第4章 移ろいゆく季節
第12節 八百長&ガチンコ
第121話 密談
ロボットアクションVRMMORPG 〔クロスロード・メカヴァース〕 の舞台の一部、現実世界の想像上の未来の姿である 〔
その北半球にある、この世界での日本の首都・東京の中心部。現実では皇居がある場所にそびえる高さ3500メートルの大江戸城の周辺には、現実でそこにある超高層ビルが高さ10倍に伸長された1000~2000メートル級の超々高層ビルが林立している。
その谷間を縫うようにして、秋晴れの青空の中を大江戸城の周りを巡って飛んでいる、黒いリムジン型スカイカー。AI制御で自動飛行するこの車には4名の
車の所有者、青いドレス姿の金髪縦ロール令嬢ミーシャ。
彼女が率いる空中騎馬戦同好会のメンバーである青年クライムと、美女サラリィ。どちらも迷彩服を着ている。
そして同好会とは敵対する空中格闘研究会のメンバーである、古墳時代の
アキラだけが部外者だった。
クライムと
それを伝えるにも他の同好会員に知られるといけないから、まずは2人自身がミーシャに密談を申しこんだ。この車は、それでミーシャが用意した。確かに空飛ぶ密室であるスカイカーの中は密談に適している。
アキラはセイネから2人にその話がされた時に同席していて、自分もミーシャを説得したいと主張して2人にくっついてきた。しかし対面して早々にミーシャの機嫌を損ねてしまい、説得は始まる前から失敗してしまった。
以来、居心地の悪さに耐えながら黙っている。
その後クライムとサラはミーシャに〔空中騎馬戦も空中格闘戦もどちらも学びたいプレイヤーが同好会と研究会の対立のせいで不自由している〕とアキラの言いたかったことも代弁した上で、セイネとの密談に応じてくれるよう要望。
するとミーシャはこれをあっさり承諾した。
アキラは自分が彼女を怒らせたせいで交渉失敗という結果にならなくて安堵した。それ自体はいいのだが、不可解でもある。
ミーシャはセイネを嫌っている。セイネのSNSアカウントをブロックするなど、セイネ個人からミーシャ個人への連絡路の一切を塞いで交流を拒んでいる。
そんな相手と会って話してくれと頼むのだから、良い返事は期待できない。それをクライムとサラが言葉を尽くして説得することになると予想していたのだが。
まさか二つ返事でOKされるとは。
セイネは今日の予定をあけて待機していたので、ミーシャの返事を聞いたクライムはすぐ彼女にメールし、両者の密談はすぐに始められることになった。
スカイリムジンが高度を上げて、東京駅の駅ビル──現実にあるものの10倍の高さ──の屋上にあるヘリポートへと着地した。ここがミーシャがクライムを介してセイネに告げた待ちあわせ場所。
みながいるリムジンの後部座席のドアが開くと、ヘリポートで待っていたPCが乗りこんでくる。全身を隠す灰色マントを着たその人物は、ドアが閉まるとすぐにそれを脱いで、バニースーツを来たアバター本来の姿を見せた。
セイネだ。ドアのそばのソファーに腰かけながら頭を下げる。
「お邪魔します」
「ようこそいらっしゃいました、セイネさん。狭い車内で恐縮ですが、どうぞ楽になさってください」
「はい」
ミーシャの言葉は謙遜だろうか。このスカイリムジンも飛ばないリムジン同様、長大な車体を誇っていて、内部も普通の乗用車よりずっと広い。それでも車内で立つことはできない天井の低さがあるので狭いと言えば狭いが。
そんなことは問題にならないほど車内は豪華で高級感があふれていた。運転席とは仕切られた後部は、前・右・後とコの字型にソファーがあり、左はバーテーブルになっている。
ドラマで密談の舞台となるバーを車内に収めたようだ。
ソファーの後ろ側にミーシャが座っており、右側に後ろからクライム、サラ、アキラの順で並び、最後に乗ったセイネは前側に座ってミーシャと正面から向かいあうことになった。
「お飲物はなににいたします?」
「えっ……と、お任せしても?」
「では、わたくしと同じウイスキーに。ゲームの中なので、VR感覚でもないと味はしませんけどね。セイネさんはVR感覚はお持ちですか?」
「多少は。でも味覚には働きません」
「では、雰囲気だけでも」
「ありがとうございます」
ミーシャが席を立ち、バーテーブルで手ずからグラスに琥珀色の液体を注ぎ、セイネに手渡した。そして最後部の席に戻り──
スカイリムジンがヘリポートから飛びたち、再び超々高層ビルの林立する空を自動運転で遊覧する中で──
空中格闘研究会・代表、セイネと。
空中騎馬戦同好会・代表、ミーシャの。
密談が、始まった。
¶
「まずはお礼を。本日はわたしの無理なお願いを聞いてくださり、この場を設けていただいて、本当にありがとうございます」
セイネは低姿勢だった。
事の発端はミーシャが同好会の長として、セイネの開いた研究会の集会へと決闘を申しこむ、無礼で挑発的な動画を送りつけてきたことなのだが、それを責めたりしない。
アキラは理不尽な気もしたが、セイネの目的は会員同士の対立を収めるための
コミュニケーション能力に長けたセイネなら、いきなり相手を怒らせた自分のようなミスはしないだろう。アキラはハラハラしながらも、そこは安心して見守った。
「どうかお気になさらず」
そう答えたミーシャの声は、穏やかだった。動画に映っていた敵意に満ちた声と同じ人が発しているとは思えないほど。
「無理なお願いなどではありませんわ」
「そう言っていただけると──」
「わたくしがセイネさんをブロックしていたせいで、セイネさんは他にわたくしに連絡を取る手段がなかった。セイネさんにも、仲介してくださったクライムさんとサラリィさんにも余計な手間を取らせてしまい、申しわけありませんでした」
そう言うや、ミーシャは深々と頭を下げた。
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