第80話 銀雪

 蓬莱山ほうらいさんの浜辺に上陸したアキラたちはまず、近くの漁村の傭兵ギルドを本拠ホームに設定した。その折、村の素朴な建築を見て──



「アニメとおんなじ!」



 アキラは猛烈に感動していた。昔の中国の建物風なそれらが、ロボットアニメ 〔しんえいゆうでんアタル〕 での描写そのままだったから。


 アタルに登場はしたが内部はあまり描かれなかった、海亀船に乗っていた時はあまりしなかった 〔アタルの世界に来ている〕 という実感!



「これでこそ‼」



 ──と興奮するアキラを、仲間たちは優しく見守ってくれていた。誰も水を差すようなことは言ってこないが、それでも1人だけテンションが高いのは、やはり照れくさい。


 レティスカーレットがいてくれたら一緒に騒いでくれただろう。彼女の不在を痛感させられる。こんな気持ちを振りはらうために、この地に来たのだ。



「お待たせしました。出発しましょう!」


「「「「「「オーッ!」」」」」」


「いざ、ぎんせつざんへ‼」



 漁村からそう遠くない、名称どおり雪に覆われたその山は、蓬莱山──この島──が乗っているれいの左側に位置する。


 この島は蓬莱といっても1つの山だけで構成されているのではなく、複数の山があるし平野も存在する……あくまでアタル版での設定だが。


 アタル版・蓬莱山は霊亀の 〔頭側・中央・尾側・左側・右側〕 の5つの地域に分けられる。作中では悪の親玉・あんこくりゅうとその配下の四天王の計5匹が各地域を縄張りとした。


 その名と支配地域は、強い順に──



あんこくりゅう:頭側

きんこうりゅう:中央

ぎんせつりゅう:左側

こうえんりゅう:尾側

そうかいりゅう:右側



 ──で、弱い順に主人公アタルに倒された。


 つまり5匹とも死亡しているが、このゲームクロスロード・メカヴァースでの蓬莱山はアタル最終回より未来という設定で、全員が復活して再びこの地を支配している。


 そして……


 フェイ姫そっくりなレティと出会った時 〔NPCノンプレイヤーキャラクター化したフェイ姫なのか〕 と思ったアキラはそのあと調べたのだが、このゲームに原作主人公の救世主アタルも、その相方のフェイ姫もNPCとして登場はしない。


 アキラは、アタルやフェイ姫に会えないのは残念に思ったが、会ってみて自分の中にある理想の2人と違っていたら発狂する自信があるので、これでよかったと思った。


 原作で蓬莱山を救った彼らがいないので、その使命は自分たちプレイヤーに託されている。まぁ、当然だ。


 このゲームの主人公はプレイヤーなのだから。


 この蓬莱山での任務ミッションは、以前に受けた 〔鉱山を占領した魔龍シーバンを倒して元の住人であるドワーフたちに返す〕 のと同じで、受けるPCごとに時空が分岐する。


 あの任務をクリアした自分たちにとっては、シーバンは死亡していてドワーフたちは鉱山に帰っているが、まだのPCプレイヤーキャラクターにとってはシーバンは生きているしドワーフは追いだされたままだ。


 だから他のPCに先を越されて倒すべき敵がいなくなってしまう心配はない。アキラもいずれは5匹を制覇する気だが、それはのんびりやるとして。


 今日の目当ては銀雪龍のみ。


 原作でアタルのしんけんすいおうまる、そしてフェイ姫のしんけんおうまるを強化するために使われたアイテムとは、銀雪龍の角だった。


 アキラは己のしんけんすいおうまるを強化するため、アタルと同じく銀雪龍を倒し、その角をいただきに来たのだ。


 そして蓬莱山で5匹の龍を退治する任務ミッションは、アキラがこれまで受けたもののように誰かから依頼されて臨むものではなく、その支配地で龍に接近することで自動的に発生する。



 グォォォォッ‼



 銀雪山の頂上にやってきたアキラたちに、銀雪龍が咆哮した。雪の舞う曇天の下、切りたった峰を取りまいて空中に浮かぶ長い巨体の先端にある、厳つい頭部に開いた口で。


 アタルに登場する 〔龍〕 の姿は伝統的な東洋の龍そのままだ。体は蛇のように長く、翼もないのに空を飛ぶ。


 銀雪龍は体が雪でできているわけではなく雪のように白い鱗に覆われた生身の龍で、そして雪を操る魔力の持ち主。



 ビュゥッ‼


『来ますッ‼』



 咆哮とともに銀雪龍が吐いた吹雪を、7機のメカたちはその中の1機に乗ったアキラの合図で散開し、回避した。


 傾斜の急な山頂付近では跳躍もままならないが、今の7機には関係ない。空亀船そらがめせんの個体よりは小さい、ちょうど5メートル級のメカ1機が乗れる大きさの空亀そらがめに乗って飛んでいるから。


 アキラたちはふもとの漁村で空亀をレンタル、自らのメカに搭乗してから、さらに空亀の甲羅に乗ってここまで飛んできた。そのメカたちは──



アキラ機…………しんすいおうまる

カイル機…………しんこっまる

エメロード機……しん白虎びゃっこまる

クライム機………SVスレイヴィークル・アヴァント

サラ機……………SVスレイヴィークル・アヴァント

アル機……………白銀シルバー龍衣スーツ・アルジンツァン

オル機……………黄金ゴールド龍衣スーツ・アウルーラ



 カイルエメロードの機体だけ、これまでと違う。


 父のフーリガンは20メートル、母のアドニスも20メートル、他の機体より大きすぎて足並みが揃わないので、2人はみなの機体と同じ5メートル級のメカを購入してくれていた。


 すいおうまると同じくアタルの登場メカで、物語中盤でアタルの仲間になる虎頭の獣人、少年シェン・ウーと少女マオ・マオの機体。


 シェン・ウー機がこっまる、マオ・マオ機が白虎びゃっこまるで、どちらも乗り手をモデルに作った3頭身メカのような姿をしている。



『ほらほら!』

『こっちよ!』



 今はカイルが駆るこっまると、エメロードが駆る白虎びゃっこまるが、銀雪龍の顔の周りを飛びまわって注意を引く。一方でクライムとサラサラリィのアヴァント2機が銀雪龍の死角に回りこみ──



『プレゼントだ』

『受けとって♪』



 2機とも短機関銃サブマシンガンの二丁流による弾丸のシャワーをお見舞いした。防御力が高いため銀雪龍は大したダメージを受けていないが──ひるみ、動きをとめた。



「「どうほう‼」」



 そこにアルアルフレートオルオルジフが、敵が動いていると当てづらい大技をくりだす。2人の甲冑の背中から生えた龍細工、その口から真っ赤な熱線が放たれ、銀雪龍の横腹に突きささる!



 グギャォォォッ‼



 覇道砲は攻撃力が高い上、銀雪龍の弱点である炎属性。銀雪龍の膨大なHPが一気に削れて、残りわずかになる──そこへ!



必殺ひっさぁつ! 屠龍剣とーりゅーけーん‼』



 突撃したアキラのすいおうまるが手にする、これまた銀雪龍の弱点である竜特効を発動した青く輝く剣を急所である頭部に受け──銀雪龍はHPを全損し、消滅した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る