第45話 お邪魔する
雪花がこれからどうするのか……とかそんなこと悠長に考えている場合じゃなかった。とりあえず、現在の感想を一言。
(どうしてこうなった?)
俺の目の前には大きな屋敷がそびえ立っている。駅の近くだというのに広大な土地を占めているあたり、相当なお金を持っているのだということがうかがえる。屋敷の全体が壁に囲われ、正面の大きな門には簡素な文字。
——雪花組——
あ、これヤバいやつだと思ったころにはすでに手遅れ。俺と七瀬は促されるようにその中へと入ってしまった。
なぜこうなってしまったか。それは先ほどの雪花の一言に尽きるだろう。
『……恩には恩で返す。それが私たちの家訓』
取り巻き達の蛮行を許してくれたこと。それ自体を雪花は恩だと感じたらしい。そして家に招かれることになったのだ。もちろんおれは急いでその場を離れようとしたのだが……
「「「……」」」
すぐさま取り巻き達が行く手を阻んできた。きっと俺が行かないとそれはそれで酷い目に遭わされるという暗示なのだろう。俺的には七瀬だけでも十分だと思うのだが。
加えて、俺が七瀬につけられる前に目的地にしていた駅と雪花の家の方向が一緒だったのだ。七瀬曰く
『方向が一緒ならご一緒しましょう、センパイ!』
七瀬にそんな感じで話をまとめられてしまった。そんなこんなで、俺は雪花の家に招かれることとなってしまったのだ。
ギィィ……ッ。
重苦しい木製の扉が開く。どうやら家の敷地に入るにもこの門を通らなければならないようだ。雪花が先行で歩き出した途端、大勢の男たちが庭に集結し雪花を出迎えた。そして
「「「「「「「「「「「「「「「おかえりなさいませ、お嬢!」」」」」」」」」」」」」」」
「……」
雪花は無言でその中心を通っていく。その様はまさに女帝のようだった。ゴク〇ンに出て不良たちの担任をしていても何ら違和感はない。というか、ガチ感がすごかった。
「……あいつは?」
「へい。坊ちゃんなら今日の帰りは遅くなるとのことで。なんでも新作ゲームがちょうど今日発売とかなんとか」
「……ああ。私もアマ〇ンで頼んでだやつか」
(坊ちゃん?)
新たな不穏ワードが聞こえてきたが、今は関係ないのでスルーすることにする。そうして俺と七瀬は促されるように玄関をくぐっていった。
「……センパイ今更なんスけど、自分たちとんでもないとこに来ちゃったんじゃ?」
「……お前、アホの子とか呼ばれたことないか?」
「ちょ、酷いっスよ!」
小さな声で小突きだす俺たち。俺でさえ緊張感が結構すごいのだ。七瀬も俺と同等以上の緊張感を味わっている事だろう。
そして俺たちは少し広めの和室へと通された。部屋の中心には囲炉裏のようなものがあり、使い込まれているであろう箸のようなものが傍に置いてあった。おそらくここの家主の趣味だろう。
一応マナーに従って奥の方を選び腰を下ろす。後ろをひょこひょこついてきていた雪花も俺の動きを模倣するように自然な動作で隣に腰を降ろした。
「雪花センパイ、すごい人だったんスね」
「雪花というより、その親がだろうな」
「それにしても、雪花……雪花かぁ」
七瀬は俺の隣に正座し「雪花」という苗字を静かに連呼していた。この響きに思い当たることでもあるのだろうかと疑問に思った俺は、七瀬にそれとなく尋ねてみる。
「そんなに雪花って名前が好きなのか?」
「いや、そうじゃないんスけど、まさか……っスよね?」
そう言ってもごもご口を動かす七瀬。これ以上聞いても無駄だと思うし、別に知る必要はないであろうことなので俺はその話題をスルーする。
そしてしばらく時間が経ち、襖がゆっくりと開かれた。
「……」
(……なんだあの恰好?)
