第162話 副将⑤
ガイィィィン‼
直撃。よけることも防ぐことも受身を取ることも、なにもできずに
「ッ……‼」
VR感覚だろうか、翠天丸の
激しい音と同時に視界が揺れたので脳が勘違いしたのだろう。
そして視界が──
もしサラ機が刀を普通に使っていたら、一刀両断されて瞬時にHPが0になり試合終了していたかもしれない。
サラ機がビルへの衝突を防ぐため、刀の柄頭でビルの側面を突けるよう刀身を握って逆に持ちかえたままだったから、翠天丸にヒットしたのは刃のある刀身ではなく柄の部分となり、斬られるのではなく殴られる結果となった。それで即死は免れたが──
「うわあああッ‼」
翠天丸が飛ばされた方向は
さっきも落とされたが、周囲のビルより高い位置から落ちはじめて、地面に落ちる前に停止できた。今度はビルの谷間の、さっきよりずっと低い位置から落ちはじめ──もう地面が間近に!
「こっ、のぉぉぉッ‼」
アキラは
ボゥッ‼
そして背中の左右と両足の裏、計4ヶ所にあるスラスターを全て最大出力で噴射する。機体が地面にふれる前に落下の勢いをとめるには、足裏のスラスターだけでは足りないと判断したのだ。
むしろ、これでも足りるかどうか。
機体の一部、背中から生えている翼の端だけでも地面にふれればシステムがそれを感知し、その時点で失格になる…………
『セーフ! アキラ選手、地面にふれておらぬ‼』
間に合った。翠天丸はスラスター噴射によって地面──道路にふれる前に落下をとめ、逆に上昇を始めていた。
すでに姿勢を変えても足がうっかり地面についたりしない高度だと確認してから、アキラは翠天丸を起こして空中直立させた。もうダメかと思った。心臓がばくばくしている。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……!」
『う~ん、惜しい! 粘るね~☆』
そう言ったサラの機体は、まだかなり上のほうにいた。こちらに降下しながら向かってきてはいるが速度は遅い。
アキラも翠天丸を上昇させてサラ機を目指すが、重力に逆らう動きなので素早くは飛べない。
(これが最後のチャンスだ……!)
互いが互いに向かっているので消極的ではないと、すぐに闘いが再開しなくても観客への言いわけが立つ。この再開までに不可抗力でかかる時間が、作戦を考える最後の機会。
そう、今はできない。
もしかしたらこの試合中、闘いながらサラに勝つ方法を思いつくのではと少し期待したが、そんなことはなかった。ないものねだりをしても仕方ない。
アキラは頭をフル回転させた。
(この2週間、一緒に特訓するあいだにボクの手の内は全てサラさんにさらしてしまって、なにをやっても見切られる。
その割にこの試合、ボクが一方的にやられてるわけでもない。昨夜の地稽古の時より闘えている。それはなんでだ?
逆に考えろ。
サラさんにも通じたのは、サラさんの知っているボクの手の内ではなかったからじゃ? ボクの腕がいきなり上達したわけじゃないんだから。
ボクが優勢だったのは初めに 〔針路そのまま直前急加速〕 を仕掛けて鍔ぜりあいになった時と、さっきまでの障害物を蹴っての反復突撃のあいだか……うん、確かにサラさん相手に初めて使う手だった。さすがのサラさんも初見の技には反応が遅れる!
──いや、待て。
後者は違う、最終的には通じなかった。
ではなく最初から通じてなかったんだ。
前の試合でオルさんがクライムさんに反復突撃した時はオルさんが優勢に見えた。でも障害物のそばに追いつめたと思ったらクライムさんから反撃されて逆転されてしまった。
この試合は前より障害物が多くて条件が違うから上手くいくと思ったけど、結局は同じ結果になった。当然だ、サラさんも前の試合は見てたんだから。自分が同じ状況になった時の対応くらい考えるに決まっている。
それでクライムさんが棒で障害物を突いて機体との衝突を防いだのと同じことを、折れやすい刀で代用する方法として思いついたのが、あの逆さ持ちか。こっちの想定では刀を棒代わりに壁に突けば折れていたはずだったのに──
⁉
そんな使いかたをすれば折れると思ったけど、良く考えたら変だ。さっきの反復突撃からの翠天丸の剣を、サラさんは全て刀で受けている。それでも充分、折れそうなのに、折れてない!
きっとサラさんがリアルでやってる古流剣術の技だ。こっちの攻撃を受けとめながら、その衝撃を受け流していたんだ。だから刀に余計な負荷がかからず折れずに済んでる。
折りたい。
刀を折ってさえしまえば、剣を持ってるこっちはリーチの差で有利になるし、また壁際に追いこめれば今度こそ衝突させられる。でもどうすれば……!)
時間にして、わずか数秒。
限界まで加速した思考の果てにアキラは答えに辿りついたが、時間切れでサラ機との距離が詰まってしまい、その考えを脳内で言語化する余裕はなくなってしまった。
『そろそろ再開といこっか♪』
「ええ……望むところです!」
答えつつ、アキラは翠天丸を転身させた。逃げたのではない、すぐ近くのビルとビルを繋ぐ渡り廊下に着地して、
「サラさん。次で決めます‼」
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