第135話 チームアップ(?)


 決意と覚悟を胸に秘めた翌日。今日から本格的に行動に移ろうと思っていたのだが、思いもよらない人物から声をかけられてしまった。無視しようかと思ったが、渦中にいる人物の一人なので気乗りしないが俺はその人物が待っているというファミレスへと足を運んでいた。



「……なんか、余計な奴が混ざってるな」



 俺がファミレスに入ってその人物を探すと、奥のテーブルに座ってコーラを飲んでいるのが目に入った。だが聞いていた話とは違い向かいの席には想定していなかった同席者がいる。俺が近づくと、その二人は対照的な反応を見せてきた。



「……ちっ、遅ぇんだよ」


「あ、こっちだよ。ドリンクバーはもう注文済みだから、先にドリンク取ってきていいよ」



 億劫そうにストローに口をつけ文句を言う翡翠と、爽やかな笑みを浮かべ俺のことを手招きする三浦がいた。三浦に関しては、桜がいろいろと探っていた手前、もう顔を合わせることはないのではと勝手に思っていたが、本人的にはそうでもなかったらしい。


 長居するつもりはなかったので、俺はドリンクバーに足を運ぶこともなくそのまま三浦の隣に座った。隣に座るのが不安になるくらい信頼度が低くなりつつある三浦だが、翡翠の隣に座って噛みつかれるよりはましだと判断する。



「おーい、ドリンクバーに400円出してるんだぞー?」


「なら、バイト代から捻出してください」



 俺はドリンクバーを頼んだ覚えはないのでその誘いを無視。傍から見れば嫌な奴だろうが、この中に根っこからの良い奴が存在しないので特に罪悪感はない。



「ふーん、やっぱり知ってるんだ」



 そう言って三浦は少しつまらなさそうに持ってきていたドリンクを口にする。グラスの半分ほどを一気に飲み切って、頬杖をつきながら俺の方を向いて来た。



「意外だったよ。まさか君が桜ちゃんとも繋がってたなんて」


「どこかの誰かさんより、信用に足ると判断したからじゃないか?」


「まさか。俺からしてみれば君は信用とは真逆の存在だと思ってるんだけど」



 何がおかしいのか、三浦はケラケラと笑うように俺のことを見てくる。そして向かいでは相変わらず不機嫌そうに俺たちのことを睨みつける翡翠。なんだか人気者になった気分だが、不快感しかないのはきっと気のせいではないだろう。



「あーあ、最初は使えると思ったんだけどな。君が信也と繫がりがあって相当高いポテンシャルを持っていることを知った時、ちょっと発破をかければ都合よく動くと思ってさ」


「それが俺に近づいた理由か?」


「それもあるけど、やっぱ印象に残ってるのは遥さんの弟ってところかな。なんやかんやで俺もお世話になったし、弟が同じ学校に入学してるって知って驚いた」



 そして迫りくる信也の転校や体育祭での一件に焦り、俺に中途半端な情報を与え推測と行動を起こすように促したのだろう。まんまと俺はそれに乗せられてしまったわけだが、甘いのはそちらも同じ。



「そういや前、あんたは妹がいるって言ってたが、あれも結局嘘だったらしいな」


「まあね。それっぽい嘘をつけば信憑性が増すと思って。でも、今思えば違和感しかないよなーあの話」



 確かにあの話は突拍子もなかった気がする。いや、それ以前にどこかで綻びが生じていたのだろう。優秀なのはこの男がアルバイトで働いている組織であり、決して三浦個人がこの手のやり取りに秀でているという訳ではない。なにより、人を騙すのに向いているような性格ではないことがこれまでのやり取りで感じられた。



「で、そろそろ本題に入れ。何の用だ?」



 俺は三浦との話を切り上げ、こちらを睨みつけてくる翡翠の方へと目を向けた。俺を呼びつけたのは他でもないこいつだ。仮に俺に話があったとして、どうしてそこに三浦を絡めてきたのかが理解できない。



