第125話 密約
「あれが今の同好会の方針。ですから今はまだ公の場で謝罪することはできません。ですが秘密を共有するセイネさんと……アキラさん、には。この場で謝らせてください」
そう言うとミーシャは頭を下げた。
「嫌な想いをさせて、申しわけありませんでした。せめてもの罪滅ぼしに、わたくしも互いの会員同士が和解できるようセイネさんの計画に協力を惜しみません。そして、それが成った暁には公にも謝罪することをお約束します」
「はい。その時にはわたしも、研究会代表として会員の非礼を、それを看過してしまったことを公に謝罪するとお約束します」
セイネがすかさず答える。
アキラは、自分もミーシャの謝罪対象に入っていたのでなにか返事をと思ったが、セイネが話しているのに割りこむ形になるのもマズいので、ミーシャのほうを見て軽く一礼するに留めた。
ミーシャの協力も得られたことだし、この密談もそろそろ終わりだろうか。アキラはそう思ったが、まだ終わらなかった。
セイネが続ける。
「ありがとうございます。ミーシャさんにとってもおつらいことを話していただいて。今のお話を聞いていなかったら、わたしは同好会のみなさんの苦しみを理解しないままで、和解も上辺だけのものとなってしまっていたでしょう」
「いえ、そんな──」
「だからこそ、わたしも全てをお話します。この計画を立てた理由、研究会と同好会を和解させたい本当の理由を」
「本当の理由、ですか……?」
(そっか、あの話がまだだった)
「その理由がなければ、わたしも八百長を仕組んでまで両者の対立を収めようとは思いませんでした。なるようになればいいと……でも、そういうわけにはいかなかったんです」
「分かりました。お聞かせください」
「この両者の、大勢のプレイヤー同士の感情的対立を丸く収めることができなければ、このクロスロード・メカヴァースそのものがサービス終了に追いやられる。その危険があると、わたしは考えています」
¶
セイネは結論を述べてから、その理由を説明していった。
アキラも昨日、作戦会議で聞いた内容を。
研究会と同好会がなんの仕込みもなく普通に決闘し、どちらかが勝てば(研究会が勝つのは難しいが今それは置いておいて)、負けて悔しい想いをしたほうからは
また、それとは別に多くのプレイヤー同士がいがみあっているこの状況自体を嫌ってクロスロードを辞めようと考える者たちも少なからず出る。
そうした離反を食いとめられないと、元からプレイヤー数の少ないクロスロードでは運営会社がこれ以上サービスを続けられなくなる致命傷になりかねない。
決闘を楽しい見世物にするのも。
感動的な和解劇を仕組むのも。
全てはサービス終了という 〔この世の終わり〕 を回避するため──と、セイネからひととおり聞かされたミーシャは両腕で自分の体を抱いて、震えた。
「わたくしのせいで、そんな……!」
セイネはソファーから立ちあがり、スカイリムジンの最後部に座るミーシャの前にひざまずいて、彼女の手を取った。
「セイネ、さん」
「落ちついて。そこまで気に病まれないでください。本当にサービス終了するとしても、それは色んな要因が重なってのこと。誰か1人のせいじゃないんです。ただ、全体としてそういう流れになってしまっているだけで」
「ですが、そういう流れにしてしまったのは、わたくし……」
「否定はしません。でも、それはわたしも同罪です。だから一緒に罪滅ぼしを──なんて気負っても、2人して潰れちゃうだけですよ。どの道サービス終了させたくないなら計画を成功させるしかないんですから、それだけを考えましょう?」
「……はい。ありがとうございます、お気遣いいただいて」
ミーシャの声が、少し落ちついた。
横で見ているアキラもホッとした。
「でも、なぜ初めからそのことを仰らなかったんですの?」
「恐ろしい結末を突きつけて 〔それが嫌ならこちらの言うとおりに動け〕 なんて脅迫じゃないですか。無理やり従わせては不満をいだかせ、いつ裏切られるか分かりません。わたしは信頼できる共犯者が欲しかったんです」
「……確かに、本当にすべきことだとしても強制されては気分がいいはずありませんものね」
「だから初めは話すつもりはありませんでした。そして、話さなくてもミーシャさんは協力を約束してくれた。内面的なお話までしてくれた。だから話す気になったんです」
「分かりました。話してくださって、ありがとうございます」
ミーシャはセイネの手を握りかえした。
「先ほど協力すると誓った言葉に嘘はありません。ただ、それでも同好会の最優先目標は空中騎馬戦の有用性を示して会の消滅を防ぐこと。和解が成らずとも同好会が勝利すれば、それは成るという認識でいたのも事実です。ですが、このゲームが終わってしまってもは元も子もありません。なんとしても和解を成立させ、サービス終了を防ぎましょう!」
「はいっ!」
¶
空中格闘研究会・代表セイネが、空中騎馬戦同好会・代表ミーシャと密談して持ちかけた、両会の対立を解消するためトップ同士が裏で手を組むための交渉は、セイネの申し出をミーシャが全て受けいれたことで完璧な成功に終わった。
従わせたのではなく心からの協力を取りつけたことで両者の協力関係も強固となり、解散した時の空気も明るかった。これ以上ない、良い結果だったと言える。
が。
人々を和解ムードに染める仕込みをする肝心の決闘で、心を打つ熱い闘いを演じるためには、研究会側の選手に同好会側の選手と同等の実力が要求される。
現状では同好会側の実力は研究会側を圧倒しているが、同好会員たちは互いの実力を知っているので手加減すれば八百長がバレる。だから研究会側が相手と互角になるまで強くなるしかない。
ミーシャは協力すると言ってくれたものの、この状況でなにができるのかアキラには疑問だった──が、その答えはすぐに知ることになった。
決闘の実施は2週間後。
それまでに研究会側で計画を知る6人は、空中格闘戦で空中騎馬戦を倒すための特訓に入る。その練習相手として、同好会側の共犯者である3人が協力してくれるということだった。
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