第66話 甲府
⦅よくもベルタを!⦆
そんなアントンの声が聞こえてくるようだった。彼の機体とは通信が繋がっていないので、機内の彼が本当はなんと言ったか、もしくはなにも言っていないのかは分からないが。
アントンもベルタも
だからアキラはベルタの死に驚きはしても怒りも悲しみも覚えていなかったが、ベルタを撃った敵へと即座に撃ちかえしたアントンからは復讐心が感じられた。
感情的になっている。
冷静なら、パラシュートで降下中のため姿勢が不安定で命中精度の落ちている今はじっと耐え、着地してから撃つという選択をしたはずだから。
アントンを制御するAIは 〔ベルタは生きかえる〕 と分かっていないのか、分かった上でそれでも怒っているのか、アキラには分からなかった。
アントンの反応が悪いとは思わない。
むしろチームメイトがやられたのに平然としている自分のほうが薄情に思えて気まずくさえあるが、とにかくもアキラは彼の行動に乗りそこねた。
それで、アントンの反撃を皮切りに
周囲を弾丸が飛びかい、いつ流れ弾に当たるかしれない状況でじっとしているのは怖くはある。撃てば気は紛れるかもしれないが、無駄弾によるリソースの浪費を考えると撃つ気にならない。
『カワセミくん!』
「クライムさん?」
そばを降下中のクライムから通信。SVアヴァントに乗る彼も、いかなる意図からか撃ちあいには参加していなかった。
『自分はあのビルに降りる!』
「えっ⁉」
アキラは地上を見下ろした。もう間近に迫っている甲府の町並み。あまり高くない建物が続く一角で、1つだけ周囲から浮いて高いビルがある。あれか。
都心で見た1キロメートル以上の超々高層ビルとは比べものにならないが、超高層ビルの下限の100メートルはありそうだ。
『あとで落ちあおう!』
「あ、はい!」
言うとクライム機はパラシュートから両肩へと伸びた多数の紐の集う辺りを握って、なにやら引っぱりだした。すると機体の降下する向きが変わり、例のビルのほうへと流れていく。
アキラはクライムがパラシュートの操縦法を知っていたことに驚いた。自分は 〔パラシュートは操縦できる〕 ことも知らなかった。とても急にはマネできない。自分はこのまま降下しよう。
バシュッ!
ズシャッ!
クライム機がビルの屋上に流れつくと、その背に固定されていたパラシュートのリュックが分離、機体は2つの足で床を踏みしめ着地した。
バババッ!
すぐさまクライム機が腰から
パラシュートが機能を失い、その機体は地面に落下していく。4メートル級の小型メカの衝撃吸収能力では、この高さからの落下には耐えられない。その機影が地面に激突した瞬間に光るポリゴンに砕けたのが見えた。
バババッ!
バババッ!
クライム機は次々と敵機のパラシュートを撃ちぬいていった。足場を得たことで姿勢が安定したクライム機の狙いは正確、しかも機体そのものよりずっと大きいパラシュートを狙っている。
対して敵のほうは降下中で機敏な回避ができない。彼らもクライム機へと撃ちかえしているが、まったく当たらない。やはり姿勢が不安定なせいだろう。
(すごい!)
自分だけパラシュート降下状態から抜け、まだ降下中の敵に圧倒的優位を確保して攻撃する。クライムの作戦立案・実行能力の高さにアキラは感嘆した。
それに見入っているあいだにもアキラの乗る
バシュッ!
ズシャッ!
直前でパラシュートのリュックが自動でパージされ、残りわずかな高さを自由落下。着地した
そこは一軒家が並ぶ住宅街だった。
上手く家屋をさけて路地に落ちた。
現代的な、普通の家々──この
現実世界でのこの場所を見たことはないが、ここはきっと前者なのだろう……いや、完全にそのままではないか。戦闘の影響で建物はあちこち傷つき、破壊され、燃えている所もある。
だが廃墟というほどではない。
家々には灯りがついておらず、道にも人の姿はない。住人は避難している──という設定──とも考えられるが。
夜道を照らす街灯はついている。
まだこの町からは生活感がする。
住人は見えなくても近くに隠れているだけかもしれない。そんな気がしてくる。そんな所で戦闘をするのだという生々しさを感じた。住人の安全のためにも早く終わらせなければ。
バババッ──
バババッ──
自分のいる位置からは敵も味方も姿が見えないが、町中にこだまする銃声は聞こえている。離れた所に落ちた敵味方の降下部隊、そして元からこの町にいた両軍のメカたちが戦っている。
当然、自分も戦う気だが、今は敵機との交戦よりクライム機を見つけて合流するほうが優先だ。一緒に戦う、あとで落ちあうと約束とした。
クライム機が屋上に降りた、この辺りで一際高いビルは今も見えている。アキラはペダルを履いた両脚を動かし、
ガシャッ
ガシャッ
一歩一歩、アスファルトで舗装された道路を
それがワクワクする。
それが今、仮想とはいえ現実世界で戦っている。オノゴロの飛行場では考えなかったが、あそこより身近に感じる町の景色が、そのことを意識させた。
原作ではありえなかった状況が実現する。それも複数のロボット作品のクロスオーバーものである
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