第2話 徒労
なにも今に始まった話ではない。
SVが誕生する以前にも、それこそ志を立てた6年前から思っていた。まだ存在してもいないロボットのパイロットになるために、その操縦技術を磨く手段など存在しないのではないかと。
それでも、一緒に夢を叶えると誓った
アキラはいつか有人操縦式人型ロボットが実現した時その操縦の
1つは、3Dロボットアクションゲーム。
それもゲームパッド型コントローラーではなく、フィクションでロボットのコクピットに描かれているような
その手のゲームは装置が大掛かりになるので大抵は業務用筐体でしか遊べず、アキラはそれが置いてあるゲームセンターに通いつめた。
ただ、中には家庭用ゲームハードの周辺機器として操縦装置を販売している場合もあり、それも親にねだって買ってもらって対応するゲームソフトをやりこんだ。
もう1つは、実物の小型ロボット競技。
自作または市販の、人が片手で持てるくらい小型の二足歩行ロボット同士を遠隔操縦で戦わせる大会にも参加してきた。
蒔絵が作ってくれたロボットをアキラがリモコンで操縦して他の選手のロボットと戦い、そこそこの成績を収めてきた。
──と。
アキラも不断に努力してきたつもりだ。
しかし、これらは本当に役に立つのか。
そんな疑念がずっと頭の片隅にあった。
ロボットゲームも競技用小型ロボットも操作方法は千差万別。だからAをやりこんで上手くなってもBを始めたら上手くできず下手クソからスタート、ということが何度もあった。
将来、同じことが起こるのでは?
有人ロボットが完成したとして、その操縦方法が自分の知るどれとも違っていたら。自分がそれを動かすのに、これまで身につけてきた技術は通用しない。
その、嫌な予感は当たった。
史上初の有人操縦式人型ロボット、SVの存在が発表された時アキラはすぐその操縦方法を調べた。はたしてそれは、己の知るどれとも違いすぎた……つまり。
自分は一歩も前に進んでいなかった。
蒔絵はあんな足早に進んでいるのに。
ただでさえ凡人のアキラは天才の蒔絵に引け目を感じずにはいられない。〔作る側〕 と 〔操る側〕──進む道は違えど歩く速度は一緒でいたかったが、それはどだい無理。
ならせめて、遅くとも己の道をたゆまず歩んでいると胸を張って言える自分でいたかったが 〔歩いていたのは別の道でした〕 では足踏みをしていたのと変わらないではないか。
さすがにヘコんだ。
この話は蒔絵にはしていない。彼女は自分がアキラに不満をぶつけるのはよくても、アキラが自分に泣きごとを言うのは許さないので。
幼いころ何度もそれで怒られ、アキラとしても彼女にあきれられて嫌われたくはないので、次第に言わないようになった。
嘆いていても仕方がない。
そこは自分で立ちなおる。
やるべきことは分かっている。SVの操縦方法が未知のものなら、またそれをイチから学びはじめるだけのこと。ただ、どうすればそれを学べるのかが分からない。それだけが問題だった。
¶
「──というワケなんだ」
「ふむ、ふむ。なるほど」
小学校からの帰り道。アキラは 〔悩みがあるなら相談に乗る〕 と言ってくれた同級生の男友達、
「アキラ、〔ウィズリム〕 って知ってる?」
「え? ……知ってるよ。VRMMO 〔クロスソード・メタヴァース〕 用のコントローラーだろ。それがなんだってのさ」
アキラは内心、不機嫌になった。
口に出すのも忌々しかったから。
「別にクロスソード専用じゃないよ。人型アバター操作用インターフェース。発売当初は対応してるVRゲームが同時発売のクロスソードのみだったってだけで」
「だから知ってるって。発売当時に騒ぎになってたの見たから」
「アキラはウィズリムが嫌いなの? それともクロスソード?」
「どっちも! だってあんな、どう見てもロボットのコクピットにしか見えない装置で、ロボットじゃない人間大のアバターを動かすゲームなんて──」
〔
VRゲーム用コントローラー。パソコンや複数のVR対応ゲームハードで使える周辺機器。その形状は手で握るスティックと、足に固定するペダルが、左右一対ずつ。
それは、まさにフィクションの中で描かれてきた有人ロボットの操縦装置を再現したような代物だった。アキラがすでに持っているロボットゲーム用コントローラーと同じように。
だが、ウィズリムを使って遊ぶVRゲームとして初めて発売された 〔
ありきたりな異世界ファンタジー。
人間や獣人といった、人間大の生物という設定の、人が乗りこむロボットではないアバターを、ロボットものの象徴たるツインスティック&ツインペダルで操作する?
「ロボットに対する冒涜だよ‼」
しかもウィズリムが発表された直後こそ 〔どう見てもロボットのコクピットじゃん!〕 とロボ好き界隈で話題になったが、クロスソードを始めた人間の多くは特にロボ好きではなかった。
彼らはウィズリムをクロスソード用のコントローラーとだけ認識し、ロボットの操縦装置に似ているらしいことは知っていても、そのことに言及されるのを嫌がるくらいだった。
そんなクロスソードが──ロボットものより遥かに人気の高い王道ファンタジーゆえか──今、世界で最も売れているゲームなのだから、ロボ好きとしては面白くない。
「だからアレ関連の話題は見ないようにしてる」
「やれやれ、それで気づかなかったってワケか」
「うん?」
「ウィズリムによるアバター制御ってSVの操縦システムと全く同じなんだよ。アキラの求めてる 〔SVの操縦技能に繋がる練習〕 って、ウィズリム対応ゲームをやることだと思わない?」
「……ええっ⁉」
「それと、この前ウィズリムとクロスソードを作ったグリッド・エピックス社が 〔
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