第3話 VR
「ありがとう、
「車に気をつけてなー」
網彦と別れたアキラは全速力で残りの帰り道を駆けぬけた。マンションに飛びこみエレベーターで上昇、帰宅するや母の足もとに土下座する。
「ウィズリム買ってください!」
それから夕方に帰宅した父も交えて3人での家族会議の結果、アキラは無事に希望の品を買ってもらえることになった。
VRコントローラー 〔ウィズリム〕……その専用ゲームソフト 〔クロスロード・メカヴァース〕……そして、それらで遊ぶのに必要なゲームハードとVRゴーグル一式を。
翌日の放課後。
帰宅したアキラは宅配便で届いた包装物を自室で開封、はやる気持ちで準備に取りかかっていった。
ゲームハードをテレビと接続、付属のコントローラーで動作を確認、ユーザー登録などの面倒事を済ませたら、次はいよいよウィズリムを箱から取りだす。
まずは
頭に多くのスイッチやダイヤルがあり、取っ手の前には人差指で引くトリガーのある、戦闘機の操縦桿のようなガングリップ型のジョイスティック。その基部は四角い台座になっている。
これ1つが片手用で、まったく同じ形のものが2つある。左右兼用で、右手用・左手用で形が違ったりはしないとのことだ。
そして
サンダルのような形をしたペダルが、こちらは2つとも同一の基部に左右並んでついている。アキラはまず、その間隔の広さを自分の足に合わせて調整した。
次に……
箱から何本ものパイプと、それらを連結するためのジョイントを取りだし、説明書の手順に従って組みたてていく。
それが終わると、自分が椅子に座った時にその足もとに来るペダルと、軽く前に出した両手がふれる位置に来るスティック、これらをひとつに繋いで固定するスタンドとなった。
「ふぅ……あとちょい!」
部屋の空いたスペースに置いた自前の椅子、その左右前方に柱が立ち、それらの天辺にそれぞれスティックの基部をネジで締めて固定する。
左右の柱の根元から前に伸びたパイプの先端は、床に横向きで置かれたパイプの両端と繋がっている。この横棒にまたネジで、ペダル基部を固定。
最後にスタンドから伸びるコードをゲームハードに挿して──
「完成!」
自室にロボットのコクピットが爆誕した。この感動、他のロボットゲーム用コントローラーでも味わってきたが、何度目でも素晴らしい。
アキラは箱からVRゴーグルを取りだして、それから伸びるケーブルの先端をゲームハードに挿しこみ、椅子に座ってからVRゴーグルを装着──電源を入れた。
「おお……」
両目を塞がれて暗く閉ざされていた世界に光が灯る。ゴーグルの目を覆う部分の内側にあるディスプレイに表示された映像が、アキラの視界いっぱいに広がった。
ホーム画面。その名のとおり誰かの自宅のような簡素な部屋。正面に姿見があり、ピクトグラフのような簡略化された人型のアバターが映っている。
あのアバターが、自分がこの世界で動かす仮そめの体。顔を床に向けるとディスプレイの視界も動き、自分の首から下がピクトグラフになっているのが見えた。
もちろん変身などしていない。
アキラの体は変わっていない。
ただ視界を塞がれ本当の自分の体が見えなくなっている状態で、本当の体がある方向にピクトグラフの体が映っているため、それを自分の体のように錯覚するだけだ。
(これがVR……!)
従来のゲームでは、プレイヤーは離れた位置にある画面の中にいる己の
対してVRだと、自分が画面の中──仮想現実世界──に入りこみ、アバターそのものになったような感覚で操作できる。
その没入感は従来型の比ではない。
そんなVRはアキラが生まれたころにはもう普及していたが、これまでふれる機会がなかった。
VR体験施設にはスティックやペダルで操縦するタイプのロボットゲームもいくつかあり、それらはやりたかったが、その施設で使うVRゴーグルの利用が13歳からとの年齢制限に阻まれた。
これは施設にある二眼式VRゴーグルの、左右の目に別々のレンズから微妙に異なる画像を見せることで疑似的な立体視を生むという仕組みが、発達途上の子供の目には悪影響を与えるため。
まだ9歳のアキラに二眼式は使えない。
今かぶっているのは一眼式のゴーグル。
左右の目で同じレンズの画像を見るため立体視にはならないが、子供でも目を危険にさらすことなく利用できる。
『ようこそ、仮想空間へ』
その一眼式VRゴーグルに内蔵されたスピーカーから響く、女性の声。画面内に女性の姿はなく、音声のみ。自動再生されている、案内人によるナビゲーションだ。
『チュートリアルを開始します』
「はいっ」
『まず、ペダルに足を固定してください』
「あ、そっか」
アキラはいったんゴーグルを外し、足もとに見えるサンダル型ペダルに左右の足を突っこみ、バンドを締めて固定した。
『次に、スティックを握ってください』
ゴーグルをかぶりなおすと視界が再び仮想現実になり、現実のほうに存在するスティックは見えなくなったが、アキラは手探りで見つけて左右それぞれを握った。
『それではアバターの右腕を動かしてみましょう』
こんな 〔ロボットじゃないアバター〕 をロボットの操縦装置で動かすなんて。そこに反感があるからアキラはウィズリムを敬遠していたのだが、今はそれをグッと飲みこむ。
『右のスティックを好きなように動かしてください』
「好きな? ように……おおっ!」
アキラが取りあえず右スティックを前に押しだしてみると、アバターの右腕が前に差しだされるように動きだした。
さらにスティックを前後左右上下に動かし、また倒したりひねったりしている内に、まるで自分の右腕とアバターの右腕が繋がったような感触になり、だんだんイメージどおりに動かせるようになってくる。
次に左スティックで左腕を……
右ペダルで右脚を……
左ペダルで左脚を……
アバターの四肢が、アキラの手足と一体になった。
「す、すごい!」
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