第163話 副将⑥
『アキラ選手の勝利予告じゃーッ‼』
‼ いいぞーッ ‼
‼ なにをーッ ‼
それは、言われた
『う~ん、ドラマチック☆ バトル漫画のワンシーンみたい。少年も劇場型の振るまいが分かってんじゃん♪』
「あ、いえ。まんまバトル漫画の受け売りです……」
指摘されると恥ずかしい。
『あはははは‼ いーんだってそれで! おねーさん、まんまと乗せられて熱くなっちゃった☆ ……それじゃ、やろうか』
ゾクッ──
怖い……だが、不思議とつらくない。むしろ、これくらいでないと。クライマックスなのだから。感じた寒気も昂揚感にとかされて、アキラの体を硬直させるにはいたらなかった。
滑らかに
スッ──
前方で滞空している
ダッ──ゴウッ‼
足場を蹴り、背中と足裏のスラスターを噴かし、アキラの駆る翠天丸は渡り廊下の上からサラ機を目がけて飛びだした。
作戦は決まっている。脳内で言葉にしていなくても、するべきことは分かっている。問題は上手くやれるかどうか。タイミングを誤れば、自滅する。
¶
(さぁ、どう来る少年!)
突進してくる翠天丸を正面から見据えながら、サラは感覚を研ぎすませた。極限の集中力によって体感時間を伸長させ、時の流れが遅くなったような感覚の中での超高速の思考を実現する。
アキラがなにか思いついたのは分かる。
しかし内容までは分からない。
それを看破せねば。
状況はこの試合での最初の攻防に似ている。あの時もアキラはこうして真っすぐ突撃してきて直前に針路そのままに急加速した。彼から受けるのは初めての技なので反応が遅れ、正面から受けとめることになった。それに味を占めて今回も同じ技を?
いや、違う。
サラは翠天丸が飛びだした瞬間に、それが全速力であることを見抜いていた。〔直前急加速〕 はさらに加速する伸びしろがある状態でしか使えない、フルスロットルでは不可能。
今からその技を使うには一度スラスター出力を落としてから再加速するしかないが、あの速度ではこちらに到達するまで2秒とかからない。アキラにそんなことをしている暇はない。
翠天丸は最初から最後まで全速力で突っこんでくる。
だが無策でもない。翠天丸は剣を顔の前に立てて身を守っている。こちらが正面から斬りこめば剣で防がれて、初めの攻防のように鍔ぜりあいになるだろう。
それが嫌なら横によけて翠天丸の剣が通過してから、無防備な背中に刀を降りおろせばいいのだが、それはできない。
動きの鈍い空中騎乗物に乗っている今、あまり機敏な回避はできない。翠天丸が直前急加速をするため抑え気味に飛んできていたなら間に合ったかもしれないが、あの全速力では無理だ。
受けるしかない。
こちらから選択の自由を奪う意地悪な攻撃。普段お人よしな少年から感じた意外なサドっ気に、サラは興奮した。
(上等‼)
お望みどおり正面から受けてやろうではないか。
ビルの壁際に追いこまれたさっきと違い、現在位置は道路の中央の上空。左右どちらのビルとも距離があり、後ろにはビルの谷間がずっと続いている。衝突で左右に弾かれても鍔ぜりあいで押されて後退しても、どこにもすぐぶつかる心配はない。
なら初めの攻防と同様いったん刀を翠天丸の剣と合わせてから、刀身を相手の首筋に当てて投げる動作に切りかえればいい。
地面から大して離れていないこの高度から落とせば、今度こそ翠天丸は地面にふれてアキラの失格負けとなる。
(問題は──)
初めの時と違ってこちらは全く加速していないことか。加速をつけた相手の力を一方的に受けるので捌くのが難しい。
反復突撃を受けた時のようにただ防ぐだけならいいが、そこからさらに投げに繋げるとなると大変だ。
アキラもその辺りに勝機を見いだしているのだろう。
こちらの防御を突破して本体に一撃を入れる気では。
だったら無理をせず、今回も防ぐだけでいいか? この攻撃をやりすごしてから仕切りなおせばいい──なんて選択肢は、当然ない。そんなつまらない展開、観客は納得しないだろうし、なにより自分が嫌だ。
アキラは次で決めると言った。
それなら自分もこれで決める。
(難しくてもやる! あたしならできる‼)
スローモーションになった世界の中でも徐々に近づいてきた翠天丸が、いよいよ目前に迫った。サラは腹をくくり、乗機を操って中段から上段に振りあげた刀を電光石火で降りおろした。
¶
『勝負‼』
『必殺‼』
『⁉』
ズバァッ‼
突撃したアキラの翠天丸と、それを迎えうったサラ機アヴァントがすれちがい、互いの武器を振りぬいた姿勢でとまった。
パリン──
一拍置いてアヴァントが中にいるサラごと無数のポリゴンに砕けて散った。翠天丸の剣が機体とパイロットをもろともに両断してどちらのHPも0にした結果。
その翠天丸のほうはこの攻防で新たに負った傷はない。サラ機の刀に斬られて相討ちということはなかった。その刀はサラ機本体が斬られる前、翠天丸の剣にふれた瞬間に折られていたから。
そして、いつのまにか青く輝いていた剣から、光が消えた。
『──
翠天丸から聞こえたアキラの声が、起きた事象の答えだった。翠天丸の剣に込められた付属スキル 〔屠龍剣〕。
それは使用者が 〔必殺〕 と合言葉を唱えると発動し、剣を光らせる。その状態で一度でも攻撃を当てると光は消えるが、その一撃にのみ攻撃力上昇と竜特効の効果が付与される。
サラは今まで翠天丸の剣を脆い刀で受けつつも、剣術の技量で衝撃を吸収することで刀の破損を防いできた。しかし屠龍剣によって剣の攻撃力が激増していたため、今回は防げなかった。
発動が早すぎればサラに対応されてしまい、遅すぎれば発動する前にサラの攻撃にやられてしまう。サラが対応できない、剣と刀がふれる寸前に発動させられるかの賭けに、アキラは勝った。
『試合終了ォーッ! 勝者、アキラ選手‼』
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