第146話 乙姫
いわゆる地下街にある屋内競技場。
その作りは現実のドーム球場のよう。
ドーム状の天井の頂点で輝く照明が、床に広がる円形の
そこは
普段はこのゲームの運営が
〔PC対NPC〕 のバトルも可能。
〔PC対PC〕 のバトルも可能。
今回のようにPC5名同士の2チームが1名ずつ順に選手を出しあって5回連続で1対1の試合をし、勝ち星の多いほうのチームを勝者とする団体戦を行いたい──
という希望は簡単には通らないが、両チームの代表が2週間前には運営に要請を出していたため無事に受理されて実現した。それで今、
「空中格闘戦のほうが強いに決まってる‼」
「空中騎馬戦のほうがやりやすいんだよ‼」
「ま、今日でハッキリするさ」
これから行われる決闘の当事者である空中格闘研究会と空中騎馬戦同好会の、選手以外の会員たち。そして両者の闘いの行方を見届けにきた部外者。
なお空中格闘戦と空中騎馬戦のどちらが習得が容易か、という点については他でもない空中格闘研究会の代表であるセイネが 〔空中騎馬戦のほう〕 と声明を出している。
空中格闘研究会は習得の難しい空中格闘戦をみなで協力して学んでいこうという動機で発足した。だから難しい、つまり容易に力を発揮できないことは初めから分かっている。
にもかかわらず。
その認識とは真逆の 〔空中格闘戦が空中騎馬戦より優れている〕 という主張がセイネではない一部の研究会員から出て、多くの研究会員に共感され、多くの同好会員たちの反感を買ったことが、両会の感情的な対立を生み、今回の決闘騒ぎに繋がった。
セイネは 〔今日の決闘の勝敗が双方が追求する戦法の優劣を決めるというわけではない〕 とも明言しているが、いかに影響力のあるセイネの言葉とはいえ浸透はしていない。
今日、勝ったほうが強い。
今日、勝ったほうが正しい。
大多数がそういう認識でここにいた。
「勝つのはセイネたんだ‼」
「いいや、ミーシャ様だ‼」
「2人の私闘じゃねぇよ‼」
そして空中格闘研究会の代表である金髪バニーガールのセイネと、空中騎馬戦同好会の代表である金髪縦ロールお嬢様のミーシャが、ともに高名な
♪~
騒がしかった場内に、やおら雅な音色が流れだす。中国の歴史ドラマで聞くような、中華風の宮廷音楽といった趣のその曲は、セイネのイメージともミーシャのイメージとも異なり、はっきり言って場違いであり、みなを困惑させた。
『みなの者、
そのあどけない声とともに、
PCのようだが、PCの最大身長よりも遥かに巨大。ただ、その姿はうっすらと透けており、立体映像だと分かる。実は観客席のどの角度から見ても彼女の正面が映る仕組みになっていた。
「なんだテメーは⁉」
『なッ⁉ なんだとはご挨拶じゃな! おい! 会場の声もこっちに聞こえておるからな! 口を慎め無礼者が‼』
観客席全体からブーイングが起こった。
『うるせーッ‼ もうよい! そっちの音声ミュートにしてやる! 勝手に進めるぞ!
「姫様ー!」
「
中華童女姫オトヒメは、セイネやミーシャと同じ
業界でもかなり上位の人気者。
動画登録者数は300万。
なお、セイネは500万。
またミーシャは100万。
ちょうど2人の中間と言える。
『あー、本日の決闘! 対戦する両会の代表からの要請により、この妾が司会やら実況やらを務めることにあいなった‼』
『公平を期すため、どちらの会にも属さず、どちらの代表とも特に仲良くなかった妾に白羽の矢が立ったわけじゃ! 交流のなかった2人からオファー受けた時はビックリしたぞい!』
『ウィズリムもクロスロードのソフトも持っておらんかったが、2人が
¶
──その様子を。
アキラは観客席の下にある選手控室で、壁のモニター越しに見ていた。控室にはあと4人の研究会側の選手たちもいる。
代表のセイネは金髪バニーガール。
ドワーフ鍛冶師の
そして自分は古墳時代の
この2週間、秘密の特訓で他人に目撃されても正体がバレないよう隠密用フード付マントでアバター本来の姿を覆っていたので、アキラは自分のものも含めて誰の姿もずいぶん久しぶりに見る気がした。
一緒に特訓に励んだメンバーでここにいない2人の内、
⦅全力で楽しもーね‼⦆
⦅健闘を祈るでござる‼⦆
ここに来る前、2人からはそう告げられた。SNS 〔ブルーバード〕上の、この決闘を通じて両会を和解させようというセイネの〔計画〕のメンバーによるグループDMにて。
メンバーの内、こちらの特訓には参加しなかった同好会員であるクライムとミーシャとも、そこで少し話した。
⦅カワセミくん、お互いがんばろう⦆
⦅はい、クライムさん!⦆
⦅ミーシャさん、今日はよろしくお願いします⦆
⦅フン……あなたのためにやるのではありませんわ⦆
元からフレンドで仲のいいクライムはよかったが、ミーシャはアキラに冷たかった。空飛ぶリムジンで彼女に愛の告白をしなかったことを根に持たれているらしい。
「もうすぐみたい」
セイネの声で、アキラの意識は引きもどされた。
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