第2話 厄介な委員長
一之瀬高校。俺が通っている高校の名前で県内ではトップクラスの偏差値を誇るバリバリの進学校だ。某東〇大学など、様々な有名大学への進学実績を持っており学業において一切の手抜きをしないと地元でも有名だ。
さて、ある意味最低の道を選んだ俺だが、この学校に通い始めてすでに一年が経過してしまった。とりあえず近況でも振り返ってみようと思う。
入学当初はまだよかったのだ。適度に話しかけてくれるクラスメイトもいたしグループワークで半強制的に会話をすることになるなど俺の交友関係は自然に広がっていくのだと思っていた。
ただ、色々な生徒と関りを持とうとするたびに俺の中で僕が囁くのだ。
『また、裏切られるよ』
気が付いた時には、俺は誰かと関りを持つことをやめていた。というより、もともと不気味がられていたのだ。
中学校の時は正義の味方として身だしなみにもこだわっていた俺だが、不登校の期間もあって髪型は適当。というか目元まで髪が伸びており幽霊みたいになっていた。運動する機会も減ったから筋力も衰えてしまった。
最初は興味本位で話しかけてくれた人たちも気づけば他に友人を作って俺と関わるのをやめていた。というより、あからさまに俺を避けるようになっていた。
だが、俺はそれでいい。
俺は一人で生きていくと決めたのだ。社会に出てからの仕事仲間ならまだしも、友情などという目に見えないものを妄信する学生など友達に持ちたくない。というか、もう友達などいらない。
部活にも所属せず適当に勉強をこなしていたら、案外あっさりと一年が過ぎてしまった。担任は少し心配してくれていたが、これこそ俺が生きていくと決めた道だ。もう誰にも、俺の人生を左右されてなるものか。
(わるいな婆ちゃん。俺は、もう好き勝手に生きさせてもらうよ)
かつては偉大に見えた祖母の姿も、今やよく思い出せない。もし俺が天国に行っても、婆ちゃんに謝ろうとは思わないだろう。というか、もう会いたいとも思わない。
こうして高校二年生になった俺は、新しいクラスへと向かうのだった。
※
「おはよー!」
「これからよろしくね」
俺が教室につく頃にはすでに多くの生徒が登校していた。この学校では二年次にクラス替えがあり今日はその発表日だった。
当日に発表するのはどうかと思うが、これもコミュニケーション促進のために作られたこの学校独自の制度らしい。まあ、誰とも喋る気がない俺には関係のない制度だが。
「?」
ふと、誰かの視線が俺に突き刺さる。あの地獄の日を経験して以降、俺は誰かの視線に敏感になっていた。どのような感情が込められているかはわからないが、なんとなく見られているなとわかるのだ。
だがおかしい。俺は影を薄くして誰にも見られていない状況で教室に入ったぞ。周囲を見渡しても俺のことを気にしているクラスメイトなどいない。
探るように周囲を見渡すと……ああ、いた。
「……」
ショートカットでつり目の女が睨むように俺のことを見ていた。なんだ、俺はこの学校で恨まれるようなことは何もしていないぞ?
彼女は俺の方へと歩いてきたが、それより先に新しい担任が教室に到着する。すると近づいてきていた彼女はため息をつきながら俺とは離れた席に渋々座っていた。
(なんだ……あいつ)
少なくとも見覚えがないしこの学校で話した覚えもない。ただ……
(俺の平穏を邪魔するなら……容赦はしない)
ようやく手に入れた静かな日常があの女によって奪われるなら、俺は正々堂々と抵抗しよう。それが、俺の
俺が自らの覚悟を再確認していると、教壇に立った先生が喋りだす。
「はーい、私が今日から君たちの担任になった
七宮先生の言う通り、俺は七宮先生の数学の授業を受けていた。彼女の教え方はかなりわかりやすかったが、一部では面倒くさがりで有名だ。それでも、生徒一人一人の名前を憶えているらしく、無駄なところに努力を回す先生として一目置かれている。また大人らしい見た目から多くの男子生徒に人気の先生だ。現に近くの席に座る男子生徒たちも机の下でガッツポーズをしていた。
「それじゃ、早速だけどこのクラスの委員長をきめようと思いまーす。だれか、立候補してくれる子はいるかなー?」
ホワホワした口調でクラスの代表をきめようとする七宮先生。
(クラス委員長……か)
懐かしい。俺も中学校時代、誰もやりたがらなかったこの役職に積極的に立候補した。クラスの皆の役に立つならと、本気でそう思い込んでいたのだ。
まあ、あれはただの雑用係だったが。
(そんな呼びかけで立候補するバカ、いるわけが……)
「はい! 私がやります!」
いた。
よく見れば先ほど俺のことを睨んでいた女だ。
七宮先生もこんなに早く決まるとは思っていなかったのか、ワオと呟き目を見開いていた。だがすぐに優しい笑顔に戻り先ほどの女子生徒を教壇の前に手招きする。
「活発な子が立候補してくれたねー。それじゃ、みんなに自己紹介してほしいかな」
そう言われた女子生徒は、堂々とした歩みで教壇の前に立つ。先ほどの訝しむような表情ではなく、太陽のような笑顔だった。
「私は
典型的なフレーズ通りの言葉だ。特に目を見張るものはないと判断し俺が外の景色を眺めようとしたその時だった。
「みんな、私は……ここに宣言するわ!」
先ほどとは打って変わって大きな声量を出した如月は先生や俺含め全員の視線を引き付けた。先ほどの太陽のような笑顔から一変、不敵で勝ち気な笑みを浮かべている。
「私がクラス委員長になったからには、皆さんに退屈な学校生活なんてさせない。これから二年間同じクラスなんだし、たくさんの思い出を作っていく予定よ! 私が率先して、みんなを繋ぐ架け橋になる。だからみんな、二年間よろしくね!」
誰もが呆気にとられる中、ポツリポツリと徐々に拍手が巻き上がっていく。そしてそれは時間を置かずして歓声に変わった。
「よろしく頼むぜーイインチョー!」
「フフ、あいつ言うじゃん」
「はあ……まったく遊は」
「私、如月さんと同じクラスになれてよかったかも!」
パチパチパチパチ……
七宮先生が制止するまでその拍手は続いた。たくさんの拍手に満足したのか如月は満面の笑みで教壇を後にして自分の席へと戻っていく。
だれもが期待に胸を膨らませる中、俺は顔を下に向け険しい表情をしていた。
(如月遊……か)
なるほど。名前を聞いてようやく思い出した。
あいつは、如月遊は俺が小学校の時に助けた大バカ女だ。
時の流れか当時よりも性格が大きくなっている気がするが俺の生活にとって厄介な存在になりそうだ。
(……けど、俺がやることは変わらない)
俺は俺のテリトリーを守るだけ。必要ならば、どんな非道な手段でもとろう。
「……」
そんなことを考えていた俺は、隣の席から注がれる視線に初めて気が付かなかった
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