第134話 今やるべきこと
「私立探偵ぃ?」
橋本の家に行った翌日、俺は情報をすり合わせるために桜と屋上で落ち合っていた。桜も独自で動いていたことは知っていたので、橋本から得た情報の共有を兼ね桜の得た情報について聞いたところ思わぬ情報が飛び込んできたのでそう呟いてしまった。
どうやら三浦は高校生ながら私立探偵として働いていたらしい。
「一応アルバイトという身分みたいですが、やってることは本業のそれとなんら変わらないみたいです」
高校生が探偵のアルバイトなんてできるのだろうか。気になってスマホで調べてみたが、一応法律上は可能らしい。しかし就労上の条件がかなり厳しく高校生が行うにはあまり現実的ではない。これならそこら辺のコンビニで数時間働いた方が安定して稼ぐことができる。
「……大層なことだ」
元副生徒会長やサッカー部のエースという称号に加え、新たに探偵と言う称号まで獲得した三浦。もはや小説や漫画で出てくる主人公みたいだ。きっと時間に追われるような高校生活を送っていることだろう。普通の学校生活に加え探偵のアルバイトなんて、まともな高校生がこなせる芸当じゃない。
金が必要だったのか、それとも面白半分でやっていたのか。あんな人間に正義感があるとは思えないし、あまりにも不自然だ。
「どうやらその探偵事務所は、うちの理事長が学校の運営で不正を働いているという情報を数年前から独自で調べていたみたいです。しかもその探偵事務所の所長、どうやら三浦先輩の叔父にあたる人物らしくて」
「……それで、甥っ子を使って学校の内部事情を探らせていたのか」
「副生徒会長に就任したのも、学校の内部事情を通常の生徒より深く知ることができるからだそうです」
「サッカー部に所属してエースとして目覚ましい活躍をしていたのは、日常生活に溶け込み生徒から信頼を得るため、か」
「あるいは、単なる息抜きだった可能性もありますね」
何にせよ、三浦に関する謎がようやく解けた。きっと三浦……いや、彼を雇っている探偵事務所は俺よりも理事長らについて多くの情報を掴んでいるに違いない。それにしても、そのような組織まで動いていたとは驚きだ。どうやら彼らのことを貶めようとしているのは何も俺だけではないらしい。
当初は俺のみで情報収集を行い近々仕掛けるつもりであったが、それなら話は変わって来る。少し脅したらペラペラと本当のことを喋ったあたり奴に全てを隠す気はないのかもしれない。うまいこと立ち回れば、想定よりも有利に事を進められるかもしれない。
「それよりも、そちらの話の続きです。橋本さんに会ったって。一体どうやって……」
「かすかな伝手を辿っただけだ。それ自体に、大した意味はない」
「では、なぜ?」
「それくらい、自分で考えろ」
「むっ」
突き放すような俺の言い方に桜は少しムッとした。だが、最初から答えを求めるのではなくある程度推測してから探り合うような交渉術を身に着けてほしい。社会に出たらそれができる人間が上に立っていく。まっ、俺にもうとやかく言える資格はないんだろうけど。願わくば最後の忠告として向き合ってほしいものだ。
(理由は大きく分けて二つ)
桜には語らないが、きちんと今回の行動には理由がある。
まず、信也がどのような形で橋本と関わっていたのか知りたかった。数年前俺に行ったような手口と似たようなことをしたのか、はたまた全く違うアプローチをしたのか。それにより信也の危険度を改めて明確に図り対策を立てるためだ。
彼女の話を信じるとするならば、睡眠薬を使用するというより犯罪的な行為に手を染めていた。その時点で危険度はぐんと上がる。それに加えて昔よりも社交的になっている印象があった。そのため、俺にも予想できない行動をしてくることが十分にあり得る。
いよいよ、昔の知識が役に立たなくなってきた。
そしてもう一つはかなり個人的な理由。
(俺と同じ境遇にあった奴を、客観的に見てみたかった)
先日尋ねた橋本はまさしく俺と同じように追い詰められ。知らぬ間に居場所を奪われていた。ある意味俺以上にひどいかもしれないが、彼女は何とか自分を保っているようだった。きっと家族が賢明に支えていたからだろう。あの当時の俺には、滅多に帰ってこない実の母親しか家族と呼べる人物はいなかった。
自分のことを愛してくれる家族がいたかいなかったか。俺と橋本の差はそれだけだ。
しかし、橋本が最後に立ち直れるかどうか。それは彼女自身の問題だ。
「俺はもう行く。必要な情報はすべて揃った」
「彼方、次は何をしようとしているんですか?」
「……」
ここまでずっと、俺は情報収集などを行い自ら積極的に行動に出ることはなかった。だが、今日でそれも終わりだ。欲しかった情報、必要なピース、それらがすべて揃った今これ以上待つ必要はない。
だから……
「清算」
過去と現在、すべての因縁に決着をつける。そうしなければ、俺は本当の意味で前に進むことができないのだから……
桜視点
背を向けながら彼方は屋上から去った。いつかのように自信に満ち溢れるような後ろ姿を見せる彼方を見て、私はこれから自分がどうするべきなのか分からなくなっていた。きっと彼と私とでは、見ている景色が違う。
「昔の私なら、何も言わずに彼について行ったんでしょうね」
そして自分なりに、彼方のことを手伝っていただろう。褒めてもらうためでも自分の為でもなく、ただ固定観念としてそれが当たり前だったから。
「止める理由はありません。むしろ彼方が全てをやってくれるなら、今抱えている問題がすべて解決する」
だから私が今すべきことは、やはり彼のサポート。だが、なぜか昔みたいに後ろをついて行けない。時の流れのせいか。それとも、これから彼方がやろうとしていることがこれまでにないくらい酷いことだと思ってしまうからだろうか。
今までは大義にもとに行動していた。だが今からやろうとしているのは明確な復讐だ。
「本当は、そんなことしてほしくない」
これ以上、彼に苦しんでほしくない。
「……けれど、目的を達成するためには避けては通れない道」
だったら、これから彼が被るであろう苦しみを一緒に背負うしかない。今まで出来なかった分、これからの分を。
「それなら、決めた」
私はこれからやるべきことを決める。そして携帯電話を取り出し、あまり多くない友人の一人へと声を掛けるのであった。
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