第90話 盲点
ぐりん
「⁉」
午前中、飛行能力のない
空亀に乗った者は、その両足が甲羅に張りつく。
その状態からアバターを前後左右に傾けると、傾けた方向へと空亀は進行する。旋回したい時はアバターの両足を前後互い違いに押し引きする。下降したい時はアバターをしゃがませ、上昇したい時はジャンプするようにアバターの脚を伸ばす。
それが空亀での飛行方法だった。
アキラはてっきり、飛行モードになった
空亀では体を傾ける動作はそちらに進行する動作へと変換されるため、一定以上に体が傾くことはなかった。
その感覚のまま、アキラは
機体が前傾して足裏が上を向いたため、それまで足裏の
それは一瞬の出来事だった。
そもそも大した高さまで飛んでいたわけではない。頭から合体白巾力士に突っこむまで、コンマ何秒か。アキラの加速した思考は状況を理解できていても動作として出力できることは少ない。
だから、これができただけでも幸運だった。
「
ズバァン‼
ドガァン‼
その剣を立てたまま
『おお、カワセミくん!』
『やったじゃん、少年!』
『お見事でござる、アキラ殿!』
『ほぉ、やるじゃねぇか坊主!』
『『おめでとう!』』
クライム、
『『『『『『あ』』』』』』
頭を下に向けて高速で降下していた
¶
「みなさん、本日はお疲れさまでした!」
「「「「「「お疲れさまでした!」」」」」」
戦闘終了後。
白巾力士たちから救った漁村の傭兵ギルドに帰還したのち、もう夕方ということで、リーダーのアキラの号令でパーティー一同は解散、ログアウトした。
昨日は夕食のあともログインして遊んだアキラだが、今日は日曜──つまり明日は月曜、平日ということで、夜まで遊んでいると翌朝の起床がつらくなる。それは他の6人も同意していた。
そして夕食時、
アキラは両親に改めて感謝を伝えた。
「お父さん、お母さん、
「どういたしまして。ぼくも息子と遊べて嬉しかったよ」
「気晴らしになった? その……」
「うん、なったよ」
母が言いよどんだ理由は分かる。
母が 〔その子との思い出が詰まった
しかしその最後に
それをきっかけに。
レティと一緒にやるつもりだったことを彼女抜きでやることで、形だけでも彼女を吹っきることを思いついて、実行した。
アタルの舞台である
最後は、相手がレティと一緒に戦って負けた合体黒巾力士とほぼ同じ存在の合体白巾力士だったため、予定していた以上に 〔レティを吹っきる儀式〕 の意味合いが強くなった。
単機で戦うのにこだわったのはそのためだ。
敵を前にして長々と説明してる暇がなかったので仲間たちには前に負けた相手へのリベンジが目的のように話してしまったが。
これらをひととおり、やりとげた。
それでレティのことを忘れられたわけではないが、やるだけやったという達成感から、沈んでいた気分がだいぶ薄れたと思う。だから──
「ボクはもう、大丈夫だよ」
「「そう」」
両親はそれだけ言って、ほほ笑んだ。
¶
就寝前、アキラは
【翠】
〖翠王丸を翠天丸に進化させたよ!〗
【蒔絵】
〖へぇ。原作どおり飛べるの?〗
【翠】
〖うん。でも事前に飛行の操作方法を調べてなかったせいで今日は上手く飛べなかったんだ。他の飛行可能メカと同じらしいから、今度お母さんに教えてもらうことになったよ〗
【蒔絵】
〖アンタ、クロスロードはSVのパイロットになるためにやってんのよね?〗
【翠】
〖もちろん! 〔操る側〕 として!〗
【蒔絵】
〖現状、空を飛べるSVなんて存在しないんだケド〗
アキラは言われて初めて気がついた。
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