第50話 蝙蝠
●地球圏
[地球とその衛星である月の公転軌道の周辺までの範囲を表す語。
そんな狭い中で争っていた小さな勢力では、広大な銀河を二分する
とはいえ。
参戦作品同士は対等であるべきなのに、ベイシスがフーリガンより優遇されているように感じる。作中に登場する文明の規模など作品の優劣とは関係ないのに。
アキラは両作とも同じくらい好きだが、それでもフーリガン好きとしての心理からモヤッとする。
なら自分以上にフーリガンが好きで、その主人公機を初期機体に選び、今もその主人公のものと同じ地球連合軍の軍服を着ている父は……
「お父さんはどう思う?」
「まぁ多少はモヤッとするけど、怒るほどじゃないかな。もちろん怒ってる人もいて、それも当然だとは思うよ。ただね、その不満はプレイヤーだけでなく、
「えっ……地球連合やイカロスのNPCが、自分たちを
「そう。そしてNPCにわざわざそんな発言をさせてるってことは、運営はいずれ地球勢力が星間国家の鼻を明かすことになるような大イベントを用意してると思うんだよね」
「そっか、それはワクワクするね!」
「だろう?」
アバターは表情が動かないが、アキラはその向こうの生身の父がいたずらっぽく笑っているのが目に浮かんだ。
それでもベイシスの国家がフーリガンの国家を下に置いている件で怒っているファンもいるように、完全に誰も傷つけないとはいかない。
そこで、ただ怒るのではなく。
制作陣に不満を持つでもなく。
プレイヤー側としても、クロスオーバーという状況を積極的に楽しもうという姿勢を持つ父を、アキラは立派だと思った。
その想いを言葉にする。
「すごいや。父さんと母さんはそうした複雑な事情も飲みこんで乗っかった上で、原作の主人公たちみたいに地球連合軍の一員として戦ってるんだね」
「え? あー、いや。それはちょっと違うというか」
「母さんはそこらへん分かってないまま戦ってたわ」
「あれぇ⁉」
「えっとね」
父がバツが悪そうに頬をかく。
「父さんは地球連合の軍服を着ていても、そこの所属じゃない。中立の傭兵だ。まだ連合の
「そうなの⁉」
両親に限らず自分も、そしてこのゲームの全ての
「知らなかった……」
「主人公の敵側の陣営にもファンは多いからね。現実の傭兵が両陣営を行ったり来たりしてたら信用を失って仕事が来なくなるだろうけど、ここではそういう心配もない。ゲームだもの」
「そこは厳しくないんだ」
「そういうこと。連合の
「はは……」
アキラは苦笑した。それもどうなんだと思うが 〔イカロス軍と交戦記録のあるPCはイカロス領には入れません〕 では確かにゲームとして窮屈だ。
固く考えれば両陣営どちらにも手を貸すのは不義理だろうが、アキラはこの世界のすみずみまで見てみたいと思っているので、そこは助かる。
多分、仁義や原作への思いいれから片方の陣営からの任務しか受けない縛りプレイをする人もいるのだろう。自分には真似できないが、それはそれでいいことだと思う。
楽しみかたは人それぞれだ。
そこで母が話に入ってきた。
「は~。そういうことだったのね! 〔なんか妙だな〕 って思ってたこと全部スッキリした! ありがとう、あなた!」
「どういたしまして。息子にも妻にも喜んでもらえて、僕も予習してきた甲斐があったよ」
「お母さん、分かってないまま戦ってたって言ったっけ」
「ええ。母さんが認識してたの、このゲームでは各参戦作品の勢力は、原作主人公の味方勢力は味方勢力同士で、敵勢力は敵勢力同士でグルになってるってことだけだったわ」
「ん? ……あ、そうか! 手を組んでるのはフーリガンとベイシスの勢力だけじゃないんだ!」
父が改めて説明する。
「このゲームでは各参戦作品に登場した勢力たちは2大陣営にまとまって争っていて。そのチーム分けの基準は、主人公が所属してた勢力だったか、その敵だったかなんだ」
「それは分かりやすいね」
「だね。参戦作品には第3勢力が出てきたり主人公が途中で所属を変えたりするのもあるけど、そこはケースバイケースで」
「そういう 〔制作上の都合〕 で同じチームにされた勢力同士が 〔本人の視点〕 ではどういうふうに仲間になったか考えられたものの例が、同盟が連合に、帝国がイカロスに援助してる~って設定なんだね」
「そのとおり! アキラ頭いい‼」
「さすが、わたしたちの息子ね‼」
「えへへ」
アキラはおおげさだと思ったが、褒めてもらえたのは嬉しいので素直に受けとった。実際、今のまとめは自分の考えを整理する上でもよかったと思う。
このゲームで原作の勢力から
(ボクはどっちがいいかな)
ドワーフの村では自分も依頼者に感情移入したし
ケースバイケースでいいか。
アキラはそう、結論づけた。
「アキラ、まだなにか聞きたいことはあるかい?」
「ううん」
「じゃあ、そろそろ観光に行こうか」
「うん!」
「そうね、行きましょ!」
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