第55話 SV
だが、快進撃もそこまでだった。
ガァッ‼
「うわっ⁉」
こちらが2匹目の
ガブッ‼
「ちょっ⁉」
グイッ!
「ッ、の!」
双方の力が拮抗して、互いに硬直する。
だが、この体勢だと
わざわざ攻撃しやすい位置で密着してくれている
ガブッ‼
「はいっ⁉」
剣を叩きつけようとした、動きがとまった。アキラがそちらを見ると、なんと別の
グイッ!
「んぎっ!」
4匹目は
「どどどっ、どうしよう⁉」
どちらの腕も振りほどけない。そのHPは少しずつ減っている。0になって両腕が失われたら、本体が残っていても攻撃手段が蹴りぐらいしかなくなり敵を倒すのは難しくなる。
(そ、そうだ! 蹴り!)
ふにっ♪
「あらっ?」
いい案だと思ったのだが、不自然な体勢で放ったせいか蹴りにまったく威力が乗っていなかった。これが蹴り技を身につけた格闘家なら違ったかもしれないが、あいにくアキラは素人だった。
「だあああああッ!」
(どっどっどっどっどうするどうするどうする⁉)
必死に考えるが、なにも浮かんでこない。こうしているあいだにも両腕のHPはどんどん減っている。先に噛みつかれた左腕のほうは、もうじきゼロに──
バババッ──パリン!
バババッ──パリン!
「え⁉ とと!」
ズシャッ!
突然、左右の
(あ!)
それを撃った者は
両手で構えた銃器をこちらに向けている。
サイズはこちらと同じ5メートルほどか。
いや、それより。あの機体は──
(スレイヴィークル‼)
¶
それが現実世界において史上初の、そして今のところ唯一の、実用化された有人操縦式人型ロボットのカテゴリー名。その規格と定義に収まるロボットたちの総称。
その全高は5メートル未満と制限されている。日本の車道において地上5メートルにある信号機の下を歩いてくぐれるように。これより高いと信号機や電線などにぶつかって市街地では運用しづらくなるのだ。
全高の下限は特に決まっていないが、あまり小さいと操縦する人間が乗りこむスペースがなくなるため、小さくても475センチメートルほどで設計されている。
SVがこの世に出たのは、ほんの1ヶ月と少し前。8月の末のことだった。いや、開発中から世間に情報は発信していたらしいが、販売が始まるまでアキラは存在を知らなかった。
とある日本のロボット開発企業が記念すべき第1弾をリリースした時のことはよく覚えている。ネット上で世界中のロボットファンが狂喜乱舞していた。
夢が叶った、と。
前世紀──西暦20世紀の後半に日本製のフィクションの中で、この 〔人が乗って操縦する人型ロボット〕 という概念が誕生して以来、それに魅了された多くの人々がその実現を願っていた。
今世紀に生まれて、物心ついたころに
ファンの中には自ら叶えようと科学者になった者もいる。そうした人々の長年の研究が、とうとうSVという実を結んだ。
アキラも当然、喜んだ。
だが素直には喜べなかった。その偉業は自分と一緒にアタルを見て、自分が乗るためのロボットを作ってくれると約束してくれた幼馴染の女の子、
実際、他人に先を越されたことに立腹した蒔絵はアキラの前で、自分の部屋をメチャクチャにするほど暴れた。
アキラが慰める必要もなく、しばらくすると1人でケロッと立ちなおり 〔アキラが乗る最高のSVを作る〕 と方針転換したが。
それから──
蒔絵は翌日アメリカに引っこした。元から予定していたことでアキラは直前まで知らされていなかっただけらしいが。9月から現地のマサチューセッツ工科大学に通い、これまで以上にロボット開発について学んでいる。
アキラは 〔SVの
それが今やっているこのゲーム。
クロスロード・メカヴァースだ。
多くの版権ロボット作品に登場した
だがアキラはSVよりも思いいれのある
そのSVが今、目の前に現れたのだった。
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