第49話 陣営

●軌道エレベーター

[大地と宇宙とを結ぶ超長大な昇降機エレベーター。現実でも建設に向けた取りくみはされているが、今はまだSFの中だけの存在。


 その構造は地上から天空へと伸びる塔のようにも見えるが、実際は異なる。軌道エレベーターの始点は宇宙にあり、そこから地上まで届くケーブルを 〔垂らして〕 造られる]



 なので──


 アキラが仲間たちと世界樹の第8宮ホドから第5宮ゲブラーに昇るのに使った昇降機も軌道エレベーターっぽいと、あの時セイネが語っていたが、それ以上に。


 世界樹そのものが地下世界インナーワールドにあるファンタジー版の軌道エレベーターとでもいうべき存在だ。天蓋に根を張って上から下へと伸びている点でも、天地を繋ぐ移動手段となっている点でも。


 その世界樹の頂点から転送陣で真上に昇ってきたら、そこは地上世界アウターワールドにおけるSF版の軌道エレベーターだった。上下に並んだ2つは、むしろ一続きの軌道エレベーターとも考えられる。



「2人とも知ってたんだ」



 アキラはそばに──そのアバターが──いる両親に確かめた。

 

 自分は地下世界インナーワールド、両親は地上世界アウターワールド、と別れて遊んでいたのを 〔一緒に遊ぼう〕 と両親が地上に呼んだ。


 その際、待ちあわせ場所を 〔世界樹から地上に出た所〕 とは聞いていたが、そこになにがあるかは聞いていなかった。



「うん。アキラ知らなそうだったから」


「それならサプライズにしましょって」


「やっぱり。ありがとう!」



 地下世界インナーワルドから地上世界アウターワールドに出た場所がどこかなど、このゲームクロスロード・メカヴァースの公式サイトで調べれば分かったこと。


 アキラがそうしていなかったのは、このゲームの地理情報はなるべく調べないようにしているからだ。そこになにがあるか知らず、訪れて初めて目にする新鮮な感動を味わうために。


 両親にもその話はした。両親はそれを覚えていてくれて、ネタバレしないように気を利かせてくれたのだ。自分は本当に恵まれていると、アキラは改めて感謝した。



「じゃあ、ここのこと教えてくれる?」


「任せて! バッチリ予習したから!」


「ってことで、父さんに任せるわ。母さんたちもここに来て日が浅くて。予習してない母さんは詳しくないままだから……」



 アハハと3人で笑いあい。


 屋外のカフェに移動し。


 父による解説が始まった。





〔アメノミハシラ〕



 それが、この軌道エレベーターの名前。その大もとは日本神話に登場する 〔天御柱あめのみはしら〕 だが、日本神話もモチーフにしている 〔しんえいゆうでんアタル〕 とは関係がない。


 これはアタルとは別のこのゲームの参戦作品、SFロボットアニメ 〔こうせんフーリガン〕 に登場した巨大建造物メガストラクチャー


 フーリガンは月面や月軌道周辺に築いた人工居住地 〔コロニー〕 にも人が住むようになった未来を舞台に、地球居住者と宇宙居住者による戦争を描いている。


 そこで軌道エレベーターは両陣営の重要拠点となる。


 ロケットに載せて打ちあげるより遥かに安価・安全に大量の物資を地球と宇宙のあいだで運搬できる軌道エレベーターは、宇宙時代の物流の要。


 そこを押さえることによる戦略的・経済的な影響力は戦局を左右する。ゆえに自らのものは絶対に奪われてはならないし、敵のものは是が非でも奪いたい、となる。


 それで地球に2基ある軌道エレベーターは両陣営が1基ずつ所有することになり、それがこのゲームにも反映されている。なお他の参戦作品の軌道エレベーターはこの2基に設定を吸収されて登場しない。


 その場所の緯度は赤道直下、経度は──



➊アメノミハシラ……東経135度

➋コロンビヤード……西経45度



 ──と、地球の反対側の関係にある。



➊アメノミハシラ

[ニューギニア島の北西部チェンデラワシ湾の北の海に浮かぶ巨大人工浮島メガフロート 〔オノゴロ〕 にその終着駅ターミナルがあり、アキラたちは今そこにいる。


 フーリガンで主人公ナラ・ヤマトが属する陣営、一時は世界統一政府だった 〔地球連合〕 が所有する。


 地球上の地球連合の支配地域は、このオノゴロを中心として、アジアとオーストラリア大陸、またその周辺の島々の一部]



➋コロンビヤード

[南米ブラジル、アマゾン川 河口の東の海に浮かぶメガフロート 〔ミレニアム〕 にその終着駅ターミナルがある。


 地球連合が宇宙にまで版図を広げたのち、その特権階級である地球居住者たちから弾圧を受けた宇宙移民者たちが離反して興した 〔イカロス王国〕 が所有する。


 地球上のイカロス王国の支配地域は、このミレニアムを中心として、南北アメリカ大陸とグリーンランド、またその周辺の島々の一部]



 そして。


 これら双方の支配地域に挟まれた太平洋・ヨーロッパ・アフリカ・北極海・南極大陸が、両陣営がせめぎあう主戦場──というのが、フーリガン第1話での情勢だった。


 しかし最終回で地球連合が勝利。


 地球全域を再び支配下に置いた。



 ここまでは原作での話。



 ここからはこのゲームのフーリガン要素のオリジナル展開で、 〔現在〕 はその戦後という時代設定。だがイカロス王国の残党が蜂起して、勢力図を第1話と同じになるまで盛りかえしている。



「って、そんな簡単に⁉」



 父から説明を聞いていたアキラはつい口を挟んだ。敗戦側のイカロスは人員も資源もわずかなはず。全盛期と同じように地球連合と互角の状況に持ちこめるとは思えない。



「そこには、ちゃんと理由があってね」


「おお、どんな?」


「強力な後ろ盾が現れたのさ。銀河帝国だよ」


「へ?」


「で、地球連合には銀河同盟がついた」


「あ、そういうこと!」



 銀河帝国と銀河同盟とは、フーリガンとは別の参戦作品 〔そうこうへいベイシス〕 に登場する、この地球が存在する天の川銀河を二分する星間国家だ。


 フーリガンの地球人類はまだ超光速航法を発明しておらず、その活動範囲は太陽系内に限られる。


 ベイシスの人類(地球人ではなく地球人そっくりな宇宙人)は超光速航法によって銀河系の全域に広まっている。


 規模がまるで違う。



「ベイシスとの設定統合で、同盟と帝国がともに未開惑星の地球を自陣営に取りこもうとしていて、原住民の協力者に選んだのが同盟では地球連合、帝国ではイカロスだったんだ」


「うわぁ」


「同盟と帝国は互角だけど、星間国家の国力からすれば地球連合とイカロス残党の差なんてないに等しいからね。その援助を受けた両陣営は再び互角になって地球圏の覇権を争ってるんだよ」

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