第157話 重圧
「「「「お疲れさまです‼」」」」
試合を終えて空中格闘研究会の選手控室に戻ってきた
「わりぃ、負けっちまった」
「謝ることないですよ! 観客を試合内容で沸かせて、試合後には相手選手と認めあう姿で感動させて、最後まで 〔計画〕 どおり、完璧じゃないですか! ──だよね? セイネ」
「ええ」
アキラの言葉にセイネも頷く。〔計画〕 の立案者がこう言うのだからなにも問題はない。そのはずだったが、オルはまだ浮かない様子だった。
「でもよ、これで1勝2敗だろ?」
「え? ええ……それがなにか?」
アキラにはオルがなにを気にしているのか分からなかった。
接戦を見せることで観客を熱くさせるという 〔計画〕 上の目論見は個々の試合内容のみならず勝敗の数もなるべく互角なほうが望ましいという話は覚えている。
今は3試合目を終えたところ。
引き分けがまず起こらない仕様なのだから、勝利数が 〔2:1〕 で等しくならないのは仕方がない。
次の副将戦で自分が負けたら1勝3敗で差が開いて劣勢ムードになるが、それも最後の大将戦でセイネが勝てば2勝3敗とほぼ互角の勝利数で団体戦を終えられる。
現時点でオルが気に病む要因など──
「次、オメーが負けたらチームの負けが決まっちまうだろ」
「えっ……?」
「おっ、オルさん……!」
なにやら慌てた様子のセイネを横目に、アキラはオルの言葉の意味を考えた。この団体戦は5回の試合を行い、勝利数の多いほうがチームとしての勝利を得る。
5の過半数で最小の整数は3。
つまり先に3勝したほうがその時点でチームとしての勝利を手にし、相手チームが敗北することが決定する。
そして先ほど考えたとおり、次に自分が負ければ1勝3敗だ。確かにオルの言うとおり、そうなればチームが負ける。
だが──
「チームの勝敗は 〔計画〕 ではどうでもいいんじゃ」
「そっ、そうよ⁉ だから──」
「でもよ、チームの勝敗がもう決まってる状態で大将戦をやるのと、2勝2敗でチームの勝敗も大将戦で決まるのとじゃ、後者のほうが盛りあがるだろ、絶対」
「それはまぁ」
今回の決闘の
チームの勝敗が決まったあとの試合は当然、チームの勝敗には関係しない試合ということになり、チームの勝敗がかかった試合より緊迫感が薄れるのはさけられない。
つまり……
「〔計画〕 としては大将戦は2勝2敗の状態でやるのが最も観客を熱くできて望ましい。そうするためには次の副将戦は負けられねぇ。オレが負けたせいでオメーに余計なプレッシャーをかけることになっちまった。だから、すまねぇ」
「……あーッ⁉」
状況を理解し、アキラは愕然となった。
するとセイネが珍しくオルに怒鳴った。
「オルさん! 言わなければアキラ気づいてなかったのに‼」
「なぬッ⁉ ぐああ、すまねぇ! やっちまった‼」
「もーッ‼」
セイネが怒っている理由を、セイネがオルの発言をとめようとしていた理由を、アキラはようやく理解した。自分を気遣ってくれていたのだ。この親友は本当に、ありがたい。
「いいよ、セイネ。気にしないで」
「アキラ……でも」
「ボクなら大丈夫だから。オルさんも、気にしないでください」
「め、面目ねぇ……本当に大丈夫か?」
「はい。もともと、あのサラさん相手に余計なこと考えてる余裕なんてないですし。オルさんとセイネが気遣ってくれたのが嬉しい気持ちのほうが大きいですから」
「お、おめぇって奴は……!」
「アキラ……!」
オルとセイネは感極まった様子で震えた。
「その意気だよ、アキラ」
「さすが、わたしたちの子ね!」
「お父さん、お母さん。うん、ありがとう」
緊張をほぐすように、こちらの肩に手を置いてくれた両親にはバレているのかもしれない。オルとセイネが気にしないよう、ああは言ったが──
本当はちっとも大丈夫ではない‼
この決闘を通じて空中格闘研究会と空中騎馬戦同好会のいがみあっている人たちを和解させられなければ
そうなれば 〔実機のロボットのパイロットになる〕 という自らの夢のため、このゲームを通じてロボットの操縦技術を磨いている自分の歩みも大きく足止めを食らう。
進学先への受験と同じくらいの一大事。
そして幼稚園への入園児にも小学校への入学時にも受験はしなかったアキラにとっては、そのような将来に関わる重大な試練は今回が初めて。
その上、両会を和解させる 〔計画〕 のためには自分は、これまで一度も対等に闘えたことのないサラと次の副将戦で互角の勝負をしなければならない。
これだけでもう限界までプレッシャーを受けていたところに、さらに 〔負ければ計画の成功率が落ちる〕 などと追いうちを食らい、アキラは胃がキリキリと痛んだ。
(に、逃げたい……!)
なにもかも投げだして……だが、そんなことできるはずがない。親友を、両親を、仲間たちを裏切って、そんな負い目をこの先ずっとかかえていくなんて、そっちのほうが耐えられない。
それに。
自分の人生が左右される事態に傍観者でいたくないと、アキラは自らこの件に首を突っこんだ。当事者となり、自ら道を切りひらくことを望んだ。
それはロボットを 〔操る側〕 になるという夢が自分にとってなにより大事なことだから。それが叶った時に自分が乗るロボットを 〔作る側〕 になると志してくれた、一番大好きな人との絆だから。
ここで闘えないようでは。
自分に生きる意味はない。
そう自分に言いきかせれば、体の奥からぐつぐつと闘志が湧いてくる……まぁ、それでも怖いものは怖いのだが、それに負けないよう支えてくれる。
周りに聞こえぬよう、そっと深呼吸。
その時、部屋のスピーカーが鳴った。
『第4試合を始める! 空中格闘研究会・副将、アキラ選手! 空中騎馬戦同好会・副将、サラリィ選手!
「よしっ……じゃあ、いってきます‼」
「「いってらっしゃい!」」
「しっかりな、坊主」
「気負わずにね、アキラ!」
両親、オル、そしてセイネ。仲間たちに見送られ、アキラは控室を出て、長い廊下を抜けて、
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