第54話 吸収

『ピィィィィッ‼』



 アキラのかざしたしんけんすいおうまるが光となって舞いあがり黒雲に大穴をあけ、そこから青い巨大カワセミとなって戻ってくる。



『ピィッ!』



 地に降りたった巨大カワセミはさらに全高5メートル弱の人型ロボット、青と白のしんすいおうまるに姿を変え、頭部ハッチを開いて開口部へとアキラを不思議な力で吸いこんだ。


 開口部にできた異次元への 〔門〕 をくぐり、アキラはすいおうまる機内亜空間コクピットへと転移。虚空に浮かぶ玉座状の操縦席に着席──搭乗完了、乗りこみ過程の無敵状態が解ける。


 ここからはもう、攻撃を受ければ普通に機体がダメージを受けるが、少なくとも倉庫の出口を塞いでくれていたコイツ﹅﹅﹅からだけは受けてやるつもりはない!



「死ね‼」



 アキラは即座にすいおうまるに剣を取らせ、召喚時に無敵バリアで吹っとばして転ばせておいた日蜥蜴ソルマンダーへと振りおろした。



 ズバッ!



 剣はたやすくその体を両断、HPを全損させて消滅させた。


 その個体は四つんばいでの高さは2メートルほどだったが、もし後脚だけで直立すれば5メートルくらいになったろう。


 つまり体格は翠王丸こちらと同じほどはあったので、まともに戦えばどうなっていたか分からない。運良く転ばせられて、そして転んでいる内に攻撃できてよかった。



「ふぅっ……!」



 安全地帯の倉庫から出た瞬間に日蜥蜴ソルマンダーにやられる前にメカを召喚、乗りこみ時の無敵バリアで身を守り、搭乗後すぐ攻撃して倒す作戦。


 上手くいった。これも、先ほど飛行型の日蜥蜴ソルマンダーからの激光吐息レーザーブレスを無敵バリアで防ぐところを見せてくれた両親のおかげだ。あとでお礼を言おう。



(さて……)



 ギャォォォ‼

 キシャァッ‼


『どぅりゃあ‼』

『死ねや化物‼』



 アキラは戦場の様子を再確認した。


 陸では翼のない歩行型の日蜥蜴ソルマンダーたちと、陸戦型のメカたちが。


 空では翼のある飛行型の日蜥蜴ソルマンダーたちと、空戦型のメカたちが。


 それぞれ戦っている。


 陸戦型メカのすいおうまるに乗っている自分が空の戦いを気にしても仕方ない。そちらは自分の両親ら空戦型を操るPCプレイヤーキャラクターたちに任せて、自分は陸の戦いに集中しよう。


 日蜥蜴ソルマンダーたちには何段階か大きさの違いがある。


 メカたちもそれは同じ。このゲームクロスロード・メカヴァースに存在するメカは、参戦している版権ロボット作品に登場したもの。その大きさは出身作品ごとにバラバラだ。



(んっ……?)



 妙だ。敵も味方も、自分と同じくらいの大きさの相手とばかり戦っているように見える。


 かつて網彦セイネが40メートルのジンで10メートルのがったいこっきんりきを叩きつぶしたような、自分が5メートルのすいおうまるで1メートルの小鬼ゴブリンを踏みつぶしたような──


 体格差を活かして一方的に蹂躙する光景が、見当たらない? 


 いや、そう思った矢先に20メートルの陸戦型MWモバイルウォーリアが足もとにまとわりついた小型──といっても先ほど自分が倒したのと同じくらい──日蜥蜴ソルマンダーを踏み殺した。



(あっ⁉)



 地団駄を踏むように足もとの日蜥蜴ソルマンダーらを踏みつぶしていたMWが、転んだ。数が多くて倒しきれなかった日蜥蜴ソルマンダーに脚を破壊されたのか。そして、そいつらに殺到され──



 ボガァン‼



 ──爆散、消滅した。MWよりずっと小さな日蜥蜴ソルマンダーの攻撃は相手のHPヒットポイントを少しずつしか削れないだろうが、それを集中攻撃で積みかさねて削りきったわけか。



(そうか……!)



 アキラは悟った。大きいほうが常に有利とは限らないと。特に、小さいほうが数で勝っている場合は。


 確かに大きいほうは攻撃を当てれば小さいほうを簡単に倒せる。だが当てるのが難しい。的が小さいし、地上だと相手が自分の目線からかなり下にいて見にくいことも不利に働く。


 みなが自分と同サイズの敵とばかり戦いたがるのは結局それが一番やりやすいからだ。自分より大きい敵に向かっていくには仲間が大勢いないといけないし、自分より小さい敵の大群に襲われた場合は下手に相手すると今のMWのようになる。



「それなら!」



 自分が、この戦場で最小サイズのすいおうまるでなすべきことは。同じく敵の最小サイズの日蜥蜴ソルマンダーを1匹でも多く受けもって、そいつらが味方の大型メカのほうへ行かないようにすること!



 ダッ‼



 方針を定めたアキラはすいおうまるを走らせ、戦場の真っ只中へと突っこませた。すると数体の小型個体がこちらに気づき、口を開いて激光吐息レーザーブレスを撃ってくる!



「うおおおお!」



 アキラは構わず突進を続けた。何条もの光線がすいおうまるに突きささる──が、こちらになんの痛手も与えないで消失した。



「こっちにも吸収能力があるのさ!」



 そう。赤いおうまるには炎属性吸収能力があるのに対し、青い同型機のすいおうまるには雷属性吸収能力がある。激光吐息レーザーブレスが雷属性かどうかは食らってみないと分からなかったが、賭けに勝った!



「せいッ‼」


 ズバッ‼



 アキラはレーザーを撃ってきた個体の内の1匹へとすいおうまるを駆けよらせ、勢いを乗せて振った剣で首を刎ねた。HP全損、その日蜥蜴ソルマンダーが即死する。



「よし! 次は──」



 他の個体らとは少し距離があったが──向こうからこちらに駆けだしていた。激光吐息レーザーブレスが効かなかったのを受けて肉弾戦に作戦変更したのだろう。複数体に連携されると厄介だ。


 アキラは生身の体が握っている左スティックの、環状トリガーに差しこんでいる左手の人差指を伸ばした。すると両手で剣を握っているすいおうまるの左手だけが指を開き、剣を手放す。


 バッ! アキラは左スティックを動かして、すいおうまるのフリーになった左手を、向かってきている日蜥蜴ソルマンダーの中で最も近くまで迫っている個体に素早くかざし──トリガーを引く!



でんだま!」



 その手になにも持っていない時にトリガーを引くと発射されるすいおうまるの射撃武器。その手のひらに電気の球体──球電が生まれ、放たれる!



 パァッ‼ ──シュッ



 そかし、それは日蜥蜴ソルマンダーの顔面にぶつかると吸収された。日蜥蜴ソルマンダーの 〔あらゆる粒子エネルギーを吸収する能力〕 は雷属性の電気玉も対象のようだ。


 だが、これはアキラも想定の範囲内。


 実際に吸収されるのを見るまで確証はなかったが、多分そうだろうとは思っていた。だから、電気玉を撃った理由は他にある!



「ハァッ‼」


 グサッ‼



 すいおうまるの剣が日蜥蜴ソルマンダーの胸を貫き、絶命させる。たとえ吸収できる攻撃でも、それを顔に受けた日蜥蜴ソルマンダーは一瞬だけ動きをとめた。その隙に踏みこんで突きを放った、アキラの作戦勝ちだった。

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