「話が長ぇんだよ……ったく。逆にお前は姉貴から何も聞いてねぇんだな」


「雪花から?」



 雪花は確かに学校であったが、特に特別なやり取りをした覚えはない。強いて言えば最近余ったお菓子をぶっきらぼうにもらうことがあるが、それくらいだ。



「昨日、姉貴が生徒会長とチャットで連絡をしてたらしい」


「へぇ、あの二人そんな仲になってたのか」


「茶化すなコラ。それで、俺にもそのやり取りのスクショを転送して、頼んできたんだ」



 翡翠は俺たちにスマホの画面を見せる。そこには雪花がスクショし翡翠に送ったのだろう、桜とのやり取りが記されていた。



————

『そういう訳で、婚約の件はどうなっていますか?』


雪花瑠璃

『少し進捗があった。うちで親同士が親睦会みたいなことをするって』


『えっ、そうなんですか!?』


雪花瑠璃

『私は出席するけど、向こうの信なんとか君は来ないって』


『なるほど。私では少し介入しにくいですね』


雪花瑠璃

『じゃあ私の弟貸すから、さっき面倒くさいって言ってた二人と合わせて特攻させて』


『Q(≧▽≦q)』


————




 ……なんだこの地獄みたいなやり取りは。桜の返信が顔文字になっていることを含め、果てしなく嫌な予感を漂わせる文面に思わず顔をしかめた。



「おい、この『面倒くさいって言ってた二人』っていうのは……」


「どう考えてもてめぇらのことだろうが」



 そうだろうなと思いつつ、桜と三浦のやり取りが雪花へと共有されていた点について俺は素直に驚いていた。どうやら桜は雪花のことを信用に値すると判断したらしい。あいつがこの短期間で雪花みたいな捻くれたやつとこのような交友を図るようになるとは。



(そして桜は、俺と三浦と一括りにして面倒くさいと)



 それに関しては素直にショックを受けたのでいつか絶対報復をすると誓いつつ、俺は隣の三浦を見る。すると三浦も多少なりは驚いてはいたのか、顎に手を当て文面について考えているようだった。



「それで、てめぇらに声かけたってわけだ」



 声を掛けるにあたり、翡翠はこのチームアップ(?)に乗り気の様子。恐らく翡翠の方も姉の婚約を解消したいと切羽詰まっているのだろう。身内だからこそ、逆に動きづらいことがある。本来はもっと早い段階で外部に頼るべきだったのだ。



「特攻って書いてあるが、具体的に何をするんだ?」


「俺が知るかよ、あぁ!?」


「計画性も何もないな」



 その計画を今から立てるのだろう。俺は正直迷っている。一人で理事長たちと争うことを考えていたが、この二人は貴重な人材だ。武力と情報、その二つが同時に手に入る。これほど俺にとって都合のいい駒はない。


 だが、三浦の出方によってはこの計算もなかったことに……



「うん、思いついた」



 そう言って三浦は再び手元に置いていたドリンクに口をつける。そうして俺と翡翠に目配せをして声を抑えめにして話をつづけた。



「俺たち……ああ、俺たちって言うのは俺が働いているバイト先のことね。実は近々、理事長たちに仕掛けようって話になってたんだ」


「仕掛ける?」


「マスコミと手を組んで、今までの悪事の証拠を突きつけたうえで本人に突撃する計画があるんだ。あっ、言うまでもなくこれ機密情報だから」



 君たちだから話したんだと釘を刺すようにして言ってくる三浦。とにかく何を言いたいかというと、三浦は理事長の弱みを証拠付きで握っているという訳か。理事長は狡猾な性格をしており自身が加担した悪事にほとんど証拠は残していない。そのため俺も手を焼いていたのだが、どうやらそれが一気に解決しそうだ。



「確認だけど、俺の目的は悪事を世間に公表すること。そして彼方くんの目的は復讐で、翡翠くんの目的は姉の婚約解消」



 俺と翡翠はそうだと首を縦に振って肯定する。そしてそれを確認すると三浦はニヤリと笑って……



「それを同時にやろう。理事長本人の目の前で」











——あとがき——


お知らせ


長い間執筆を続けたこちらの作品ですが、あと10話で本編完結予定となりました。

就活やアルバイト、果てにはWebページやアプリの製作でなかなか時間が取れていませんでしたが、きちんと完結まで栞を持っていきます。


皆様、もう少々お付き合いください。

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