第169話 大将④
(ここまで来て言いだしっぺのぼくのせいで計画失敗とか!)
ゴォッ‼
くるっ──だんッ‼
側面の断崖に激突する寸前で機体を反転させ、両足で着地。そのまま崖を蹴り、その反動にスラスター推力も乗せて高速でミーシャ機へと突撃する!
第3試合で
『はッ!』
ミーシャ機がこちらを向いて
(そして──)
ミーシャ機がリールを巻きながら竿を引いた。初めの攻防で見せたのと同じ、一度かわされた針を巻きとる過程で相手に引っかける技。さっきは見事に釣りあげられたが──
「はっ‼」
『えっ⁉』
セイネは再びドラグネットを横移動させ、後方から迫っていた針をよけた。こちらを捉えそこねた針はすぐ竿の先端まで巻きあげられる──
が、ミーシャ機にその竿を再び振るって針を飛ばす時間はない。針をよけながらも極力、速度を落とさず突撃を続けたドラグネットは、もうミーシャ機の間近に迫っている!
「もらった‼」
『ちぃぃッ‼』
バキィッ‼
ドラグネットが前進の勢いを乗せて突きだした銛が、ミーシャ機の釣り竿をへしおった。銛はミーシャ機の胸を狙ったのだが、ミーシャ機が間一髪、脆い竿で受けた結果だ。
HPが0になった竿が無数のポリゴンに砕けて消える。
ミーシャ機を仕留めることはできなかったが、セイネとしては上々の成果と言えた。こちらが漁具である網を喪失させられた次の攻防で、相手の漁具の釣り竿を喪失させた──観客の目には、互角の闘いと映っただろう。
実力的にも精神的にもこちらが押されているのが真実でも、それを観客らに悟られてはいけない。双方、一歩も退かぬ接戦だと思っていてもらわなければ。
『背中に目でもついているんですの?』
ミーシャが聞いてきた。セイネは突撃の勢いでミーシャ機のそばを通りすぎた
否と。
「そんな化物じゃないですよ、わたしは。視界の外へ行った分は見えなくても、それと繋がっている糸と竿とそれを振るうトロウルは見えているんですから。その角度と動きを観察すれば、見えない部分がどうなっているかなんて計算できます」
『充分、化物ですわね』
『いや、どっちもバケモンじゃ! テクニカルなミーシャ選手、ロジカルなセイネ選手、どちらも最終戦にふさわしい絶技を披露してくれたの‼』
‼ ウォォォォーッ ‼
あれくらいIQ150の天才である自分には赤子の手をひねるも同然。褒められても自信には繋がらない。いや、そもそも自分は己が見下している他人からの評価で心動かされることはない。
自分より強いと認めているミーシャも 〔化物〕 と評してくれたが、これも本心かどうか。なにせ彼女もこの 〔計画〕 の賛同者だ。互角の闘いを演出するため、こちらを持ちあげてくれたのかもしれない。
『さて』
竿を失い
西洋の
『小細工はやめにして、コレでお相手してさしあげましょう』
「ここからが本番……ということですね。望むところです!」
嘘である。
本当は全く望んでいない。いかにも扱いの難しそうな釣り竿を使っているあいだに決着がついてほしかった。そんな本心をひた隠し、セイネは 〔闘いを楽しんでいる〕 ふうを装った。
「『はぁぁぁぁッ‼」』
ガキィィィィン‼
「『やぁぁぁぁッ‼」』
ガキィィィィン‼
互いを目指して飛びだした両者が銛と薙刀を打ちあわせ、すれちがって反転してはまた突撃する、激しい応酬が始まった。
セイネ機ドラグネットは先ほどのように周囲の浮遊島を蹴って突撃し、すれちがったら前方の別の浮遊島を蹴って反転してと、反復突撃を仕掛ける。
第3・第4試合でこれをかけられた空中騎馬戦同好会側の選手はどちらも自分からは動かずに受けていたが、ミーシャ機トロウルは自らも積極的にセイネ機へと突撃をかけてきた。
ガキィィィィン‼
前の2試合より障害物同士の間隔が広く、セイネ機の突撃に時間がかかるため、ミーシャ機にも対応する余裕があるからだ。
だが時間的余裕でできることが増えたのはセイネも同じ。浮遊島を蹴ることで通常より高い速度を出しながらもスラスター出力は8割ほどに押さえておき、激突する間際に全開にして緩急で相手を翻弄する 〔直前急加速〕 を織りまぜる、が──
ガキィィィィン‼
(通用しない……!)
直前急加速でどの方向に針路を切り、どの方向から攻めても、ドラグネットの銛は毎度ミーシャ機の薙刀に弾かれた。
しかもミーシャ機の一撃は防御と攻撃を兼ねており、セイネは接触した銛から伝わってくる力で機体の姿勢が崩されそうになるのをこらえるのに必死だった。
あとほんの少しズレただけで、セイネ機は姿勢を崩して致命的な隙をさらすか、そうなる以前に直撃を受けて撃墜される。
ガキィィィィン‼
『なんと激しい攻防! 両者、全くの互角ーッ‼』
‼ ミーシャ様、その調子です ‼
‼ セイネさん、こらえてーッ ‼
互いに攻撃しながらも武器同士がぶつかるばかりで本体へのヒットはない。オトヒメはそれを見て互角と判断したようだったが、それは彼女が
声援の内容からして、このゲームのプレイ時間の長い観客らにはセイネが押されていることがバレている──離れて見ている彼らでも分かることを、対戦相手が分からないはずはなかった。
『どうしました、セイネさん!』
「ッ……!」
『その程度ですか! 空中格闘戦にかける、あなたの想いは‼』
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