着物(?)に着替えた雪花がお盆を持ちながら俺たちの方へと歩いてきた。盆の上にはお菓子と冷たいお茶が載せられており、雪花はそれを俺たちへと差し出してきた。
「……あいにくとこんなものしかなかった。とりあえずこれで勘弁しろ」
「おお、ありがとうございますセンパイ」
何事もなかったかのように出された和菓子を頬張りだす七瀬。確かこれは駅の中で営業してる高級老舗店で売られているもののはずだ。先日義姉さんとスイーツバイキングに行ったこともあるのだが、もしかして俺は甘味系を司る星に愛されているのだろうか。
だが、それより気になるのが……
「それよりもセンパイ、綺麗な着物っすね。お綺麗っス」
「……当たり前。オーダーメイドして作った特注品」
(いや、どこからどう見てもコスプレだろ)
でなければ、漫画やアニメのデザインが描かれた着物など着ないだろう。確かあの着物に描かれているキャラクターは、今期のアニメで人気を博していたキャラだった気がする。あんなものまで作らせていたのか。
『……一応これは世に出たらマズイものだから、私が預かってガラスケースで厳重に保管しておく』
あのフィギュアの時はあんなことを言っていたくせに、てっきり自分も手を染めている。ブーメランとはこのことを言うのだろう。というか、あの時一体どんな気持ちで怒っていたのだろう。
「……とりあえず、そのお菓子とお茶で今回のことは水に流してほしい。一応用意できる中で高水準なものを用意した」
「セ、センパイにそこまで言われてしまったら、水に流さないわけにはいかないっスね~。もともと許してたっスけど」
「……感謝」
七瀬は高そうな和菓子に夢中になっているため気が付いていないが、雪花は安心しきっている顔をしていた。もめ事になったらいろいろと厄介だということは知っているであろう反応だ。というか、今まで似たようなことがあったのかもしれない。
しばらく時間が過ぎると先ほどの三人の取り巻き達が土下座をしに部屋に入ってきたり、いきなり雪花が七瀬にゲーム勝負を仕掛けたりと、色々な余興が始まった。
「おりゃ、うりゃ」
「……やるな、後輩」
意外にもオタクである雪花に善戦する七瀬。その後しっかり敗北し、俺たちは帰宅することとなった。
(初めて高校生らしいことをしたかもな)
誰かの家にお邪魔するなど、人生で初めてだったかもしれない。今まで悪そうなやつらのところに乗り込むことはあったが、それ以外の人たちのところへお邪魔する経験はほとんどなかった。あの新海と過ごしていた時ですらだ。
そうして俺と七瀬は一緒に雪花家の門を出る。それと同時に俺と七瀬は雪花に見送られ別々の方向へと足を進めていった。なんやかんやで疲れてしまった俺はまっすぐ家に帰宅することにした。
(あいつが俺をつけた理由は謎だが、敵意がなさそうなのが分かっただけでも収穫か)
そう思うことにして七瀬のことはいったん放置することに決めた俺。別れ際まで丁寧だったその姿は、誰かの姿と重なったように見えた。
(……そういえば)
なんやかんやで一時間弱の時間を過ごしてしまい外はすっかり暗くなってしまったのだが、俺はハタと気づく。
あれ、何か忘れているような……
——あとがき——
ごめんなさい、最近忙しすぎて完全に更新が滞ってしまいました。やめる気はないのでそこは安心してほしいのですが、来週にテストが迫ったりと何気にピンチなもので、この状況はまだしばらく続くかと。イライラを募らせてしまい申し訳ございません。
追記:まだまだ拙いこの作品に、コメントや応援などをしてくださりありがとうございます。返信する時間はあまりとれていないのですが、一つ一つきちんと目を通しており、日頃の励みにさせていただいています。
皆様のおかげで、更なる高みを目指していけそうです!
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