助けたはずの女の子たちに嫌われている俺、一人で生きることを決める ~でもおかしいな、あの時キミを救ったのは僕ですけど~
在原ナオ
第1章 悪意のプレリュード
第1話 僕と俺
無知とは何よりも許しがたい罪だ
羨望の目は嫉妬や軽蔑の目に移り変わり、全ての居場所を奪われた運命の日。
僕はただ、誰かの役に立ちたかっただけなんだ。
僕は根っからのおばあちゃん子だった。病気一つなく最後の日まで元気だったおばあちゃん。母子家庭ということもあり僕はおばあちゃんの家に預けられることが多かった。小学校に入る前におばあちゃんは死んでしまったがその言葉は一言一句覚えている。
情けは人の為ならず
おばあちゃんが口癖のように言っていた言葉。人に施した行いは巡り巡り良い意味で自分に還ってくるという日本の言葉だ。
僕はその言葉を信条に、小学校に入ったころには正義のヒーローのようになっていた。悪を挫き、弱きを助ける。もちろん煙たがられることもあったし大変だったがあれが僕にとって最も充実していた日々だった。
途中で仲間ができたり、そこそこの不祥事を暴いたりと幼いながらも成果を上げていた僕たち。だがそれはいきなりの決裂を迎える。
かつての仲間たちは僕を指さして敵扱いし、かつて助けたはずの皆も僕のことを恐れる瞳で見ていた。
何度も反論した。何度も訴えた。だが彼らは俺の言葉を聞き入れなかった。そしてそれから僕を貶めるためのいじめが始まった。
結局のところ、これは僕の自己満足だったのだ。
僕はすぐに折れてしまい中学校生活の半分を自宅で過ごすことになる。いわゆる不登校というやつだ。母は僕に理由を聞くこともせず、中学校生活を自宅で過ごすことを許した。きっと母なりの気遣いだったのだろう。
『ヒーローにも休息は必要なのよ』
かつての母の言葉。その言葉は弱っていた僕の心に染み入ると同時に何か違和感のようなものを与えた。
ヒーローって・・・なんだ?
僕は別にヒーローになりたかったわけじゃない。ただ誰かの助けになれていればよかったのだ。だがそれも、ただの自己満足だと悟ってしまった。
結局、今までの行いはすべて無駄だった。
「ヒーローは・・・もういない」
少なくとも僕はヒーローになれなかった。それならば、僕を救ってくれるヒーローはどこにいる? もし存在しないというならば、それは理不尽極まりないだろう。僕に、この世界はあまりにも厳しすぎる。
だが無情にも過ぎ去っていく中学校時代。僕を部屋から連れ出してくれるヒーローはとうとう現れなかった。それはヒーローなんてこの世にいないと確信した瞬間だった。
そして中学三年生になったころ、さすがに業を煮やしたのか担任の先生から鬼のように電話がかかってきた。何でも進路希望調査をしているのだとか。僕みたいに不登校の生徒は学校に何名かいたが、それでも唯一調査書を提出していなかったのは僕だけだったそうだ。
さすがに勉強は欠かさなかったが、何のために勉強しているのかわからない暗黒の日々が続いていた。まあそれでも、そこら辺の高校ならば模試でSランク判定をもらえるだろう。
だから僕は偏差値が一番高い高校を選択し、あっさりと合格をもらった。僕の中学校の人たちは頭が弱い。きっとここなら誰も来ないだろうと思ってのことだった。あの日地獄の日以来、僕が部屋から出たのはその日のみで、結局僕は卒業式になっても中学校どころか外に赴くことはなかった。
「何がいけなかったんだろう」
高校進学を目前に控えた僕はそんなことを考えるようになっていた。今まで立ち直れずにいた少年だったが、ほんの少しだけ大人へと近づいていたのだ。
加えて、そのころの家庭環境は複雑になっていた。
なんと、母が再婚を決めたのだ。相手は研究機関に勤める優しそうな男で、僕と年の近い娘さんがいるそうだ。母はほかに愛を注ぐ人間が増え、義理の娘ができてからというものまるで僕のことを忘れているように笑うようになった。それどころか、僕の扱いが日に日に雑になっていく。
そんな日々が始まる寸前、母に言われた言葉。
「あ、そうだ彼方。アンタの苗字が変わるから、今のうちに覚えておきなさい」
俺は突然、名前が変わった。今まで使い慣れた橘が旧姓となり、椎名という苗字をもらった。つまりこれからは
(僕も・・・変わるべきなのかもしれない)
そうして僕は今までの甘さをすべて捨てることを決めた。
もう目の前で困っている人がいても手を差し伸べない。
自分以外の誰かのために動かない。
自分の為だけに生きる。
優しかった母もまるで息子のことを忘れるように新しい家族に愛を注いでいた。この家庭に、自分という存在は邪魔だろう。
もう優しかった
これからは自分を愛し、自分の世界を脅かそうとするものを全力で排除しよう。
そう心に誓い、久しぶりに家を出る。今日は入学式の日だ。
強く、そして誇り高く。
だから
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