の機体は蒔絵マキちゃんが作ってくれる奴だから〕 と既存の機種にあまり興味を持たなかったアキラでも、これだけは覚えていた。



(アヴァント!)



 全身がくすんだ緑色──オリーブドラブに塗装されたそのアヴァントは、こちらに向けていた体の正面をすぐ別の方角に向けたかと思うと、再び発砲した。



 バババッ──パリン!



 アキラがその弾の飛んでいったほうに目を向けると、それに撃たれたらしい日蜥蜴ソルマンダー1匹がまたHPヒットポイントを全損して消滅した。


 アキラがこれまで相手してきたのと同じ、この戦場では最小サイズの日蜥蜴ソルマンダーだ。大小の日蜥蜴ソルマンダーたちと戦っている人間側のメカの中では最小サイズのすいおうまるやあのアヴァント自身と、同程度のボリュームの。


 あのアヴァントの操縦者は自分と同じように、小型の日蜥蜴ソルマンダーだけに狙いを絞っているらしい。大型の日蜥蜴ソルマンダーは大型のメカに乗っているPCたちに任せて。



 バババッ──パリン!

 バババッ──パリン!

 バババッ──パリン!


(うわっ⁉)



 アヴァントが次々と体の向きを変えながら発砲、その度に1匹の日蜥蜴ソルマンダーが死亡していく。1発も撃ち損じていない、なんという命中精度か。


 アヴァントの武器は全長が短めの機関銃──短機関銃サブマシンガンのようだ。


 機関銃はトリガーを引きつづけるあいだ弾丸を発射しつづける 〔全自動フルオート〕 が可能だが、それだとすぐ弾切れを起こすため、数発で連射が自動的にとまる 〔点射バースト〕 もできることが多い。


 あのパイロットはその点射による一手ごとに、きっちり1匹ずつ仕留めている。先ほど自分を助けてくれた時もそうだった。あれは狙いが逸れればすいおうまるに当たっていたかもしれないが、この様子ではそんな心配はなかったのだろう。



(ッ、いけない!)



 矢継ぎばやに倒していたのが災いしたか、アヴァントに周辺の小型種たちの注意が集まっている。どいつもこいつもアヴァントのほうに顔を向けて──アキラは急いですいおうまるを走らせた。



 バババッ──パリン!

 バババッ──パリン!



 アヴァントは自分を狙ってきた小型種たちも着実に仕留めていくが、相手が多すぎる。仕留めきれていない個体らが口を開き、放った激光吐息レーザーブレスが四方八方からアヴァントを襲う!



「あぶなーい‼」


 ガシッ!


『ッ⁉』



 間一髪。レーザーは全て、アヴァントに抱きついたすいおうまるへと吸収され、そのENエネルギーを回復させた。


 すいおうまるの雷属性吸収能力。


 雷属性の攻撃はたとえ直撃しなくても近づいた時点ですいおうまるに吸いよせられるため、アヴァントには1発も当たっていない。



『なんだ君は!』



 アヴァントから声がした。大人──かまでは分からないが、少なくとも声変わりはしている男性の声。お互いメカに乗っているとはいえ急に抱きつかれれば、こういう反応にもなるだろう。


 このままでは変質者だ。



「どうも! 先ほど助けていただいたカワセミです! 恩返しに参りました!」


『はぁっ⁉』



 アキラはつい余計なことを言った。恩返しと言おうとしたら脳裏に 〔鶴の恩返し〕 が浮かんだせいだ。すいおうまるは鶴と同じ鳥類のカワセミの化身だから。



「ボクを盾にしてください!」


『なんだって?』


「この機体はレーザーを吸収しますから、そばにいればあなたは奴らの遠距離攻撃を食らうことはありません。防御を気にせず撃ちまくってください!」


『──了解した‼』



 初めは怪しんでいたアヴァントのパイロットだが、作戦を聞いてからの反応は迅速だった。鋭く答えて射撃を再開、また次々と日蜥蜴ソルマンダーを倒していく。


 アキラは、さすがに抱きついたままでは邪魔になるのですいおうまるをアヴァントから離れさせ、だが相手が吸収範囲の外に出ないよう、その動きをしっかり見て、つかず離れずを保った。


 視線をアヴァントに固定しているため振りかえれず、後ろから敵が来ても気づけないだろうが──まさにその時、アヴァントがこちらを向いてすいおうまるの隣に踏みこんでから発砲した。



 バババッ──パリン!



 銃声のあと、後ろでアバターの弾ける音。背後から向かってきていた日蜥蜴ソルマンダーを倒してくれたのに間違いない。なんて頼もしい。これならなにも怖くない!



 ……それから。



 激光吐息レーザーブレスを防がれた日蜥蜴ソルマンダーたちは肉弾戦を挑もうと向かってきて、アキラは間近まで接近されたらすいおうまるの剣を振るって応戦しようと思っていたが、その機会は来なかった。


 その前に全てアヴァントが倒してしまったから。


 そして自分たち2機の周りに敵がいなくなり、アキラは他の敵味方の様子を見ようと視線を巡らせたところ……敵の姿がない?



 ビーッ‼



 戦場にブザーの音が鳴りひびく。戦闘終了の合図……この 〔オノゴロ〕 を襲ってきた日蜥蜴ソルマンダーたちが全滅したのか、防衛に当たった自分たちPCの働きで!


 状況から多分そうだろうと考えていると、勇壮なファンファーレが流れだし、上空に超巨大なウィンドウが表示された。



【YOU WIN!】

YOUユー WINウィン!』


【CONGRATULATIONS‼】

CONGRATUコングラッチュLATIONSレーションズ‼』



 そこに表示されたアルファベットを女性の声が読みあげる。簡単な英語なのでアキラにも分かった。〔あなたたちの勝利です〕〔おめでとう〕──翠王丸アキラはアヴァントに向きなおった。



「やった! 勝ちました!」


『ああ! 君のおかげだ!』


 ガシャーン!



 アヴァントが右手を短機関銃サブマシンガンから放して挙げたので、アキラもすいおうまるの右手を剣から放し。メカ同士でハイタッチを交わした。

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