ソード&マシーナリー

天城リョウ

第1章 ボーイ・ミーツ・ガール?

第1節 トライ&エラー

第1話 約束

必殺ひっさぁつ! 屠龍剣とーりゅーけーん‼』


『グワァァァァーッ‼』



 少年の掛け声とともに青い人型ロボットが剣を振りおろすと、龍頭人身──頭は龍で首から下は人の形をしたロボットが両断されて爆発、乗っていた悪者が悲鳴を上げながら空の彼方に飛ばされていった。



『やったぜッ♪』


「「わーっ!」」



 青いロボットの内部で腕を振りあげる少年──テレビに映るその姿を見つめる、小さな男の子と女の子が歓声を上げる。



「きめた!」



 男の子が瞳を輝かせて言った。


 隣の女の子のほうを向き──



「ぼく、おおきくなったらロボットのぱいろっとになる‼」



 女の子は目を丸くした。



「アキちゃん、ほんき? それ、たいへんだよ?」


「うん! だからマキちゃんもいっしょになろ?」


「やだ」



 男の子は早くも泣きそうになった。



「なんで……?」


「ワタシ、ロボットのそーじゅーにはキョーミないもん! それよりじぶんでつくってみたい、このアニメみたいなロボット!」


「うう、いっしょがいい……」


「なかないの! あ~、もう~っ……そうだ! しょうらいワタシがつくったロボットにアキちゃんのせてあげるから!」


「ふぇ……?」


「ワタシがつくって、アキちゃんがうごかす! やくわりはべつでも、パートナー! ワタシたちは、ずっといっしょ! それならいいでしょ?」


「……うん‼」





 それから6年が過ぎた。


 〔アキちゃん〕 と呼ばれていた男の子、あま あきらは現在9歳。生まれた時から住んでいる日本国 東京都 品川区の公立小学校に通う4年生。


 そして人生を決めたあのアニメ 〔しんえいゆうでんアタル〕 の主人公アタルは10歳の小学4年生だった。アキラはとうとう憧れの存在と同じ学年になった。


 そこには特別な感慨がある。


 現代日本人という設定のアタルは4年生のころ異世界へと転移して、聖なる青いロボットを与えられ、その地を脅かす暗黒龍の軍勢と戦う救世主となった。


 だから自分も4年生になったら同じように、異世界に転移してロボットに乗って悪と戦うことになるのでは。長年そんなことを考えていたから。


 異世界なんてあるはずない‼


 そんなことは分かっている‼


 しかし機神英雄伝アタルの放映当時は 〔人が乗って操縦する人型ロボット〕 はフィクションの中だけの存在で、そのパイロットになるなど現実には不可能だったのだ。


 にもかかわらず 〔ロボットに乗りたい〕 と願ってしまった者たちにとって、ロボットのある異世界に転生なり転移なりするのは唯一の方法だった。


 それも不可能には違いないが。


 惹かれてしまうのは仕方ない。


 もっとも、この考えは彼女﹅﹅を怒らせた。



「アンタの乗る機体はワタシが作るって言ったでしょ⁉」


「スミマセン忘れてません疑ってませんゴメンナサイ‼」



 幼馴染の女の子。


 〔マキちゃん〕 こと駒切こまきり まきはあれから脇目も振らずに目標へ向かって邁進している。有人操縦式人型ロボットがまだないのなら自分がそれを実現させると豪語して。


 約束を交わしたあの日の翌日には、3歳から始められる幼児用ロボットプログラミング教室に入ってロボット作りを学びはじめ……そこで驚くべき才能が明らかになった。


 IQ300の天才。


 そう発覚するや蒔絵は独学で学校の勉強を始め、普通の子供が1年かける内容を数ヶ月で修めては次の学年の内容に進むのを繰りかえし、ハイペースで学力を上げていった……だから。


 蒔絵ならいつの日にか﹅﹅﹅﹅﹅﹅必ず実現させる。


 アキラはそれ自体を疑ったことはない。


 ただ天才ではなかったアキラの頭ではそれに何年かかるか予想することもできず、いつになるか分からないその時を待たずとも異世界に行ければすぐ乗れる、などと考えてしまった。


 気の迷いというか、どうせ異世界など存在しないのだから与太話なのだが、それでも蒔絵に知られると 〔約束に反する思想だ〕 と言われてしまったので猛省している。


 それが去年の出来事。


 そして今年に入ってから、この件は意外な結末を迎えた。


 有人ロボットが実現したのだ──蒔絵以外の者によって。


 全高5メートル弱の、有人操縦式人型車両。



 〔スレイヴィークルSLAVEHICLE〕……略称SVエスブイが。



 なんのことはない。アキラと蒔絵が生まれるずっと前から科学者たちはその実現を目指しており、それがとうとう実を結んだ。


 そして残念ながら、蒔絵はその研究に加わってはいなかった。超人的な速度で成長していてもなお、まだそのレベルの学力には達していなかったから……そういうことだった。



「先を越された~ッ‼」



 蒔絵は地団駄を踏んで悔しがった。


 が、しばし暴れるとケロッとした。



「ま、いいわ」


「いいの⁉」


「ワタシの目的は有人ロボットを発明することじゃなくて、アンタの乗る有人ロボットを作ること。ただ有人ロボット自体がまだないっていうから 〔そっからやんなきゃ〕 ってなっただけ」


「マキちゃん……!」


「先輩がたが有人ロボットを実現させてくれたなら手間が省けたわ。ワタシはその技術を全て吸収し、そこにワタシのアイデアを加えて最強のSVを作る! それがアンタの機体よ‼」


「う、うん……!」


「とゆーワケで、ちょっくらアメリカ行ってくるわね!」


「うん……うん⁉ え、どゆこと⁉」


「だーかーらぁー! アメリカにある、ロボット研究で世界最先端の、マサチューセッツ工科大学に留学するって言ってんの!」


「あ、飛び級?」


「そういうこと」



 アメリカの大学の入学条件に年齢制限はない。一定の学力があれば通常の入学年齢の18歳より年少でも入学でき、そうするための制度も整っている。


 蒔絵のような早熟の天才児が飛び級で入学するというのは割と聞く話だ。アキラも蒔絵がそうなる可能性を考えたことはあるが……



「ずっと一緒って言ったのに……」


「メソメソすんな! 志が一緒なら物理的に近くにいる必要なんてないでしょ! SNSで気軽に話せるし! じゃっ、明日あしたにはもう発つから、アンタもがんばんなさいよ?」


「うん……いってらっしゃい‼」



 そうして蒔絵は風のように飛びたっていった。日本に残されたアキラは自らも夢を叶えて約束を果たすため、ロボットのパイロットになるため努力する──気は、あるのだが。



(具体的にどうすれば⁉)



 つい最近まで存在すらしていなかったSVの操縦方法……そんなもの、どうすれば習えるのかアキラには心当たりがなかった。

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