第27話 同志

 バキィッ‼



 アキラの振るった輝く剣を受けて、合体がったいりゅうへいは左脚の付け根の部分を粉砕された。そして右脚1本で立とうとするが、バランスを崩して転倒する!



 ドシャァッ‼


「レティ!」


「任せて! 必殺ひっさぁつ!」



 合体龍牙兵の下敷きにならないよう飛びのきながら叫んだアキラに、レティスカーレットは応えて音声入力のキーワードを唱えた。


 その手に持つしんけんおうまるに、今アキラが自分の剣で合体龍牙兵の左脚を破壊したのと同じ武器付属スキルが発動。アキラの剣は青く光ったが、こちらは赤い光を放つ!



屠龍剣とーりゅーけーん‼」


 バガーン‼



 レティが振りおろした剣は、合体龍牙兵が転んだため地面──レティの手が届く高さにまで下がっていた、その髑髏の頭部を激しく叩いて、粉砕した。


 合体龍牙兵の全身が塵となって散っていく──倒した!


 アキラはレティに駆けより、ハイタッチを交わした。



「「やったーっ‼」





「いや、倒せるよ」



 アキラとレティが合体龍牙兵を倒しに向かう前。自分たちのりゅうけんでは合体龍牙兵を倒せないと言ったレティに反論し、アキラはその理由を語った。



「時間差で攻撃すればいいんだ」


「同時じゃなくて順番にってこと? それでなにが変わるの?」


「そう。合体がったい黒巾こっきんりきと戦った時、ボクらは2人同時に屠龍剣を放って相手の両脚を破壊したけど、相手はそれで転びはしても健在だったのに対し、ボクたちはガス欠でもう屠龍剣を使えず、有効打を与える手段をなくしてた」


「そうよ、だから今回も──」


「いや。2本脚で立つ相手を転ばせるのに両脚ともつぶす必要なんてなかったんだ。片脚だけでいい。さっきオルさんがそうしたのを見て気づいたんだ」


「……あ⁉」


「1人が相手の片脚を破壊、もう1人は倒れた相手にトドメを刺す。そうすれば2発の屠龍剣で倒せる。あの時もそうしていればボクたちだけでも勝ててたんだよ」


「……アキラ、すごいわ‼」





 かくしてアキラの立てた作戦どおりに事は運び、合体龍牙兵を倒せた。周囲にもう敵の姿はない。ハイタッチを交わすアキラとレティのもとに、アルアルフレートオルオルジフも駆けつけてきた。



「おふたりとも、お見事でござった!」


「やったな、オメーら!」


「ありがとうございます!」


「ありがとうございます。でも、アタシがしたことなんて誰でもできます。みんな、作戦を考えてくれたアキラのおかげです」


「れ、レティ?」



 急に持ちあげられ、アキラは戸惑った。



「仮にアタシたち全員アルさんみたく強かったとしても、アキラの作戦がなきゃ今の敵は倒せなかった。強いだけじゃダメ、そんなこと思いもよらなかった。アキラ、本当に頭いいのね」


「あ、ありがとう……」



 そんなことを言われたのは生まれて初めてだった。


 それに物心ついた時からまきというIQ300の天才と一緒にいたアキラは、彼女と比べて自分がいかに頭が悪いか痛感することばかりで、自分で自分を賢いと思ったことも一度もない。


 ただ、さすがに比較対象が規格外すぎることは理解している。ほめてくれた人を疑うのも失礼だし、称賛は素直に受けとった。レティに抱いた劣等感が癒された気がしたのも嬉しかった。



「はぁ。役立たずはアタシだけね」


「えっ⁉ いやいや、レティだってすごいよ! オルさんがリアルでも鍛冶屋さんなの見抜いて。ボクは全然そんなこと思わなかったもん!」


「アキラ殿の言うとおりでござる! レティ殿のその洞察力は戦いでも必ず役に立つ! 今回はたまたま機会がなかっただけでござる!」


「だな。実際オレを鍛冶師と見破ったのは尋常じゃねぇぞ。人間、自分にできることは当たり前と思って評価しねーもんだが、まさに今の嬢ちゃんがソレだ。自信を持っていいんだぜ」


「アキラ、アルさん、オルさん……」


 ばっ!



 ──と、レティは頭を下げた。



「ごめんなさい! なんかネガッちゃって。3人の言うとおりですね。アタシ、これからその長所を磨いて自信を持てるよう、がんばります! それと……アルさん」


「拙者?」


「実力を疑って、すみませんでした。今の戦いを見て、アルさんが本当にすっごく強いんだって分かりましたから。改めて、お願いします。アタシを弟子にしてください!」


「ボクも、お願いします!」



 レティが頭を下げたのを見て、アキラも続いた。



「ついに……! 無論、大歓迎でござる‼ ああ、ただ拙者の技を伝えるのは構わぬが、師匠だの弟子だの堅苦しい上下関係はナシにしてくだされ。呼びかたも、どうか今までどおりで」


「「でも、教えてもらう立場で」」


「……実はこのゲーム、リアルで覚えた身体動作を 〔応用する〕 ことはできても、完璧に再現することはできないのでござる」


「「……え⁉」」


「ウィズリムで動かせるのはアバターの四肢のみ。胴体の関節﹅﹅﹅﹅﹅はまったく動かせず、リアルの体よりだいぶ不自由。なかなか勝手が違うのでござるよ」


「「そういえば⁉」」



 ウィズリムはプレイヤーの手にふれたスティックでアバターの腕を、足にふれたペダルでアバターの脚を動かすのみ。


 アバターの頭部はプレイヤーのかぶったVRゴーグルに連動して動くが。アバターの腰を曲げたり、ひねったりと、その胴体を動かす手段は……ない。


 言われるまで気づかなかった。



「一方、乗ったメカの機能などによって生身では決してできない動きができる側面もあるでござる。できること、できぬこと、その条件が異なるウィズリムでの剣術はリアルでの剣術とは自然、別物になるのでござる」


「「は~っ」」


「そしてこの、剣に限らずウィズリムによるアバター操作での闘法は、ウィズリムの登場とともに誕生した。それからまだ日も浅い。我らウィズリム対応ゲームのプレイヤーはみな等しく、その道を歩みはじめたばかり!」



 アルの熱弁ぶりがすごい。


 オルは退屈そうだったが。


 アキラとレティは、真剣に聞いた。

 


「リアルで覚えた古流剣術を応用して先ほどのような動きができるとはいえ、拙者にもまだまだ分からぬことばかり。そのような未熟者が師を名乗るなど、言語道断!」


「「……」」


「なのでおふたりには拙者と、互いに気づいたことを教えあい、この道をともに歩む 〔同志〕 となってもらいたいのでござるよ」



 アキラはレティと互いを見交わした。


 そして一緒にアルに向きなおり──



「「はい、喜んで‼」」

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