第161話 副将④
さすが高さ2000メートルの超々高層ビル、屋上から地上まで落ちるまでにかかる時間もかなり長い。そのあいだに対処できた。現実の200メートルの超高層ビルなら間に合わなかっただろう。
(サラさんは⁉)
周囲を見渡して
(‼)
甘いのは自分のほうだった。
(様子見じゃない、もう攻撃体勢だ!)
すでに高度はこちらと大差ない。そしてビルの壁スレスレを飛びながら、こちらへ一直線に向かってくる。
アキラは急いで翠天丸を動かした。壁に刺さった剣を抜きつつ、壁を蹴ってその場から離れる!
ビュッ‼
直後、こちらとビルのあいだの空間をサラ機が通過した。あと少し反応が遅れたら、壁に張りついたままやられていた。
(今だ、攻めろ‼)
ほっと一息つきたい気持ちをねじふせて、アキラは翠天丸の全てのスラスターを最大出力にしてサラ機のあとを追った。翠天丸の飛行速度なら、サラ機を乗せた円盤に追いつける。
そして今なら、サラ機の背後をつける!
「うおおおおおッ‼」
『おおっとぉぉッ‼』
バキィィィンッ‼
翠天丸が突進しながら振るった剣は、サラ機が円盤の進行方向は変えないまま向きだけ反転するよう旋回しながら振るった刀に受けとめられた。
(なんて器用な……!)
特訓中、地稽古の敵役として空中騎馬戦スタイルでも闘ったのでアキラも空中騎乗物の扱いには慣れているが、今のサラのような芸当はできない。さすが本職、格が違う。
(それでも!)
「おっとと!」
サラ機がビルに衝突しそうになる。
それはアキラの計算どおりだった。
突進した時サラ機にぶつかる軌道ではなく、わずかに横にズレて飛んだ。自機とビルの壁でサラ機を挟むように。こちらの剣を受けたサラ機が壁へと流されるように。
サラ機はブレーキをかけて衝突を回避、壁から離れようとするところへ、アキラは翠天丸を反転させて追撃をかける!
ガキィン‼
サラ機はまたも刀で翠天丸の剣を受けたが、離れたばかりの壁のほうに反動で押しかえされた。そして再び衝突を回避しようとまごついているところへ素早く戻った翠天丸が追撃する‼
ガキィン‼
『これは! 前回の中堅戦でも見た光景‼ 空中格闘研究会の選手の連続攻撃が、空中騎馬戦同好会の選手を障害物へと追いたてていくぞ‼』
‼ オォーッ ‼
周囲の障害物を蹴ることでスラスターだけよりも高速の突撃を行い、敵の横を通過したあと別の障害物に着地、またそこを蹴って突撃をくりかえす。そして受けた相手が流される方向を意図的にコントロールして障害物への衝突を誘う。
ただ、条件は異なる。
第3試合のバトルフィールドにあった障害物は梯子や橋、つまり棒状の物体で、占有する空間は狭かった。
だが今の障害物は谷間の左右を塞ぐビルの壁。範囲が広く、足場にするにも敵を挟みこむにも、梯子や橋より使いやすい。
アキラの空中格闘戦の腕はオルより下だが、より好条件なこの地形でなら、オルの使った技をオルの時より高精度で使える!
ガキィン‼
『あれ? あたし不利な地形に誘いこまれてた⁉』
「自分で落として自分で追ってきたんでしょ⁉」
『そうでした‼』
軽口を叩きながらもこちらの攻撃を全て受けているサラはさすがだが、それでも徐々に体勢を悪くしていっている。こちらが押している!
アキラも一方的に自分に有利な地形で闘うのは気が引けた。
試合開始直後、プレッシャーに負けてサラ機から逃げて上昇し、ビルの谷間から出たあとで谷間のほうが有利だったと気づいた時は後悔したものだが。
戦意を取りもどしてからは、あの大半のビルの上空で闘うと覚悟を決めたので、もう谷間で闘おうとは思わなかった。
自分から谷間に逃げこむような消極的な姿勢は観客の反感を買い 〔計画〕 上よろしくないという以前に、そんな根性でサラに勝てるとは思えなかったから。
それが不可抗力で谷間に戻ってきた。
なら遠慮なく利用させてもらうだけ。
抵抗がなくはないが 〔フェアに闘える上空に戻りましょう〕 というのもサラに失礼な気がする。たとえセコくても勝つためならなんでもやる、それが全力を尽くすということのはずだ。
「やぁッ‼」
『ッ……!』
ガキィン‼
もう何度目か、サラ機がビルの壁へと飛ばされていく。だが、今度は勢いが強い。ビルまでの距離からして、サラ機の円盤のブレーキは間に合わない……!
前の試合では。
同じように障害物へと追いつめられたクライム機が、武器の棒を障害物に突きたてることで衝突を防ぎ、さらに棒に力を込めることで機体を動かし、オルに逆転勝利した。
だがサラ機に同じことはできない。
刀を棒がわりに突けば、先端が壁に刺さって固定される。その状態で引きぬく方向以外に力をかければ、薄く脆い刀身は確実に折れてしまう。
サラ機は壁にぶつかる!
そこを確実に仕留める!
ガンッ‼
(⁉)
アキラにはサラ機は衝突をさけるのを優先して、折れても構わぬと刀をビルの壁へと突きたてたように見えた。だが響いた音は、刀の切先が壁に刺さったものとは思えなかった。
そして実際、刀は壁に刺さっていなかった。棒の役割を見事に果たし、サラ機の壁への接近を食いとめ、今はもう離れている。
(
サラ機は直前に刀を逆さに持ちかえていた。
そこは刀身のように鋭くないので壁に刺さらなかった。それでも薄い刀身に負荷はかかったろうが、切先が壁に埋まった状態よりはマシだ。刀は折れていない。
(くっ!)
アテが外れたが、ビルにぶつかったサラ機にトドメを刺そうと飛びだした翠天丸の動きは今さらとめられなかった。アキラはそのまま突撃し、刀を槌のように使ったサラ機の一撃に迎えられた。
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